SS とある王都民の不思議
俺は王都で住んでいるしがない王都民の一人だ。
仕事と言えば、道路や壁を掃除する清掃員というモノで、清掃員は王都で最も人気がなく、蔑まれている職業でもある。
そんなとある春の日。
王城から大々的に依頼が入り、俺達はこれから王都の道路を今まで以上に綺麗にしてくれと頼まれた。
理由は分からないが、宰相様が直々お越しになってお願いされた上に給金も二倍をくれるというので、俺達は道路を精いっぱい清掃した。
清掃が終わった日に、何となく「あの……どうして道路清掃にこんなに給金をくださるのですか?」と給金を渡してくれた役員様に聞いてみると、「実はな、明日とある方達が王都を周回するんだ。君もぜひ見るといい」と言われた。
王都を周回?
いまいち意味が分からないけど、せっかく頂いた給金だし、明日は休日でもあるので見てみようと思う。
それにしても、王国が決めた休日って、なんて素晴らしいんだろう!
今までと給金が変わらないのに、五日に一度休日がある事がこんなにもイキイキするとは思わなかった。
次の日。
俺は言われた通り大通りに出てみると、休日もそうだが、想像以上に人が集まっている。
しかも大通りを通れるように、真ん中に道を作ってそれを囲う形で眺めているのだ。
王様でも回られるのかな?
と思った矢先。
大通りに「来月の夏から販売予定の新しいスカートです~! ぜひ購入して試して見てください~! スカートの中には、新しくレギンスというモノも一緒に販売しておりますので、一緒に購入してください~!」という可愛らしい声が響き渡った。
人の声がこんなに反響するなんて!
そう言えば、以前にも一度聞いた事があるような気が……?
それはそうと、新しいスカートってなんだろうか?
道沿いは女性で埋もれているので、俺も他の男性も恐る恐る彼女達の後ろから眺めた。
……。
……。
……。
ああああああああああああああああああああああああああああああ!
ああああああああああああああああああああああああああああああ!
ななななななななななななななな!
なんて素晴らしい光景でしょう!
美しい女性の皆様が、あんなに短いスカートを!
ぐはっ。鼻血が!
あ、足が!
足が見えるじゃないか!!
あ、あのお方は!?
教会でも超有名な超美人ソフィア様では!?
なんて美しい――――足ぃいいいいいい!
それにソフィア様だけじゃない。
その隣に立たれている金髪の女性は、もはや女神様にしか見えない!
なのに、あんな黒い衣装の短いスカートが、逆に似合う!
似合いすぎて、王都の女神像の全てにあの衣装を纏わせたい!
というか女神像の衣装はあれが正解だろう!
ふ、ふ、ふ、太ももがああああああああ!
他にも活発そうに手を振っている可愛らしい金髪の嬢ちゃんと、そっくりな大人の女性がまた良い!
太ももはチラッとしか見えないが、俺的には大人の女性がとても好みだ!
い、一体誰が考えたのだ!
こんな素晴らしいスカートは!
俺はただただその一行に見取られて、気づけば彼女達が貴族街に入るまで追っていた。
◇
夏。
遂にこの日が来た。
王都にある『ペイン商会』と『ワルナイ商会』という商店で、『ラウド商会』が『ミニスカート』というモノを販売する日がやってきた。
言うまでもなく、店の前は長蛇の列。
既に俺は店の前でロープを張り、順番待ちを混まないようにしている。
俺は…………この日の為に、整理員という仕事に応募したのだ!
とんでもない数の倍率だったけど、普段から道路の掃除を頑張っていたのを評価されて採用された。
むしろ、見られているとは思いもしなかったから、こんな清掃員を覚えてくれてるだけで嬉しいものだ。
店の前には、王都内の全ての女性が集まっているんじゃないだろうかと思うくらい、女性で溢れている。
そりゃ……あのスカートは衝撃的なモノだっただろう。
この店は、みんなの休日に合わせて、逆に休日しか開かない店となっている。
中々珍しいやり方だけど、この人数なら一日で十分に稼げるのだろうか。
そして、ついに店の前に立ててある木の板が外れる。
中に店員と奥に大量に積まれている『ミニスカート』の数々に、待っていた女性達から黄色い声が響く。
まもなく販売が始まる――――と思った時。
店員が全員外に出て、店を向いた。
そして。
「「「「「クラウド様! 忠誠を誓います!」」」」」
店員は店に土下座をしながら、そう叫んだ。
それを三度繰り返すと、何もなかったかのように店の中に入っていく。
こ、これは一体?
少しして、店の販売が始まり、ものすごい量の『ミニスカート』が売れていくのが見えた。
俺はとんでもない数の人々の列に悪戦苦闘しながら、仲間達と共にその日を乗り切った。
ラウド商会の販売が終わり、俺達は人がいなくなった店の前で倒れ込むように座り込んだ。
こんなに大人数の整理をしたのは、人生初めてだ……。
その時。
店員が全員出て来て、先程と同じく店に向かって土下座しながら「クラウド様! 忠誠を誓います!」と三度叫んだ。
店員達は一体何をしているのだろうか?
その時。
「皆さん。お疲れ様でした。これをどうぞ」
俺の前に一本の果実水が入った瓶が渡される。
これは最近巷で流行りの『ジュース』と呼ばれている果実水だ。
その瓶を取りながら、俺は渡してくれた人を見てみた。
「っ!? め、め、女神様!?」
「ん? ふふっ、女神様じゃないですよ~『ラウド商会』で働いてくださってありがとうございます――――――ヘンゲルさん」
――――――ヘンゲルさん。
――――――ヘンゲルさん。
――――――ヘンゲルさん。
その日の記憶がない。
俺の前にあの女神様が現れて、美しい姿――――足も素晴らしかった。
彼女が渡してくれた『ジュース』は今までの人生で口にした全てのモノの中で、最も美味しかった。
もはやあの瓶は、神棚を作り祀ってある。
それから毎週の休日に俺は王都にある『ラウド商会』の『ミニスカート』販売整理員をしている。
今日も店員が外に出て来た。
整理員の俺達も彼らの横に立つ。
そして。
「クラウド様! 忠誠を誓います!」
これは、俺達に幸せをくれる魔法の言葉になっている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます