第126話 市場調査

「ねえねえ! 見て! 勇者様の人形買えたの!」


「わたしは聖女様のお人形買って貰えたんだよ!」


 二人の幼女がお互いに買って貰った人形を見せあっている。


 本日はアーシャに連れられ、王都の市場調査に出掛けているのだ。


 今や魔族は味方だという発表がされたが、それを成したのは勇者と聖女という事になっている。


 サリーのシナリオでは、僕がそうするという事になっていたけど、断固反対した。


 王国民の誰彼も構わずクラウド様と呼ばれたくはないからね。


「それにしても人気だね~」


「…………」


「あら? クラウドは嬉しくないの?」


「う、嬉しくないよ!」


 そう。


 今や市場で最も人気なのは――――



「爆売れ中! あと十点で品切れだよ! 銀貨一枚の安さだよ!」


 人形一つで銀貨一枚って銅貨一枚でパンが一つ買える事からしたら、凄く高い気がするんだけど、意外とそうでもないらしい。


 この世界では食料よりも素材の方が高いから、人形一つで銀貨一枚は、寧ろ安い方に入るそうだ。


 そして、問題の売っている人形…………。



「さあさあ! あと七つ! まもなく売り切れですぞー! 『爆炎の騎士様』ですぞー!」



 …………。


 彼が売っている人形はとある人を模して造られている。


 青い髪、明るい灰色の瞳、カッコいい顔。


 そこに真っ赤に燃えるようなマントを羽織っている人形。


 ――――そう。勇者の兄である僕を模した人形である。


 『勇者の兄、爆炎の騎士様』。


 それがその人形の名前で、いま王国全土で最も人気が爆発している人形である。



 因みに、中には『特別版』というのが、売られていたりする。


 背中についているマントの内側に僕のサインが入っているモノがあるのだ。


 その人形は現在、世界にたった三十点しか売られていなくて、ものすごい高価なモノとなっている。


 なぜか貴族の中で大人気だそうだ。


 アーシャの気遣いで、僕とティナの人形は手を繋げる仕組みになっていて、両方一緒に飾っている人も沢山いるそうだ。


「は、恥ずかし過ぎる……」


「ふふふっ、でもクラウドは本当にカッコいいんだから、胸を張って欲しいかな? ねえ? 婚約者様?」


「う、うん…………頑張るよ……」


 アーシャがいたずらっぽく笑った。




 ◇




 市場調査を終えた僕とアーシャは、そのまま表道から逸れた場所にあるレストランに入った。


 ここは最近密かに人気が出ているレストランだという。


 中に入ると、こじんまりとしたレストランがとても落ち着いた雰囲気だ。


 出迎えてくれた可愛らしい店員さんに案内され、メニューを渡されて、アーシャと一緒に色々注文する。


 実は、これも市場調査の一環だ。


 これは、今の王都で好かれているメニューを調べる調査である。


 表のレストランは全て調べが終わっているので、こうして密かに人気を集めている店のメニューを調べるのだ。



 少し待つと、出された料理はあまり見た事がない料理だ。


 どれも美味しくて、すっかり夢中になって食べ進め、完食までしてしまった。


 値段もリーズナブルな価格で密かに人気が出ている理由も納得だ。




 ◇




 今度訪れた場所は、教会だ。


 実は教会には大きく分けて二つの顔がある。


 一つは女神様を祀り、祈りを捧げる普通の顔だ。


 そして、もう一つの顔は、信仰ではなく、『販売』の顔がある。


 販売する物はたった一つ、それが『聖水』だ。


 普通の水に祈りを捧げて作る『聖水』。


 使い方色々あるが、最も多い使い方は飲んで回復させる薬として使われる。


 向こうでいうならゲームとかに存在する『ポーション』が該当する。


 それ以外でも、そのまま武器に振りかければ暫くの間『聖属性』を付与出来るので、魔物により高いダメージを与えられるというので、多くの冒険者や狩人が買っている。


 しかも、この『聖水』、何より凄いのは、その安さだ。


 普通の水より少し高いくらいだ。


 数十年前、前教皇まではものすごく高額で売っていたそうだが、今のダニエル教皇様になってからは、こうして激安価格で売っているのだ。


 だって、水の前で祈りを捧げただけで作れるからね。


 多少魔力を使うので、無限に作れるわけではないけれど、それくらいで以前は普通の水の数万倍で売っていたそうだから、それは酷いなと思ってしまう。


「あっ! クラウド様! いらっしゃいませ!」


 販売を手伝っていたソフィアさんが僕に気づいて手を振る。


 僕とアーシャが小さく会釈すると、満面の笑みを浮かべる。


 そして。


「兄さん!」


「アレン。手伝いお疲れ様~」


 アレンは毎週休日になるとここに手伝いにくるのだ。


 報酬を貰うと、仕事になってしまうので、休日にならない。


 なので全てボランティアでやっている。


 要な好きに商売を手伝っているから休んでいるのと違わない、というブラック企業みたいな――――ゲフン、ボランティア活動だ。


 まあ、アレンが自らそうしたいと言うのだから、止めはしないけど……。


 代わりに、これが終わるとソフィアさんと二人でデートに行けるというご褒美があるので、ぜひ頑張ってもらいたいね。



 二人は両方の親から公認で、正式的に付き合い始めた。


 魔族との和解の直後、アレンから告ったそうだ。


 それにも裏話があるのだが、それはまた後日。


 僕達は満面の笑みを浮かべた二人を労って、その場を後にした。

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