四章

第125話 クテア

 今では五日を一週間と呼び、四日平日、一日休日という流れで進む。


 各季節で月が変わり、一年が四か月。


 一月が九十日のこの世界なので、一月は十八週ある事になる。


 ちょっと週が多くて、向こう前世とは違うけど、だいぶ慣れた。



 人族と魔族が和解して数週間が経過した。


 ベルン領は空前の領民爆増により、食糧難に陥った! ――――というのは嘘で、実は全く食糧難に陥っていない。


 実は魔族達がベルン領の西側の森に住むようになってから、スロリ街の北部の山から大量のビッグボアが現れるようになった。


 ロスちゃん曰く、魔族から無意識に出ている濃い魔気の所為で近くの魔物が生まれやすくなったそうだ。


 本来なら大迷惑というか、深刻な問題になるのだが、ベルン領の狩人組にとっては格好の獲物なので、難なくビッグボアを討伐して食料を安定させてくれた。


 さらには、魔族による魔気により、大地の魔力もふんだんに上がった為、野菜などが土から魔力を沢山吸収できてとても実りが早くなり、沢山採れるようになった。


 それでも、それはあくまでベルン領ならではの事で、他領では深刻な問題に発展しかねないので、魔族達が住んでいる『マンション』から魔気を北部に向かって換気させる為の空調システムも考案した。


 それにより、魔族達が吸った空気は、『マンジョン』の最上部に流され、北部に向かって吐き出されるようにして、他領に被害がいかないようにした。


 この時、意外だったのが、魔族達の魔気って吐いた息から広がる事だった。


 それに誰も気づかなかったらしく、本人達もびっくりしている。


 そんなこんなで食料問題が解決したベルン領だが、次の問題が発生した。


 それは、『生き甲斐問題』である。


 生き甲斐問題とは!


 今の魔族達は安全な地域で生きるようになった。


 しかし、それは言い換えれば、生きていくのに不自由しなさすぎて、何をしたらいいのかが分からなくなるのだ。


 そういう事もあろうかと、父さんにお願いして、それぞれの魔族達に仕事の斡旋を行った。


 五千人のうち、強さ順で決める上列一位から百位。


 その中の十位未満の、元々強かった魔族達は全員警備隊に配属された。


 警備隊リーダーであるダークエルフのキルアさんの先頭に、彼らもベルン領を守ってくれる守護神になってくれるだろう。


 他にも戦闘に心得がある魔族達は狩人組に配属された。


 ただそれでも大多数の魔族達に仕事はない。


 という事で、料理に興味がある人は料理組、ものつくりに興味がある人は鍛冶組、組み立てるのに興味がある人は建設組に、その他にもハイエルフ達の植物を育てる栽培組や、頭の回転が速い魔族は商会に所属された。


 ――――その中でも、最も人数が多く、しかも凄い戦力になった事業部がある。


 それは――――。




「うん! やっぱり、みんな手が器用だね!」


 テーブルに沢山並んだ布や装飾。


 そのどれもが美しく飾り付けされている。


 それを手に感服する僕の婚約者の一人、アーシャ。


「あ、ありがとうございます! アーシャ総帥!」


 代表の魔族の女の子が嬉しそうに笑う。


 ここは、アーシャがベルン領で経営している『洋裁組』という施設だ。


 『洋裁組』は、現在ベルン領で急速に人気が出ている人形だったり、ファッション衣服だったり、飾り物を作る組である。


 アーシャに『デザイナー』という言葉を教えてしまって婚約までしてしまった。


 そんな『デザイナー』という言葉をより詳しく説明した時に、アーシャは水を得た魚のごとく、その才能を存分に発揮し始めたのだ。


 その甲斐もあって、ベルン領は空前の人形ブーム。


 さらには衣装ブームで、みんなが飾る事――――ファッションに気を使うようになっている。


 そんな『洋裁組』の一番の問題点。


 従業員が物凄く少ないのだ。


 こればかりは、才能なしではとても作れないのだ。


 ここでいう才能というのは、女神様から授かる才能ではない。


 アーシャのようにファッションに対する才能がないと、感覚が掴めず、衣服を作ることが難しいのだ。


 そんな中、魔族達の多くが手先が器用な事が発覚する。


 それに真っ先に飛びついたのがアーシャだ。


 たった数日でメッキメッキと上達した魔族達はアーシャから合格が出て、『洋裁組』に参加する事となった。



 そんな『洋裁組』が作った衣服や芸術品は、飛ぶように売れ、ベルン領の財政を築く。


 今までなら商会を通じてベルン領で狩った魔物の素材が一番の財政だったけど、それすら鼻で笑えるほどに売れるようになるのは、意外にもすぐの事だった。


 こういう芸術品にはブランド名を入れた方がいいとアーシャに伝えると、『クラウド印』にしようとしたので、断固拒否した。


 結局ティナとアーシャと三人で丸一日悩んで作ったのが、『ブランド、クテア』。


 名前の由来を知っているのは、僕達三人だけだ。




「お兄ちゃん」


「ん?」


「ブランド名によく名前いれたね?」


「へ?」


「お兄ちゃんってそういうの嫌うから珍しいな~って」


「えええええ!? なんでバレた!?」


 サリーは「え? バレバレだよ?」と凄く笑った。

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