第123話 宴会と古い友人

 現在、魔王城の前の平原では、宴会が開かれている。


 ベルン領から炊き出し隊を連れて来て、多くの魔族に炊き出しを振る舞っている。


 さらに砦にいた全ての騎士達も連れて来た。


 何故か一度も顔合わせをしていなかったのに、従属召喚で呼べたのだ。


 理由が知りたいとは思わない。


 ティナに言われたから呼んだだけ。うん。そういう事にしておく。


 それといつの間にか目覚めたアレンも来てくれて、思わず抱き締めた。


 そして、現れたサリーとティナとアレンとロスちゃんには、正座の罰を科した。


 どうやら僕に魔王を倒させる為、教会に訪れた時から作戦を考えていたそうだ。


 全ては『クラウド様による世界征服の会』というとんでもない名前の会の作戦であり、会長にサリー、副会長にティナとアレンが入っているらしい。


 僕が世界征服なんてするわけないでしょう!


 まったく!



 みんなには魔族を巻き込み過ぎたので、罰として正座の刑なのだ。


「お兄ちゃん~肉~」


「クラウド~私はスープがいいわ」


「兄さん。僕も肉が欲しいな」


【ご主人~早く~】


 …………罰とは一体?


 数分して、サリーが「足疲れた~」と言い出したので、罰は終わりにして、みんなと宴会に混ざる事にした。




 宴会は大盛況。


 母さん特製の炊き出しがとても人気で、人族も魔族も大いに盛り上がっている。


「ガーハハハッ! ロス殿、罰は大変だったの~」


【うん~、すごくたいへんだった~】


 ロスちゃんはただちょこんと座ってただけだっただろう!?



「勇者くん。本当は強いんでしょう? 今度お手合わせお願いね~」


「は、はい、でも僕は兄さんのように強くないですよ?」


「あんな化け物が二人もいるとなんて、寧ろ、怖いわよ」


 僕は化け物でも何でもないよ!?


 普通の貴族嫡男だよ!?



「聖女様。パンチ。強かった」


「うふふ、この『専属武装』のおかげね~」


「一撃で、ハーゲルが、ボロボロ」


「そんな事ないわ! 魔王くんはとても強かったわ!」


「うん。ハーゲル、弱い」


 ティナとキロレンさんの会話が噛み合っていないよ!?



「クラウド様。どうぞ」


「ノアさん。ありがとうございます。それと僕に『様』は付けなくていいですからね?」


「いえ、人だけでなく、魔族まで救ってくださったお方です。貴方は女神様にも匹敵します」


 僕は女神様じゃないですからね!?


 た、ただの貴族嫡男ですからね!?


「クラウド」


「うん? どうしたの? アーシャ」


「多分、思っている事、違うと思うわ」


「…………」


 最近アーシャにまでに心を読まれている気がする。




 ◇




「ロス殿、本当に久しぶりじゃの」


【うん~、グラハム、身体は?】


「ガーハハハッ! もうボロボロじゃよ」


【うん。後でティナにお願いしよう】


「…………老体をまだ働かせる気かい?」


【ううん。ご主人がいるから、これからのんびり生きればいい】


「…………クラウド様はそこまでのお方で?」


【ご主人は凄い】


「ロス殿がそこまで言うのだ、それにあんなに強いなら納得もするもんじゃ。そうか……世界は変わろうとするのだな」


【そうかもね~そう言えば、フェンリルが生きてた】


「なっ!? そ、それは本当なのか!?」


【うん。私がボコボコにした】


「……という事は」


【邪魔が入って殺せなかった】


「ほぉ……ロス殿でも手出しが出来なかったとは、一体どんな?」


【分からない。暗黒竜の気配もなかった。でもどこか懐かしい気配だった】


「そうか…………ふむ。その事はそれ以上は?」


【何もしてないし、ご主人にも言ってない】


「巻き込みたくないのじゃな?」


【………………うん】


「ガーハハハッ! でもあの男なら問題ないかも知れないぞ?」


【……そうかな?】


「ああ。思いっきり頼った方が喜ばれると思うのじゃ、ロス殿はあれ以降、一人だったのじゃろ?」


【うん】


「ガーハハハッ! では人との付き合いが長い俺様の見立てじゃ。間違いない。寧ろ――――言わないと怒られるぞ? さっきみたいに正座の罰を受けないといけないのじゃ」


【それは大変だ~今度ちゃんと相談するよ~】


「うむ! ――――――これからはこの老体も近くに居よう」


【いいの?】


「もちろんじゃ、こんなに面白いお方の隣に立てるのなら、本望じゃ、それに――――」


【それに?】




「魔族はクラウド様に助けられるのじゃろ? それならもう俺様がこの地を守る必要もなくなるのじゃ」




【そうだね~ご主人なら助けてくれるよ】


「ガーハハハッ! ありがたい限りじゃ! では魔族達の為にも老体に鞭でも打つかの~聖女様に頼んでして貰わないとな~」


【そんなにボロボロ?】


「おうよ~もう三百年、受けれてないからな~」


【…………よく生きてるね】


「ガーハハハッ! 根性よ!」


【さすがね、元――――――】


「………………懐かしいの、その呼び名。もう遥か昔に捨てた名じゃの」


 二人は懐かしむように、夜空を見つめた。


 遠くから、ロスを呼ぶクラウドの声が聞こえる。


 ロスちゃんはゆっくり立ち上がり、グラハムに挨拶を終え、自分の主人の下に帰っていった。




「ロス殿。良き主人に出会えたモノじゃな。――――――これも、運命なのかのう?」


 グラハムの寂しそうな声だけが、夜空に響いた。

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