第122話 真実

「あれ? 本当に貴方が魔王ですか?」


 すっかり怒りも消えて落ち着いたので聞いて見る。


【ご主人。それが魔王だよ~】


「あれ? ロスちゃん? そうなの?」


【うん~】


 いつの間にか僕の頭に乗ったロスちゃん。


「そっか…………え~アレンが負けた?」


 僕は疑いの眼差しで魔王を見つめる。


「あの……魔王様?」


「ハーゲルと呼び捨ててくださいませ!」


「え、え!?」


「もう命さえ助けてくださるなら、魔王の座などどうでもいいのです! あっ! どうでもよくはないです。グラハム様に殺されるかも知れないから!」


 …………ハーゲルさんって、何と言うか、大変そうだね?


 その姿にすっかり毒気が抜かれてしまった。


「ガーハハハッ! ハーゲルはこんなもんよ。おぬし、名は?」


「僕ですか? 僕はクラウドって言います」


「うむ。良い名じゃ。俺様はグラハム! 魔族上列二位じゃ」


「嘘ですよ! 元々一位ですよ! 我に魔王の座に座らせる為に二位になっただけですよ!」


 ハーゲルさんが言う通り、巨漢魔族のグラハムさんの方がはるかに強い。


 というか、グラハムさんって無茶苦茶強くない?


 何なら、アレンとまともにぶつかったら、アレンでも勝てないかも?


「なるほど……グラハムさんって、今まで見た人達の中で一番強いです。凄いですね」


「うむ? ガーハハハッ! 長く生きてるだけじゃ。それはそうと、おぬしは一体どういう存在じゃ? その頭に乗っているの、ケルベロスじゃろ?」


「「「ケルベロス!?」」」


 魔族達が口を揃えて驚く。


【おひさ~グラハム】


「おう! 久しいな! 友よ!」


「えええええ!? ロスちゃん!? 知り合いなの?」


【うん~昔の~】


 意外な関係を知る事が出来た。


 ロスちゃんって昔から生きているから、知り合いの一人や二人くらいはいるとは思っていたけど、まさか、魔族の中に知り合いがいるなんて……。


「ん? ロスちゃん?」


【なに~?】


「魔族に知り合いがいるなら、ロスちゃんが紹介してくれたら良かったんじゃないの?」


【ん~それもそうだけど、秘密にされてた~】


「秘密にされてた? 誰に?」


【会長~】


「会長!?」


 一体会長というのは誰!?


 そんなやり取りをしていたら、目の前の三人の魔族が震え上がっている。


 どうしたんだ?


「え、え、えっと、ほ、ほ、本当にケルベロス様?」


【うん~】


 ロスちゃんが緩い目のまま、前足を上げる。


「ガーハハハッ! 今日は久々に友と出会えたのじゃ、宴会と行こう!」


「グラハム様! 魔王城はもうボロボロです!」


「なぬ!? そうじゃった! ガーハハハッ!」


 魔族達のやり取りで意外さを感じる。


 何だか――――人みたいだ。


 人と同じく笑い、泣いたり、悲しんたり、怖がったり、同じように感情がある。


 ティナから聞いた通りだと、魔族同士の絆もしっかりあるという。


【ご主人】


「ん?」


【魔族、元々は人間】


 ……。


 ……。


 ……。


「えええええ!? 魔族って元々人間なの!?」


「「「えええええ!? 我々って元々人間ですか!?」」」


「ガーハハハッ! 懐かしいな~」


【うん~】


 魔王城の上空に、僕達の驚きの声が響き渡った。




 ◇




 勇者と魔王が戦った時の事。


 アレンが召喚した光の剣一本で魔王に仕掛ける。


 魔王は自分の剣を振るえる手で応戦する。


 カーン!


 魔王の剣に光の剣がぶつかった瞬間、光の剣が割れた。


「は?」


「うわあ~やられた~」


「……?」


 そして、ぐるっと回ったアレンがその場で倒れた。


「!? あ、アレンくん!」


 ティナがその拳に光を纏わせ、ヒュイを一撃で吹き飛ばして、アレンに飛んでくる。


「あ、アレンくんが……負けた!?」


「は?」


「…………魔王。あなた、強いのね」


「は?」


「えっと、追いかけて来られても困るし、一撃入れておこうかしら」


「は?」


 ティナは目にも止まらぬ速さで、魔王に腹パンチを決める。


 魔王はそのまま吹き飛び、壁に埋もれて気を失うのだった。


「アレンくんがやられるなんて……やっぱり私達では魔王を倒すのは無理のようね!」


 そう話したティナは、アレンに睡眠魔法物理的に腹パンチを使う。


 ドゴォン!


 魔王城の前の平原に空しく響く音。


 そして、ティアはアレンを担いでスロリ馬車に逃げ込んだ。


「ノアさん! 勇者アレンが魔王にやられました!」


「…………俺にはティナ嬢に――――」


 ギロッ


「いや、魔王が強すぎたな」


「ええ。とても強すぎました。アレンくん……魔王にこんなにやられてしまって……ソフィアさん回復をお願いします」


「え、えっ!? は、はい!」


 ソフィアは急いでアレンに回復魔法を使う。


 彼女はどうして回復魔法が必要なのか、全く理解出来なかったが、先程のティナを見て、決して疑問に思ってはいけないと勘が働いた。


 チラッと見つめた父親も、溜息を吐いて、小さく頷いて返した。


 ティナ達は大急ぎて砦に着くと、敗北した事をみんなに告げる。


 しかし、何故か兵士達は落ち込むところか、歓声をあげた。


「これからクラウドに報告します!」


 ティナのその言葉があったからである。





 ――――これが勇者と魔王の戦いの結果である。

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