第121話 魔王?vsちょうきょうし

 ロクが向かった場所には大きな城が見える。


【ご主人様、あれが魔王城よ!】


「そうか。ありがとう。あそこに降ろしてくれ」


 ロクが魔王城の前に降りると、魔王城から悲鳴やら色々聞こえてくる。


 少しすると、奥から大きな力を持った魔族が四人ほど姿を見せた。


 すぐに僕の前に出てくる。


 その中の巨漢がきっと魔王なのだろう。


 今まで出会った事がないくらい、凄まじいオーラだ。


「お前が魔王か」


「ん~、残念ながら魔王ではないが…………ハーゲル。あいつが勇者なのか?」


「い、いいえ?」


「ん? 違うのか? じゃあ、お前は誰なんだ?」


「――――僕は勇者の兄だ」


 そう告げると、包帯にぐるぐる巻かれてボロボロになっている魔族が、大声で叫んだ。


「あああああああ! こ、こいつです! こいつが、あの悪魔・・の兄です!」


「ほぉ…………そうか。あれの兄か」


 あれだの悪魔だの、うちの可愛い弟をあんなにしておいて、酷い言い様だ。


 僕は問答無用に光の剣を三百個ほど出現させる。


「ぎゃあああああ!」


「あちゃ…………あれよりヤバいのかよ……」


「……グラハム、大丈夫?」


「いやいや、さすがの俺様もちーと厳しいな、まあ、やれるだけはやってやるがな」


 魔族が何かごちゃごちゃ言っている。


 だが、僕は今、怒りがピークに達している。


「よくも僕の可愛い弟をあんなにしてくれたな!」


「はあ!?」


 包帯の魔族が叫ぶ。


 その後、巨漢魔族が僕の前に対峙する。


「まあ、喋る為にここに来たのではないだろう?」


「…………ああ、弟の、取らせて貰う!」


 僕が光の剣を仕掛けるが、直ぐに巨漢から闇の玉が数百個現れ、それぞれ僕の光の剣を飲み込んだ。


 一つ一つが爆音を響かせ、平原には爆熱風が周囲に広がる。


 直ぐに巨漢魔族が僕に接近攻撃を試す。


「ふんぬっ!」


 大きな声と共に、その巨大な拳が凄まじい速度で僕に振り下ろされる。


 けれど、僕はオーラを全身に纏い、そのまま拳を軽く受け止めてみる。


 案の定、難なく受け止められた。


「これはまた……」


 既に僕の後ろの地面には無数のヒビが広がり、巨漢魔族の力が伺える。


「今度は僕の番だ」


 右手を前にかざすと、僕の周囲の熱風が上がり、やがて真っ赤なマントになった。


 この状態になると、全身が『炎神ノ降臨』という状態になる。


 理由は分からないけど、僕が着用するとこうなるそうだ。


 こうなると、周囲の空気すら蒸発させるくらいになる。


 予想通り、この状態になると周囲の景色が歪む程、熱気があがる。


 そんな神器を解放した僕は、右腕に神器の力を蓄える。


 そして、――――


「炎龍極絶拳」


 僕の右手に燈った龍の形の炎が、巨漢魔族に直撃する。


 巨漢魔族が大きな声を発しながら、僕の攻撃を受け止める。


 しかし、数秒で巨漢魔族は防ぎ切れず、そのまま吹き飛ばされ魔王城にぶつかり、爆音と共に魔王城の上部が吹き飛んだ。




「な、な、な、なああああ!? グラハム様があああああ!」


 包帯の魔族が叫ぶ。


「はぁ……僕達もここで終わりかね~」


「仕方ない。ハーゲルが馬鹿やったから」


「ひい!? だ、だって……勇者が……」


 ん? 勇者?


 その時、魔王城の方から大きな叫び声と共に、巨漢魔族がこちらに飛んできた。


 着地と共に地鳴りが響き、巨漢魔族が片膝をついた。


「はあはあ……俺様ですらたった一発かよ、ガハハハッ!」


 僕は再度構える。


「おいおい、容赦ねぇーな。参った! 参ったわ!」


 巨漢魔族が両手を上げて参ったと呟く。


「…………僕は弟をあんなにボコボコ・・・・にした君達を許さない」


「はあ!? ボロボロにされたのはこっちだよ!」


 包帯魔族が叫ぶ。


 ん?


「そもそも、あの勇者め、猿芝居でやられやがって! た、確かに我も勇者に驚いてしまって魔物の大軍を仕掛けてやったがな! 我だって騙されたのだ! あの女に! ジクシアに!」


 騙された?


 ジクシア?


 猿芝居?


 良く分からない単語が並ぶ。


 包帯魔族が必死に叫ぶものだから、少し拍子抜けしたので、ゆっくり見渡す。


 巨漢魔族は両手をあげて降参している。


 包帯魔族は何かを叫び続けている。


 もう一人の包帯の子供魔族はずっと溜息を吐いている。


 最後の一人の目が死んでいる魔族はただ僕を見つめている。


 何だか、まとまりのないパーティーだね。


 魔族ってこんな感じなのか?


「お、おい! 勇者の兄!」


「ん?」


「そ、その、なんだ。俺が今代の魔王ハーゲルだ!」


 え!?


 包帯魔族が魔王だったの?


「あれ? でも、君が一番弱い・・よね?」


「知ってるわ! グラハム様に魔王をやれと言われたんだよ!」


「ガーハハハッ! こんな面倒ごとはハーゲルが適任じゃろう!」


「グラハム様! それで勇者を我に押し付けないでくださいよ!」


「うむ。勇者の子くらいなら何とかしてあげれたかも知れないが、こいつは無理だ。次元が違い過ぎる」


「えええええ!? グラハム様でも!?」


「おいおい、さっき見てなかったのか? 俺様が一撃で吹き飛んで、もうクタクタだぞ?」


「…………」


 包帯魔族は諦めた表情を浮かべ、溜息を吐いて一歩前に出た。


 そして。










「勇者の兄様!! どうか、命だけはお助けください!!!」


 と土下座しながら叫んだ。

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