第119話 勇者と聖女と魔王

「ヴァレヒトさん。私達はこの戦いを終わらせなければなりません。ですから協力してください」


「…………はっ。我々一同、これからクラウド様の為に尽くして参ります」


 既に魔族達はクラウド様に忠誠を誓うと声高らかに謳っていた。


「彼も喜んでいます」


 ――――それは嘘である。クラウドはずっと困惑していた。


「あ、ありがたき幸せ!」


「ふふっ。それはそうと、魔族の皆さんを救うには、まず王である魔王様とお話をさせて貰わなければなりません。ですから、魔王城に行く道案内お願い出来ますか?」


「はっ。お任せください。現魔王様であるハーゲル様の下にご案内致します」


「ええ。お願い」


 こうして、勇者一行は魔王の企みなど無視して、真っすぐ魔王城に向かう事となった。




 ◇




「…………珍しいな、ヒュイ。キロレン」


「……おい。ハーゲル。なんか偉そうだな?」


「ひ、ひぃ!? だ、だって儂が魔王だし!」


「…………」


 ヒュイと呼ばれた魔族が魔王ハーゲルに向かって下に指さした。


「ははっ! た、ただいま!」


 凄まじい速度でヒュイの前に土下座する魔王。


「ったく。めんどくさいから上列一位にしてあげているんだから、あんまり調子乗ると…………潰すぞ?」


「ひ、ひぃ! ご、ごめんなさい!」


「ヒュイ。それくらいでいい。それよりも、あの件を聞くべき」


「ああ、そうだった。おい、ハーゲル」


「は、はい!」


「お前さ、あれだけ多かった魔獣共をどうしたんだ?」


「えっと……人間共にけしかけました」


「…………あちゃーやっちゃったか」


「……ハーゲルが、ここまで無能だとは」


 二人の魔族が項垂れる。


「ハーゲルくん。君、どうやって責任取るつもりなの?」


「へ?」


「あんな大軍を仕掛けたら、人族の怖~い人やってくるわよ?」


「…………だ、だって! 勇者が生まれたとかいうから!」


「ん? それ本当?」


「え? そうですよ? 僕のメイドがそう言ってました」


「…………ハーゲルにメイド? 誰? 連れて来て」


「は、はい。お~い! ジクシア~!」


 ……。


 ……。


 ……。


「おい、ハーゲル」


「ひい! 今すぐ探してきます!」


 ハーゲルが全速力で魔王城を隈なく探す羽目となった。




「キロレン。ジクシアって名前に心当たりは?」


「ない。初めて聞く」


「……キロレンでも知らない魔族・・か」


「ありえない」


「だね。――――となると、一体どこの誰なのか、会うのが楽しみだね」


「多分魔王城にいないと思う」


「え? どうして?」


「ここに十傑がいない間に、ずっとハーゲルを誘導していた輩なら、多分僕達が来た時点で逃げると思う」


「そうか…………ちっ。それにしても勇者か」


「勇者は駄目」


「そうだな。よりによって、グラハムが隠居したこの時に……」


「グラハムでも、勝てるかどうか」


「本当嫌になるわね。人間というのは、どこまで我々魔族から居場所を奪えば気が済むのやら」


「多分永遠に……そういう種族だから」


 二人の表情が曇る。


「焦ってもしゃーね。キロレン。悪いけどグラハムを探してくれ」


「……分かった」


 キロレンと言われた魔族がその場から消える。


「さて……ハーゲルはともかく、勇者がくるなら何とか足止めくらいはしないとな」




 それから数刻が過ぎ、勇者一行が魔王城の前に着いたという連絡がヒュイとハーゲルの下に届いた。




 ◇




「スロリ馬車恐るべし……」


 ヴァレヒトは凄まじい速度で魔王城まであっという間に着いた馬車に驚きを隠せなかった。


 今の勇者一行が乗っているスロリ馬車は、戦争仕様で、ファイアウルフが数十頭が率いてとんでもない速さで走れる代物である。


 本来の馬車なら一週間かかる場所ですら、数刻で着いた。


「これがクラウドの力よ」


「っ!? さ、さすがはクラウド様!」


 ティナがサリーのドヤ顔を真似る。


 ちょっとだけ似てて可愛い――――とクラウドがいたら思っただろう。


「それにしても魔王城って大きいね」


「そうね。思っていた以上に立派だわ」


「はい。魔族もこの地でそれなりに生きれるようになって、力の象徴として作られたと聞いてます」


 勇者一行が魔王城を見つめながら感服していると、向こうから勇者一行に向かってくる一団がいた。


「あ、あれは!?」


 遠目からでも分かるようで、ヴァレヒトが驚いた。


「知り合い?」


「知り合いというか――――現、我々魔族の王、ハーゲル様です」




 一際大きい身体に禍々しい雰囲気で、頭には魔族を表すかのような角が二つ。


 しかし。


「でもなんか肩車しているけど……」


「…………えっと、たしか、ヒュイ様ですね。上列五位の実力者ですよ」


「ああ、魔族の強さで順位が決まるという上列ね。という事は五位と一位がいるって事ね?」


「そうでございます」


 少しして、勇者一行と魔王一行が対峙した。




 ◇




「私は『聖女』ティナ。こちらは『勇者』のアレン。貴方が魔王ですね?」


「…………」


 魔王は何も言わず、ティナを睨み続ける。


「ハーゲルくん。あまり睨んでばかりだと話が進まないよ?」


 ハーゲルの肩に乗っているヒュイが呟く。


「で、でも、勇者ですよ!? どうするんですか!?」


「ん~、とにかくキロレンがグラハムを見つけてくるまで、何とか耐えるしかないよ」


 二人の小声が勇者一行にも聞こえていた。


「…………えっと。どっちが魔王様です?」


「わ、我が魔王のハーゲルである!」


「…………あなたは?」


「僕はヒュイ。上列五位の魔族だよ」


「えっと、スタンピードの件でお聞きしたい事がありまして」


「スタンピード? 魔物を仕掛けたあれかい?」


「ええ」


「それはこのハーゲルが勝手にやったことなんだよ」


「だ、だって! 勇者が現れたと言われたら、殺される前にやるしかないでしょう!」


「ハーゲルは黙って」


 ヒュイがハーゲルの頭を叩く。


「ふふっ、お二人は仲が良いのですね」


「ま、まーね。それで、君達は僕達をどうするつもりなんだい?」


「そうですね。ああいうスタンピードで大きな犠牲が起きましたから、もう二度と起きないように――――――あなた方を成敗しないといけないかなと思いまして」


「…………そうか。分かった。そればかりはハーゲルのバカがやらかした事だけど、やっちまった事は仕方ない。戦うしかないね」


 ハーゲルと勇者。


 ヒュイと聖女。


 それぞれ対峙する。


 そして、人類の未来を掛けた戦いが――――――始ま……?






――――3.5章の案内――――

 本日の話で3.5章が終わりを迎えます!

 次話から普通の三章に戻ります。

 三章ラストパートです!

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