第118話 勇者と聖女の救済
それは人族から『魔王』が誕生し、世界がまた混沌に包まれたが、再度現れた『勇者』によって今度こそ『魔王』が消滅した後の話である。
『魔王』が滅びて数十年後。
既に世界に勇者はその命を全うし、世界は勇者がいない時期を迎えた。
そして、世界は二度と魔王の暗躍を許さまいと、聖騎士を動員し、世界の西側に砦を立てた。
それが現在も続いている砦『ホープ』である。
その砦は代々聖騎士が管理し、各国でも兵士を出して西側に追いやった『魔族』をけん制する役名となった。
それから更に数年後。
遂に魔族達は虐げられた生活に嫌気がさし、砦に出てくるが、聖騎士達により無残にも斬り捨てられた。
多くの魔族は生き延びる為、仕方なく『呪われし大地』に戻るが、それから数十年が経過しても環境は一向に改善せず、またもや砦に姿を現した。
既に時が過ぎ、砦の面々が変わり、魔族達にとっては大きなチャンスと思えた。
しかし、彼らを待っていたのは、残酷な現実だった。
見るや否や、敵と判断され、すぐに斬られてしまう。
多くの魔族が犠牲を出しながらも訴え出た。
その時、たまたま滞在していた枢機卿が彼らにこう話す。
「もし、魔族がこれまでの非道を反省するのであれば、『罪人』らしく『呪われし大地』で生まれる魔物を処分しなさい。その見返りとして、我々から食料の援助をしましょう。さらに、これを三百年続けたら、その『罪』は許させるでしょう」
魔族達は苦渋の選択をせざるを得ず、その申し出を受け入れた。
それから三百年。
魔族は魔族なりに、自分達のコミュニティーを形成し、必死に三百年生き延びた。
しかし、彼らを待っていたのは、「まだ免罪はされません。そのまま続けなさい」という非情な結果だけだった。
それから二百年。
魔族は人間に復讐を誓い、力を集め、
◇
「何という非情な……」
魔族の言葉を聞いたソフィアは、思わずその言葉を口にする。
一緒に聞いていたノアも同じ気持であった。
「分かりました。貴方の話はしっかり聞き届きました。一度私達でその件を含み、考えさせてください」
「…………分かった」
ティナは一度馬車に戻る。
馬車の中は、暗い雰囲気だった。
あまりにも衝撃的な現実に、知らなかったからこその衝撃が多かった。
そして、ティナは風の精霊コメの力を使い、クラウドと連絡を取り、現状を報告し、意見を仰いだ。
◇
「魔族の皆さん!」
ティナが魔族の前に立ち、魔族を呼ぶ。
現在捕まっている魔族達がティナに注目する。
「これから皆さんに――――――炊き出しを実施します!」
その言葉が理解出来ない魔族達がポカーンとなる。
しかし、次の瞬間。
彼女の後方に美しい虹色の魔力の波動がうねり、その中から大勢の人が出て来た。
全員綺麗な制服を見に纏っており、それぞれの手には今まで味わった事もない美味しそうな匂いが広がる鍋を持っていた。
彼女達はとても慣れた手付きでテントを立て、料理を次々並べる。
大量の食事プレートが並び、一瞬で炊き出しテントが完成した。
「では、一人ずつ並んでください!」
ティナの言葉に未だ理解が及ばない魔族。
その時、馬車から降りた聖騎士団長ノアは、鎧を脱いだ姿で炊き出しに並んだ。
ノアもあまり慣れていない手付きで、メイドからたんまりと美味しそうな食べ物が載ったプレートを手渡された。
そして、ノアはそのまま魔族達が座らされている広場に向かい、地面に座った。
その圧倒的な匂いに、魔族達は唾を必死に飲み込む。
「い、いただきます」
ノアは恐る恐る食べ物をスプーンですくい、一口食べる。
「!? う、う、う、う、」
「「「「「う?」」」」」
「うまああああああ! こんなに美味い炊き出しなど食べた事がない!」
ノアは叫んだ。
全力で。
そのあと、ティナから「魔族の皆さんも並んでいいんですよ?」と言われると、魔族のみんなは我先にと炊き出しテントに走り並んだ。
ただ、ティナの視界には、魔族達の凄い絆を見る事になった。
貧困な生活を送っていた彼らだったが、真っ先に子供と年配の魔族に先に並ばせたのだ。
その姿を見たティナは自然と嬉し笑みが零れる。
そして、自身の婚約者にその事実を伝えると、顔は見えないが嬉しそうな返事が返ってきた。
最後に魔族の長であるヴァレヒトが炊き出しを受け取り食べる。
何百年ぶりかもわからないその美味しさに、魔族達は心の底から涙を流した。
「ティナ姉さん」
「うん?」
「魔族って僕達が思っているような、残酷な種族ではないのかも知れないね」
「そうね。でも中にはスタンピード決行するような悪い魔族もいると思うの。だから救える魔族は救うけど、戦わなければいけない魔族もいるかも知れないから、油断はしちゃ駄目よ」
「うん。それにしても、うちのベルン家炊き出しは魔族にまで人気になりそうだね」
「ふふっ、お義母さんのご飯は世界一美味しいからね」
数時間後、炊き出し大成功の報がエマに入ると、エマも大いに喜んだのは――――言うまでもない。
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