第117話 勇者と聖女の進撃

 人類が砦『ホープ』を守ってから数日後。


 遂に人類の反撃の時が訪れた。


「皆の者! ここには勇者様と聖女様がいらっしゃる!」


「「「「「おー!」」」」」


「さらには、私達にはクラウド様が付いている!」


「「「「「おー!」」」」」


「クラウド様により、我々から攻めて良いとの許可を得た! これから我々は魔族に攻め入る事にする!」


「「「「「うおおおおお!!」」」」」


 砦『ホープ』はかつてない熱狂に包まれた。




「では、魔王領に入るのは、勇者アレン殿、聖女ティナ殿、私聖騎士団長ノア、司教ソフィア、クラウド様の使いヘイリ殿で攻め入る。副団長はこのまま砦の防衛を頼む」


「はっ」


 大勢で向かう方が動きにくい事もあり、スロリ馬車に乗れる人数という事で、この五人となった。


 ヘイリが率いる馬車に四人が乗り込むと、ヘイリと一緒に来ているファイアウルフやウルフの大軍が馬車を囲んだ。


「では出発する! 砦の防衛は任せたぞ!」


「「「「「はっ!」」」」」


 こうして、勇者一行は魔王を倒すべく、魔王領に入った。




 ◇




「魔王様~」


「こ、こ、今度は何だ!」


「勇者が~現れたかも~」


「ひ、ひぃいい! もう来たのか!」


「うん~」


「ど、ど、ど、どうしよう! こうなったら十傑を呼ぶか!?」


「多分、誰も~こないと~思う~」


「…………はぁ」


 魔王は大きな溜息を吐いた。


「どうして僕が魔王をやってる時に限ってこうなるのだ…………」


「だって、魔王様一番弱いもん」


「くっ! そもそもだ! 十傑ほど強いやつらがいて、誰も魔王をやらないなんておかしいわ! それに困ったら助けてくれるって約束したではないか!」


「魔族に~約束なんて~」


「…………」


「でも魔王様~一つだけ~方法あるよ~」


「なぬ!? その方法とはなんだ!?」


「…………ふふ~ケーキ毎日三個増量!」


「なっ!? そ、それではあまりにも高すぎるではないか!」


 魔族にとって、甘い食べ物は、とてつもない贅沢品である。


「む~じゃあ、二個」


「い、一個じゃ! 既に毎日六つも貰ってるじゃろ!」


「え~分かった~一個増量で~」


「それで、その方法とやらはなんだ?」


「凄く簡単~勇者達を~十傑領に~向かわせる~」


「!? そんな方法があったな! よし! それでいこう!」


 魔王は勇者一行を自分ではなく、十傑の所に誘導する作戦に出た。




 ◇




 魔王領、最初の町。


 町の中から叫び声が響き渡った。


 何故なら――――。


「くふふふ! 僕の久しぶりの出番だからね! 活躍してクラウド様にもう少し出番を貰うんだ!」


 馬車の前に立ち上がり、ウル達を指揮するヘイリ。


 その顔は純粋な欲望に溢れている。


 クラウドの従魔であるウル達の強さは、普通の魔族では全く太刀打ちが出来ず、住民全員が何も出来ずウル達に捕まり、広場に集められた。


 ティナが馬車から降り立つ。


「ヘイリくん。お疲れ様」


「はっ! ティナ様!」


「後は私に任せてね」


「はっ!」


 ティナはそのまま魔族の前に立った。


「魔族の皆さん。誰か代表して前に出て来てください」


 一際ボロボロになっている魔族の一人が二人の男魔族に介護され、前に出て来た。


 その瞳には憎悪が宿っている。


 人族に恨みを感じているのが分かる瞳だ。


「私は『聖女』のティナと言います。あなたは?」


「…………俺はヴァレヒト。この町の長をやっている」


「ではヴァレヒトさん。貴方達に少し聞きたい事があります。まず、人族に魔物の大軍を仕掛けたのは魔王様の単独判断ですか? それとも魔族全体の判断ですか?」


「…………魔王様の独断ではあるが、我々としても反対はせん。寧ろ賛成だ」


「そうですか……どうして人族を攻めるのですか?」


「っ!? ふ、ふざけるな!」


 いきなり怒りを露にするヴァレヒト。


「お前ら人間が、我々魔族にどんな仕打ち・・・をしたのか、いまさら忘れたなんて言わせないぞ!」


「魔族が生きている時間と、人族が生きている時間の軸は全然違います。人族はせいぜい百年ほどしか生きれません。なので、人族の中で情報がどんどん消えて、変化します。今の人族には――――全て魔族が悪い事になっています」


「っ!? な、なんだと!」


「ですから、ちゃんと話してください。でないと、我々はあなた方を撃たねばなりません」


「…………」


 ティナは噓偽り一つない眼差しで、ヴァレヒトを見つめる。


 ヴァレヒトも彼女の真剣な眼差しから、本当の事だと悟った。


「我々は大昔に存在していた『魔王』により、魔人になった種族だ。今は魔族と名乗っている。我々は『魔王』が『勇者』に負けてから、ずっとこの『呪われし大地』に追いやられたんだ」


「呪われし大地?」


「ああ。あの砦を境に、お前ら人間が我々を押しやっている場所こそが、かつて『暗黒竜』が倒れた大地で、この大地は暗黒竜の死体により呪われた大地になったのだ!」


 ヴァレヒトの必死な訴えに、ティナは更に耳を傾ける。


「我々は食べて生きるのに必死なんだ! だから、食べ物を求めて人間に頼んだ時もある! それを……お前らは『罪人』と言いながら、無残にも斬りつけてきた! あの時の出来事は今でも覚えている! 聖騎士と呼ばれたやつらから、我々は追いやられたのだからな!」


 その言葉に、馬車から一緒に聞いていた聖騎士団長ノアの表情が曇る。


 初めて聞くその言葉に、ノアの心が痛む。


 それがもしも本当・・の事なら、きっと人間にも非があったのだ。


 ノアは、ティナとヴァレヒトの行く末を見つめた。

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