第115話 舞い降りる奇跡
上空に飛び上がったアレン達は爆炎を見ながら、不安な気持ちをぐっとこらえた。
ロック鳥の凄まじい速度で向かった場所に着いた頃、爆炎がなくなり、一人の天使が砦に降りて消え去った。
「あれは…………まさか……聖神降臨……」
「ええ。聖騎士の誰かが使ったかも知れないね」
「…………遅かったね」
悲しむアレン。
しかし、そんなアレンの頭にティナが手をあげる。
「アレンくん。しっかりしなさい。貴方はクラウドの弟よ? まだ戦いは終わっていない。私はこのまま『聖神降臨』を行った聖騎士様の元に向かうわ。でも魔物はまだ残っているの。それを貴方に任せるわ。やれそう?」
「ティナ姉さん……うん。大丈夫。任せて」
「ええ。良い子ね。帰ったらちゃんとクラウドに褒めて貰いましょう」
「……うん!」
ロック鳥が砦に降りる。
あまりの出来事に、騎士達が震える手で武器を取り出すが、それよりも早く、ロック鳥の背中からティナが飛び降りた。
ティナが飛び降りたタイミングで、ロック鳥は残った魔物の群れの上空に飛び立つ。
砦の上に降り立つティナ。
その姿があまりにも神々しく、多くの者は女神様の降臨に見えて涙を流す者までいるほどだった。
「ここの責任者はどこですか?」
ティナの美しい声が響く。
それに反応して、聖騎士団長が前に出る。
「私がここの責任を預かっている聖騎士団長ノアと申します」
ティナは聖騎士団長ノアに近づき――――――
パチン
と音を鳴らせた。
ノアは彼女に叩かれ熱くなった頬っぺたに触れる。
「部下を守れなかった罰です」
「はっ。申し訳ございません」
ノアはその場に跪き、涙を流した。
部下――――聖騎士アレクが聖神降臨を使わないといけないほどのスタンピードだった。
しかし、それを言い訳にしてももう部下が戻ることはない。
その事に、ノアは涙を流していたのだ。
「そこの人達。その聖騎士様を立たせてください」
「は、はいっ!」
ティナに指示された二人の騎士は、既に白髪でやつれている聖騎士アレクを両脇から抱えて立たせる。
「絶対に手を離さないように」
「「はっ!」」
そして、ティナは右手拳に虹色に光る。
「この方のお名前は?」
「はっ。聖騎士アレク様です」
「ありがとう。では、聖騎士アレク様。貴方はここで亡くなるにはまだ早すぎます。では――――――
ドゴォォォォン!
既に燃え尽きている聖騎士アレクに、ティナの全力の腹パンが決まる。
彼の後方には空気すら割るほどの衝撃波が目に見えるくらい大気を割った。
聖騎士アレクを立たせている二人の騎士も、聖騎士団長ノアもあまりの出来事に呆気に取られていた。
その時。
殴られた聖騎士アレクの身体から虹色の光が溢れ出た。
そして、消えかかっていた彼の命が吹き返る。
真っ白だった髪も元の黒色に戻り、やつれた身体はまだそのままだったが、その身体からは生命の流れが大いに感じられる。
その姿にノアは再度泣き崩れた。
◇
前線では天使ガブリエルが大量に殲滅しているとはいえ、それでも多くの魔物が溢れ出た。
既に満身創痍だった兵士達にはそれでも絶望を感じるには十分だった。
しかし、その時だった。
空から無数の光り輝く剣が現る。
その姿はまさに天使ガブリエルが現れた時に似た希望に溢れた光だった。
無数の光り輝く剣が、魔物に向かって一斉に降下する。
次々光の剣に魔物が殲滅されていく様に兵士達は歓声をあげる。
そして、最後の魔物が光の剣に貫かれその命を絶った。
◇
「アレンくん。お疲れ様」
「ティナ姉さん。ただいま~」
凄まじいオーラを放ち、その風評から魔物にしか見えないロック鳥の背中から降りた青い髪の美しい青年は、その場にいる者なら全員が知っている物を二つ持ち、降りてきた。
それもあって、ロック鳥が
降り立った青年は、女神様にそっくりな彼女にも片割れを渡す。
そして、砦の上で彼は
するとその場にいる全ての者を包むように、眩い光が溢れ出る。
「僕は勇者アレン! そして、こちらは聖女ティナ。これから我々もあなた方と一緒に魔族と戦います!」
アレンの言葉に、砦はかつてないほどに声援があがった。
◇
「魔王様~」
「な、なんじゃ!」
「全滅しました~」
「う、うむ! 当たり前じゃ! 魔王領にいる全ての魔獣を集めたからな!」
「はい~」
「それで、次はどこを攻めに向かったのだ?」
「はい? 攻めませんけど?」
「ん? どうしてだ? 砦はもう魔獣の大軍に飲み込まれたのだろう?」
「いえ~」
「は?」
「だから~全滅しましたよ~」
「う、うむ! 全滅させたのなら次に向かうだろう!」
「魔王様~?」
「うむ?」
「全滅したのは~魔獣の方ですよ~?」
「………………」
「全滅~」
「は、はああああああああ!? あの魔獣の大軍が全滅しただと!?」
「そうですよ~さっきからそう話しているじゃないですか~」
「…………」
魔王が開いた口が塞がらなかった。
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