勇者と聖女【始】
第112話 勇者と聖女の決意
教皇の間。
高価な調度品は何一つなく、ただ建物の美しさと神々しさ、女神様の像が輝いている。
その奥には玉座があり、真っ白い不思議な石材で作られていて、上部から降り注ぐ光に照らされており、とても神秘的な雰囲気を見せる。
その玉座には優しい笑みを浮かべた年配の男性が座って、こちらを見つめていた。
「教皇様。お待たせしました」
うん。
多分待ったと思うんだ。ソフィアさん。
「いえいえ、教会は見回って頂けたのでしょう?」
「はい」
なるほど……元々先に他を見て回って貰う予定だったのか。
「皆様。初めまして。わたくしは教皇の担っているダニエル・ウルビーノと申します。皆様に会える日をとても楽しみにしておりました」
教皇の紹介に僕達も頭を下げる。
今まで出会った人達の中でも、随一のオーラが見える。
とてつもなく――――澄んだオーラ。
ソフィアさんも綺麗で澄んだオーラだけど、彼女が比べられないほどに美しい。
「みんな。教皇様は信用していいと思う」
何となく、あのオーラに噓偽りは何一つないと思う。
綺麗で澄んだオーラだから――――という理由もあるんだけど、その色が綺麗な水色で、誰をも愛するような美しさだったから。
その言葉が聞こえたのか、教皇様もソフィアさんも満面の笑顔になる。
「貴方様がクラウド様ですね? アルヴィスから話は聞いております」
「アルヴィス……という事は、学園長ですね?」
「はい。アルヴィスがあそこまで崇拝する方に、ぜひお会いして見たかった…………アルヴィスの言う通り、私でも
見通せぬ――って事は、僕のオーラは見えないのだろう。
「それと、まさか勇者様と聖女様がお生まれになっているとは…………これも神々の導きなのでしょうか」
教皇様はアレンとティナを見つめてそう話す。
既に事情は知っているみたいだ。
「初めまして、教皇様。僕はアレン。才能――――『勇者』を持つ者です」
「初めまして勇者様。こうして出会える日をとても楽しみにしておりました」
一歩前に出ているアレンと教皇様は、降り注ぐ光を浴びて、とても神々しく見える。
この時、僕は初めて自分の弟が、『勇者』である事を噛みしめた。
アレンが才能開花した瞬間から『勇者』である事くらい知っている。
でも、どこかでいつも僕の後を追ってくる可愛らしい弟であるとずっと思っていた。
それがいつの間にかこんなに大きくなって、『勇者』としてここに立つ弟は、僕の手から離れていく気がした。
「クラウド。大丈夫よ。アレンくんはずっとクラウドの弟だもの」
「……うん。いつの間にあんなに大きくなって…………『勇者』か。兄として凄く誇らしいな」
「ふふっ。ねえ、クラウド?」
「うん?」
「アレンくんを支持するの?」
ティナの質問の意図。
それはきっと、これから教会に身を置くこととなるであろうアレンの味方――――つまり、教会を支持するのかという質問なのだろう。
「教会を信用しきってる訳ではないけど、アレンくんが守りたいというのなら、僕は支持したい。それに教皇様もソフィアさんも悪い人には見えなかったからね」
「そっか。うん…………それなら、私も私がやるべきことを……するね?」
そう話すティナは、僕の隣を離れアレンの隣に立った。
そうだったな。
ティナも『聖女』だものな。
アレンが教会に身を置くって事は、これから魔族とやらと戦う事となるだろう。
それが『勇者』という才能を持ったモノの運命でもあるのだから。
僕の婚約者も『勇者』と共にあるべき者『聖女』だ。
だから、アレンと一緒に行こうとするのだね。
「お兄ちゃん」
サリーが少し悲しそうに二人を見つめた。
「私達だけは、アレンくんとティちゃんを勇者と聖女としてではなくて、家族として見てあげようね」
「ああ。そうだな」
いつの間にか、大きくなった妹の頭を撫でる。
僕達が学園に向かうのを見ていた両親の気持ちもこんな気持ちだったのだろうか?
この日。
王国の初めての休日にして、『勇者』と『聖女』が既に誕生している事が公表された。
まだ、どこの誰とまでは公表していないが、教皇が直々発表を行い、多くの王国民、ひいては他国民まで知れ渡る事となった。
しかも、このタイミングで二人が一緒に現れた事で、多くの民は安堵したという。
既に魔族との戦いは、多くの民たちに知られていたのだから。
それから数日後の魔王領。
「魔王様~大変です~」
玉座に座っている禍々しいオーラを放っている魔王が見下ろす。
「騒がしい。何のことだ」
「はい~、――――――人間に~『勇者』と『聖女』~生まれたそうです~」
「むっ! 遂に生まれたか……これは育つ前に……」
「それが~既に~成人して~いるそうです~」
「な、なんだと!」
魔王の驚く声が魔王城に響き渡った。
――――3.5章の案内――――
本日の112話から少しの間、3.5章に当たる『勇者と聖女』が続きます。
基本的に三人称視点で物語が進み、暫くクラウドくんの登場が激減しますので、ご了承くださいませ。
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