第110話 アレンの様子が変……?

「お兄ちゃん」


 紅茶を楽しんでいる僕にサリーが声を掛けて来た。


「どうしたの?」


「あそこ」


 サリーが指差した所は、屋敷の庭だった。


 そこには素振りを頑張っているアレンが見えている。


 しかし、いつもの凛々しいアレンとは想像も出来ないような緩い素振りだ。


「アレンくんがアホの子みたいな顔になっているの」


「アホの子…………」


 た、確かに……素振りしながら緩々笑って涎を垂らしている。


 アレンにしては珍し過ぎる。


「それに振っているの、そもそも木剣じゃないし」


 そうだった。


 いま振っているのは、庭から抜いたとみられる花だ。


 何故花を振っているんだろうか……。


「お兄ちゃん、アレンくんがアホの子になっちゃったかも知れないよ?」


「い、いや。そこまでではないと思うよ? とにかく声を掛けてみるよ」




 アレンが心配なので、庭に出るとアレンはベンチ椅子に座って遠い目で遠くを見つめていた。


「アレンくん」


「へ? 兄さん~」


 返事も凄く緩い。


「えっとさ。あまり深く気にしないで聞いて欲しいんだけどさ、何か悩みがあるのかな?」


「へ? と、特にないかな~」


 えっと…………目が泳いでいるけど、本当に大丈夫かな?


「アレン? 何かあったらすぐに相談するんだよ?」


「へ? えへへ~ありがとう~」


 取り敢えず不気味なアレンを一人にはしないように、誰かに見張って貰うようにしよう……。


【コメ。アレンくんの動向を常に報告して欲しい!】


【あいあいさ!】


 アレン担当のコメから返事が返って来る。


 普段は姿を隠しているから見えないけど、大体みんなの身体のどこかにくっついているらしい。


 ちなみに、僕にもくっついているらしいけど、普段意識しないと見えない。


 心配なアレンを残し、屋敷に戻ろうとした瞬間。


「あっ! 兄さん!」


 アレンが僕を呼び止めた。


「うん? どうしたの?」


「えっと! 次の休日……お願いがあるんだけど……」


 王様からの命令で、五日のうち一日は休日となった王国。


 ようやく王国もベルン領のようになってくれて嬉しいものだ。


「いいよ? アーシャと都内を歩いてみるつもりだけど、それと一緒でもいいかな?」


「うんうん! むしろ、そっちの方がいい!」


 凄く喜んでいるアレン。


 なんだか、こういう嬉しそうにはしゃぐアレンは久しぶりだ。


「それで、アレンくんはどこに行きたいんだい?」


「うん! それはね! ――――――」


 満面の笑顔で答える弟。


 弟からまさかの場所が飛び出した。


 いや、必然だったのかも知れないね。




 ◇




 その日は王国初めての休日を迎えた。


 王国民達は少し慣れない顔で、何をしていいか分からず右往左往していたけど、すぐに子供達が遊びに行きたいと話すと、親と見られる大人達は子供達に引っ張られて何処かに向かう所が見えた。


 そんな僕は、ティナとアーシャ、アレン、サリーの五人で王都にやってきた。


 先にアレンの目的地に向かう事とする。




「大きい~!」


 サリーが巨大な建物の前で驚く。


 声には出してないけど、僕もその雄々しい建物の前に口が開いてしまうくらいには驚いた。


「アレン様! クラウド様! いらっしゃいませ」


 とくに約束を交わしている訳では無いけれど、その建物の入口で待っていてくれた女性が手を振ってくれる。


「そ、ソフィア様!?」


 彼女の姿を見たアレンが激しく反応する。


 そう。


 激しく。


「そ、そ、そ、ソフィア様、おはようございます!!」


「うふふっ、アレン様? そんなに緊張なさらなくても、教会は逃げませんよ?」


「へ? えへへ~」


 うちの弟がアホの子と化してる。


 本当にどうしたんだろうか。


「…………」


 そんな姿を見たサリーがソフィアさんを少し睨みつけると、その視線に気付いたソフィアさんは、流れるようにサリーの前に立つ。


「サリー様でございますね? アレン様からお話は聞いておりました。本当にお美しい妹君でございますね」


「っ!?」


「クラウド様が自慢に思うのも、とても納得でございます」


「えへへ~」


 サリーの顔がめちゃめちゃ緩んだ!


「お姉ちゃんがソフィアさん?」


「はい。ソフィアと申します」


「お兄ちゃんから話は軽く聞いたわよ」


「とても嬉しく思います。サリー様にも名前を覚えて頂けるなんて」


 あんなに「アレンくんをたぶらかした女狐ね! 私が成敗してあげるわ!」と豪語していたのに。


 既にニヤニヤして、ソフィアさんを握手を交わしている。


「クラウド様もいらしてくださり、ありがとうございます」


「いえいえ、うちのアレンくんが行きたいというので、付いて来ました。教会には初めてくるんですけど、凄いですね」


「はい。王都教会は一番大きいんですよ? もしよろしければ、わたくしに案内をさせてください」


「っ!? そ、そ、ソフィア様! ぜひお願いします!!」


「ふふっ、ありがとうございます。アレン様。それとわたくしに『様』など要りませんので、気楽に名前で呼んでくださいませ」


「っ!? そ、そ、そ、……………っ」


 …………。


 アレン……どうしたんだろう?


「クラウド?」


「うん?」


「アレンくんの状態が分からないの?」


「え? 全く分からないんだけど、どうしたんだろうと思って」


「そっか…………クラウドも鈍かったものね」


「???」


 そして、ティナが小さい声で、僕の耳元でささやいた言葉。


 あまりにも衝撃的だった。






 えええええ!?


 アレンって、ソフィアさんに一目惚れしたの!?

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