第109話 勇者と聖女

 ティナにアレンを連れて来るようにお願いして、暫く待っている間に僕はソフィアさんを観察した。


 上品は顔立ち、曇り一つない綺麗なオーラ。


 ここまで綺麗なオーラは中々見る事がない。


 僕の周囲だと、僕の身内と同クラスのアリアさん、イレイザ先生、学園長くらいか。


「ソフィアさんは現在二年生ですよね?」


「はい。わたくしは二年生でございます」


 年上だった。


「ふふっ、それにしてもティナ様はとても美しい方ですね」


「え、ええ。自慢の婚約者です」


「あれほど美しいオーラは、聖女様と呼ばれるに相応しいのだと改めて思いました」


「ああ、呼び名ですか、でもティナは正真正銘の聖女ですけどね」


「……?」


「ティナの才能。聖女ですよ?」


 それを聞いたソフィアさんがその場で立ち上がった。


 あまりの驚きっぶりに、僕まで立ち上がるべきか悩んだほどだ。


「し、失礼ですが、もう一度お聞きしても?」


「どうぞ?」


「クラウド様の弟君が勇者様なのでございますね?」


「はい」


「クラウド様の婚約者様であるティナ様が聖女様なのですか?」


「はい」


「…………そ、そんな」


 ソフィアさんは少し絶望した表情でその場に座り込んだ。


 あれ?


 どうしたのだろう?


「ティナが聖女だと何かまずいですか?」


「…………は……ぃ……」


 ソフィアさんは申し訳なさそうに呟く。


「僕は構いませんので、どうしてか教えてください」


「………………教会には勇者様と聖女様の為の絆の武装がございます。それはお二人の想いに答えるモノでございます……今までの勇者様と聖女様であれば、お二方が結ばれるほどの絆で力を引き出して魔王を滅ぼして来たと聞きます」


「なるほど……それでティナが僕の婚約者であり、勇者と結ばれないから、その武装を使えないと」


「…………はぃ……大変申し訳ございません……」


「いえ、貴重な話を聞けて嬉しいです。まぁ、ただそれは大丈夫かと思うので、心配はしなくてもいいと思います」


「えっ? どうして……ですか?」


「そんな武装がなくても、うちのアレンとティナは十分に強いです。多分ですけど魔王なんてすぐに倒してくれますよ」


 きっと魔王という存在はとんでもなく強いかも知れない。


 でも日頃から勇者として強くなろうとするアレンも、聖女として強くなろうと覚悟を決めたティナも、凄く強くなっている。


 毎日顔つきやオーラが見違えるほど強くなっていくのを見て来た。


 今すぐは無理かも知れないけど、きっと魔王を倒せるくらいに強くなってくれるさ。


 まあ、これも兄と婚約者の贔屓目かも知れないけどね。



 ソフィアさんと話が終わったタイミングで、扉が開き、ティナとアレンが入って来た。


「アレンくん。授業中に悪いな」


「ううん! 兄さんが最優先だから」


 うちの弟、世界一可愛い! というかカッコいい!


「それで、兄さん? どうしたの?」


「うむ。こちらの女性を紹介したくてな」


「女性?」


 ソファが陰になっていて後頭部しか見えていないのだろう。


 ゆっくり立ち上がるソフィアさん。


 そして、振り向いて優雅に挨拶をする。


「初めまして勇者様。わたくしは教会所属の司教ソフィアと申します」


 やっぱり美しい人の挨拶は様になるね~。


 ソフィアさんを見ていたアレンが凄く驚く。


 というか、ものすごく驚く。


「えっ? は、は、初めまし……てぇ……」


 ん? アレンの奴、どうしたんだ?


 なんか顔色も悪くなっている。


「えっと、勇者様?」


「は、はひ! ぼ、ぼ、ぼ、僕はアレンと言います!」


「アレン様……ですね。改めまして、よろしくお願いします」


 僕に対して固い感じのソフィアさんは、アレンに対しては少しフレンドリーな言葉使いである。


 それにしてもアレンは調子が悪いのか?


「アレンくん。ソフィアさんの話を聞いて貰いたいんだけど、大丈夫?」


「え、えっ、うん、うん。大丈夫。僕なら大丈夫だよ兄さん」


「そうか。――――アレン」


「う、うん?」


「僕はアレンが決めた事ならどんな結果だろうと応援する。だからアレンがやりたいように、好きなように決めていい。僕の事なんて何一つ悩まなくても、僕はアレンの味方だからね?」


 そう話すと、少しポカーンとしていたアレンは「うん。ありがとう。兄さん」といつも通りの笑顔になった。


 僕はアレンの頭をひと撫でして、ティナと部屋を後にした。






「良い兄上ですね」


「ええ。僕が最も尊敬している人です。兄さんは本当に優しくて、大きい存在なんです」


「ふふっ、アレン様の表情を見ていれば分かりますよ」


 アレンと向かい座ったソフィアは優しい笑顔を浮かべる。


「えっとソフィア様?」


「アレン様には大変辛い事をお願いしなくちゃいけないのですが…………」


「構いません。僕なんかで出来る事があるなら」


「アレン様だからこそ、お願いしたいのです。どうか――――人々を救っては頂けないでしょうか」


「人々を救う……?」


 そして、ソフィアはクラウドに話した通り、現状をアレンに伝える。


 聖騎士がその一身で魔族を引き受けている事を知ると、アレンの表情も真剣なモノに変わる。


 今、自分達がこうして安全に暮らしているのも、全て聖騎士達のおかげなのだと知る。


 アレンは、そんな現状を聞いて、自分の『勇者』という才能と初めて向き合う事となった。

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