第108話 訪問者

 サリーと学園長が算数教室の為、別部屋に移動してすぐに、ノックの音が聞こえてティナが扉を開けて出迎えてあげる。


 入って来たのは、長い金色の髪をなびかせて、綺麗な顔立ちの女性が一人、小さく会釈して入って来た。


 初めて見る方だけど、凄く美人さんだ。


「いきなりの訪問、大変失礼しました。イレイザ先生にお願いして案内して頂きました。わたくしは教会所属の司教ソフィアと申します」


 彼女は優雅に挨拶をしてくれた。


 美しさも相まって気品に溢れていて、どこかティナを思わせるほどだ。


 それにしてもここに入ったって事は、生徒か教師だけのはずで、見た目からして同じくらいの歳に見えるので、恐らく生徒かも知れないね。


「初めまして、クラウドと言います。そちらは婚約者のティナです」


 ティナも小さく会釈する。


「ご紹介、感謝申し上げます。本日クラウド様に訪れた理由は二つございます」


「二つ…………では聞きましょう」


「ありがとうございます。まず一つ目になりますが、単刀直入にお聞きしますが、クラウド様は『勇者様』でございますか?」


 教会所属と言っていた。


 ここに来たのは、勇者と聖女の正体を見つける為に来たのかも知れない。


「その前に、どうして勇者を探しているのですか?」


「はい。――――大変込み入った話になりますが、どうかこれから話す事は内密にお願い致します」


 彼女は覚悟を決めたように、息を大きく吸い込んで吐く。


「では。我々教会は現在、大きく二つの派閥で分かれております。一つは王都教皇猊下を支持する教皇派。そしてもう一つは、バルバロッサ辺境伯領にいるハーレクイン枢機卿を支持するハーレクイン派で分かれております」


「ハーレクイン枢機卿……」


 その名前も久しぶりに聞いた。


 確か、アレンが勇者として才能を開花させた時に訪れて来た枢機卿だね。


「分かれている最も大きな理由は――――魔族との戦いでございます」


「魔族!?」


 意外な言葉に驚いた。


「はい。現在人族と魔族は熾烈な戦いの真っただ中でございます」


「……全く知りませんでした」


「はい。実はそれにも理由がありまして、現在教会を率いる教皇様の意思によって、人々にこの事実を知らせないようにしております」


「ふむ…………それはどうしてですか?」


「人は脅威に不安を抱きます。この事実が広まれば、本物の勇者様も聖女様もいない・・・この時代に恐怖し、何をするか分かりません」


 いない、という事は勇者や聖女が生まれている事をまだ皆は知らないって事だね?


 でも入学式にサリーが勇者と聖女と口にしたのがきっかけに、その話は急速に広まっているのだろう。


「現在、聖女様と言われているのは王国に四人ございます」


「え!? 四人!?」


「はい。ベルン家の聖女、エマ様。バルバロッサ家の聖女、ティナ様。王家の姫、ステラ様。そして、最後は僭越ながらわたくし司教ソフィアでございます」


「ん? それは才能ではない?」


「――――そうでございます。わたくしも含め、この四名は多くの負傷者を治した功績から、人々から『聖女様』と言われているだけでございます。ですので、この時代に本物の才能としての『聖女様』が生まれたのかは分かりません――――ですが、先日とんでもない事が起きました」


「と、とんでもない事……」


「王城前で古い伝統の廃棄を訴え出た多くの生徒達がおりました」


「…………」


 ああ……嫌な予感しかしないよ。


「その彼らからは――――女神様の祝福が見られました」


「女神様の祝福……」


 僕はチラッとティナを見つめる。


 女神様の祝福と言われるとティナしか思いつかない。


 寧ろ、ティナ以外に犯人らしい犯人が見つけられないのよね。


「そして、もう一つの噂でどうやら学園に勇者様がいるとの事で、わたくしはここ最近学園から席を外していたのですが、どうやら一年生の中に勇者様と聖女様がいらっしゃるという噂を聞きました。本当ならばすぐに確認したかったのですが、ここまでの間、我々教会に接触して来なかった勇者様と聖女様ならば、教会を嫌っている可能性を示唆しておりまして、ずっと機を待っていたのでございます」


「それが先日のあの訴え事件デモだったんですね」


「その通りでございます。わたくしはまだ二年生ですが、どうやら魔法科の生徒達や先輩達、後輩達の言動・・から、勇者様はクラウド様なのではないかと思い、こうして訪ねて参りました」


 ソフィアさんは悪い人には見えないけど、僕としてはハーレクイン枢機卿の件もあって、教会は全く信用してないのだ。


「勇者様が我々教会を信じられなくなった原因は分かりませんが、どうか人々の為に我々に力を貸して頂きたい……今でも前線では多くの聖騎士様達が魔族と激しい戦いを繰り広げておられます。わたくしの…………お父様も…………」


 彼女の目に薄っすらと涙が浮き上がる。


 それほどに前線では大変な事になっているのかも知れない。


 ソフィアさんのオーラはとても綺麗なモノであり、ティナを除けば母さんよりも綺麗なオーラで、とても信じられる人に見える。


 ティナも彼女の心を汲み取っているようで、僕を見つめて優しく頷いた。


「分かりました。ですが、残念ながら僕は勇者ではありません」


「!?」


「勇者は――――――






 僕の弟です」

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