第107話 魔法の深淵
僕は相も変わらずの入口での挨拶を通り過ぎて、職員室の奥にある学園長室に入った。
そう言えば、今日の挨拶をしてくれていた生徒達の数が増えた気がするけど……気のせいだよね?
学園長室に入ると、珍しく学園長が部屋にいた。
いたのはいいんだけど……。
「えっと、学園長? どうしてそこで正座をしているのですか?」
ソファに向かって正座待機している学園長。
しかも凄い真剣な面持ちでソファを見つめていた。
僕に見えない何かでもあるのかな?
すると、一緒に入ってきたサリーが、迷う事なく学園長の前のソファに座る。
それを見た学園長がその場で土下座した。
「おはようございます。サリー先生」
「うむ。おはよう。アルヴィスくん」
「サリーちゃあああああん!! ちょっといいかな!? ねえ、これはちょっと所じゃなくて、一体全体どうなっているのか説明して貰えないかな!!」
「え? 落ち着いてお兄ちゃん? そんなに慌てるなんて珍しいね?」
「落ち着いていられないでしょう! 学園長が先生と呼ぶのも、サリーちゃんがため口なのも、全て落ち着いていられないよ!」
「そんなにおかしいかな~」
「とてもおかしいよ!」
そんあ僕を見ながら、ティナは「クラウドを驚かせられるなんて、サちゃんはさすがだな~」とボソッと呟く。
いやいや……僕は到って普通だと思うんだけどな……?
学園長が今度は僕に体勢を向ける。
「先生のお師匠様のクラウド様ですね。儂は魔法が
そして、土下座。
「が、学園長!? ちゅ、忠誠ってどういう事ですか!? それに、僕はサリーちゃんの師匠ではありませんよ!?」
「えっ!? お兄ちゃん、私の師匠でしょう?」
「へ?」
「だって、私が
「…………もしかして、算数の事を言っているの?」
「うん!
…………もしかして、これも僕のスキルのおかげなのか?
ただの算数がここまで事が大きくなるなんて思いもしなかった。
「それに更なる魔法の深淵――――魔素を
「ま、魔法の深淵!」
学園長がものすごく反応している。
魔法の深淵というのに興味があるらしい。
しかし、僕は魔法の深淵なんて知らないんだけど……?
後ろにいたティナが優しく腕に触れて来た。
「クラウド? あったでしょう?」
「え?」
「ほら、ロスちゃんとコメちゃんの時」
「………………あ~魔素のあれか。でもあれと魔法の深淵と何の関係が……?」
「えっ? お兄ちゃんって『自由魔法』が使えるでしょう?」
「じ、自由魔法ですと!?」
「ん? 使えるね」
「つ、使えるですと……!?」
学園長が一々大袈裟に反応する。
驚きすぎて最早ブリッジになってるけど、腰は大丈夫なんだろうか?
「魔法の深淵。そこに到達した者だけが手に入れる事が出来る魔法。それが『自由魔法』なんだよ?」
「そ、そうだったんだ……」
僕としてはあまりにもあっさり出来てしまった事に、そんな凄さは感じなかったけど、あの時のサリーの喜び方が大袈裟だなと思っていたけど、そういう理由があったんだね。
ブリッジから正座に戻った学園長は僕を見ながら何か祈りをあげている。
僕は神でも何でもないから祈る止めて欲しいんだけどな。
「お兄ちゃん。アルヴィスくんに算数教えてあげてもいい?」
「え? 算数を?」
「お、おお! ぜ、ぜひお願いしますじゃ! この通り、クラウド様に忠誠を誓います!」
算数くらいで忠誠を誓わないでください……学園長……。
「いいけど、どうして僕に許可を? いつもなら自由に教えているでしょう?」
「え? 教えていないよ?」
「あれ? そうだっけ?」
「うん。お兄ちゃんの
「そ、そうだったんだ……」
「うん! だって、これはお兄ちゃんの教えだもの。お兄ちゃんの配下の者以外には教えません! えっへん!」
どちらかと言えば、誰にでも教えていいとさえ思っているんだけど、それはティナ達から止められている。
ベルン領では当たり前の光景だったけど、この世界では意外と算数能力が低いと見えるから誰にでもと思っていたのだけれど。
「わ、儂もその配下に加えてくだされ! 学園長から退ける覚悟もございます! 生涯クラウド様にお仕え致します!」
「そ、そこまではしなくても大丈夫ですよ? あとはサリーに任せるのでお願いしていいかな?」
「任せて!」
学園長を見つめるティナは、優しい笑みを浮かべて「学園長、良かったですね~」と話すと、学園長も涙を流して「長生きはするものでございますな、生きてて良かった~!」と言っていた。
サリーには学園長が学園長を辞めないようにと伝えてあるので、辞める事はないだろうと思う。
王国最強の大賢者が辞められては、いろんな問題が起きそうだったから本当に良かった。
それにしても大賢者が弟子入りって……うちのサリーって既に大賢者以上って事かな?
そんな事を思っていると、今度は訪問者がやって来た。
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