第105話 古い伝統をぶっ壊せ!
王城入口前広場。
そこには異様な雰囲気が流れていた。
普段ならこうして並ぶ事は、時に重罪となる為に見る事が出来ないが、本日はバビロン学園の多くの
綺麗に三列で並んでいる彼らは、大きな紙に『古い伝統をぶっ壊せ!』と書いてある。
そして。
「「「「「古い伝統をぶっ壊せ!」」」」」
生徒達は声を一つに、王城に向かって声をあげた。
◇
「い、一体なんの事じゃ!」
王国宰相は目の前に繰り広げられる光景に不安を抱く。
バビロン学園と言えば、王国最高位の学園。
その生徒ともなれば、これからの王国を引っ張る存在であるはずだ。
なのに。
そんな生徒達が王城に向かって、「古い伝統をぶっ壊せ!」と揃えて声を上げているのだ。
そんな異様な光景に多くの貴族達も覗きに来ている。
「さ、宰相! どうやらバビロン学園から五日に一度『休日』となるモノを承認してくれと嘆願に来ました」
「なぬ!? 『休日』!? なんだそれは!?」
「さ、さぁ……それはわたくしにも良く分かりませんが、生徒達の言い分からして、授業を行わず自由に休む日の事だそうです!」
「な、なに!? 特別な日や病気をしている訳でもないのにか!」
「は、はい。どうやら『メリハリ』を持たせたいそうです」
「……なんじゃそのメリハリというのは」
「さ、さあ……?」
宰相は報告する兵士の言葉を聞いて、大きく溜息を吐いた。
「仕方あるまい……ここは少し力づくでいこう」
そう話す宰相は、城壁の上に立った。
「バビロン学園の生徒達よ!」
宰相の声に、生徒達の視線が一斉に宰相に注目する。
「こんな事をしてお主達の家に迷惑が掛かる事を何とも思わぬのか!!」
「「「「「古い伝統をぶっ壊せ!」」」」」
「うぐっ!? な、なんじゃこれは……儂の言葉を一切聞いてない!? これは……もしや! 洗脳魔法か!? おい! 急いで王都教会から枢機卿を連れてまいれ!」
「は、はっ!」
宰相に命じられた兵士が急いで馬に乗り込み走り去る。
その間、何とか生徒達を宥めたい宰相だったが、既に数十分王城の前でこういう事を起こしている生徒達をどう庇っていいか頭が痛くなる宰相だった。
これが洗脳や催眠によるものならいいのだが……そんな不安を抱いた宰相は枢機卿が来てくれるまでが待ち遠しかった。
◇
「…………爺、血迷ったか」
「血迷ってなどおらんわ。『休日』は作るべきだ」
現在、王城玉座の間。
玉座で目を光らせている歴戦の戦士を思わせる男と、その前に男を対等なように見つめているバビロン学園の学園長アルヴィスがいる。
「そもそも『休日』の良さが理解出来ん」
「最初は儂もそう思ったわい」
「……」
男は虫を見るかのような目で学園長を睨む。
「そう睨むな。儂も最初はその良さを考えた事はなかったが、だがしかし、あの『休日』が一日あるだけで、王国が大きく変われる」
「どういう風に変わるのだ?」
「まず、身体と精神を休める日がある事で、仕事や勉強に集中しやすくなる」
「それが無くても今までやって来られた」
「そうじゃが、それで問題が起きた」
「……? 問題が起きた?」
「ああ。外を見てみるが良い」
アルヴィスが窓の外を指さす。そこは王城の入口が見えるテラスがある窓であった。
例え、王国の王であっても、学園長を無視する事が出来ない為、男は溜息を吐きつつも、普段ならここまで乗り込んでくることがない爺がどうしてこういう事をしているのか、少し疑問に思ったのでテラスに向かった。
「「「「「古い伝統をぶっ壊せ!」」」」」
「っ!? あれは……生徒達か?」
「そうじゃ」
「…………あれも爺の指示か?」
「いや。儂くらいでああには出来まい」
「…………どうしてああいう事に?」
「彼らは
「先導者?」
「ああ。彼らを導く人物だ。今までああいう事が出来た人物がいたか?」
「…………」
「王が学園にいた頃でもああいうのは無理じゃったじゃろう? しかし、あれにはそれなりの理由があるのじゃ」
「…………」
王は言葉を失った。
生徒達が認めるその人物がとても気になったが、そこに圧力をかける事が王として一番やってはいけない事くらい知っていた。
「…………爺」
「どうしたんじゃ」
「本当にその『休日』は王国にとって、
「ああ。それは儂が保証しよう」
サリーの件もあったが、アルヴィスとしても彼らを先導した者にはとても興味があった。
現状バビロン学園で最も有名になり、飛び級首席のサリーや、勇者アレン、聖女ティナ、生徒会長ヴィアシル、彼らの押しのけて最も名前が出る『クラウド』。
彼らの未来が楽しみで仕方がないのだ。
「王よ。少し覚悟をしておくといい。これから時代は激動の時代に入るぞ。その波に飲まれるでないぞ?」
「…………ふん。既に爺は飲まれているように見えるが?」
「がーはははっ! 儂はもう年寄りじゃけ…………もう深淵の覗ける夢は今叶うしか道がないのじゃよ」
「爺……無理はするなよ?」
「心配はご無用じゃ。寧ろ魔法の深淵が覗けるかも知れない事に元気なる程じゃわい!」
「全く……魔法の事となると相変わらずだな。取り敢えず、『休日』の件は分かった。承認しよう」
こうして、王国に『休日』というモノが正式に誕生する事となった。
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