第104話 休日の説得

 次の日。


 学園に入ると入口の両脇、右側には三年生、左側には二年生の魔法科先輩達と一年生の戦士科生徒達が綺麗に並んでいた。


 ま、まさか…………。


「「「「「クラウド様! おはようございます!!」」」」」


「「「「「クラウド様! おはようございます!!」」」」」


「み、皆さん!? 出迎えはなくていいってお伝えしたはずなんですが!」


「いえ! これもこれから我々の領主様となるクラウド様への予行練習! どうか受け取ってくださいませ!」


 並んでいない生徒達は奇妙な目で見つめていた。


 これで既に三度目……。


 もう止めるに止めれないこの流れをどうしたらいいものだろうか……。


「さあ、お兄ちゃん。入ろう!」


 サリーは待つ事なく、僕の背中を押して中に入って行った。




 職員室。


「クラウドくん。今朝凄かったわね」


 イレイザ先生がニヤニヤしながら、僕の腕をツンツン押してくる。


「先生……何とかヴィアシル先輩を止める方法はないんでしょうか?」


「ん~、ないわね」


「……」


「だって、彼、伯爵家の息子だもの。嫡男でない事だけが救いだね?」


「た、確かに……嫡男ですと色々問題が酷かったですね」


「そうね。バビロン学園の生徒会長として卒業するから、跡取り息子に抜擢されるんじゃないかって噂もあるんだけどね~」


「えええええ!?」


「あはは~あくまで噂よ、噂。クラウドくんは本当に面白いわね~」


 う、噂…………何となく悪い予感がするんだけど、大丈夫なんだよね?


「それはそうと、何か用事があるのかしら?」


「あ、イレイザ先生にお願いがありまして」


「あら? 私なんかで良いのかしら?」


「寧ろイレイザ先生が一番の適任かと思いまして」


 イレイザ先生が怪しい笑みを浮かべる。


「ふふふ、いつも助けて貰っているし、以外なら何でもいいわよ?」


「い、いりません!! 僕には婚約者が二人もいるんです!」


「あら、毎日お二人を相手するのかしら~」


「ち、違います!! まだ僕達は婚約者ですから!」


「あら、私はナニ・・とは言わなかったんだけど~」


 あああああ!


 またイレイザ先生に揶揄われてる気がするよ!


「あははは、まあ冗談はここまでにしておくとして、どんな用かしら?」


「は、はい…………実は僕達のベルン領では、『休日』という日を設けてまして、五日のうち四日働いて一日休んでを繰り返しているんですよ」


「ふむ? 休む? どうして?」


 そう。


 この世界の人々に『休み』を伝えると、ほぼ『どうして』と疑問を抱くらしい。


 そもそも極端に働きすぎるのが、この世界の習わしだから、仕方ないのかも知れないけれど……。


「そもそも休日がなければ、ゆっくり考える時間も、自由時間も作れないんです。だから四日間集中して働いて、一日ぱーっと休む。これが意外と効き目が良いんですよ」


「ふぅん~、でもその分学べないじゃない」


「ええ。ですが、その代わりに自分で探す事が出来るようになります」


「自分で探す?」


「そうですね。例えばですが、僕の婚約者のアーシャの場合、庭作りだったり、他の女性用道具を作ったりして、本来の仕事とは違う事をしたりしてます」


「……? それが良いの?」


「はい。りという言葉があるんです。何でもそうですが、一つの事だけを集中してやるよりは、やるべき時にやって、やらない時間を作り休むのはとても大事な事なんです」


「なる……ほど~先生にはまだ理解出来ないけれど、クラウドくんに言われるとなんだか、妙に納得するわね」


「えっと、それで、うちの学園にもその仕組みを入れたいなと思いまして」


「ふむふむ……そうなると、学園長の許可だけでなく、全ての先生の許可だったり、もしかしたら王様の許可も必要かも知れないわよ?」


 王様までか……。


 そこまでは考えていなかった。


 思った以上にハードルが高い気がする。


 その時、後ろで聞いていたサリーが手を上げた。


「大丈夫! 全てはサリーが何とかする!」


「え? サリー!?」


「私に良い考えがあるから、お兄ちゃんは教師の皆さんに説明をお願い! 学園長と王様・・は私に任せておいて!」


 えっと……なんだか、友達に会いに行くみたいな言い方だけど、本当に大丈夫なんだろうか?


「クラウド? サちゃんに任せていいと思うわ」


 ティナもそこまで言うのなら……。


 サリーはティナを連れて職員室を後にする。


 ちょっと不安を感じるけど、今は自分がやれる事をしようと思う。


 教師の皆さんに集まって貰い、『休日』について説明した。


 最初は難色を示していた皆さんも次第に理解の色を見せ始める。


 これなら後は、サリー達の頑張りがあれば何とかなるかも知れないね。




 しかし、僕が思っていた以上に、この事件は大きな方向に向かう事を、その時の僕が知る由もなかった。




 ◇




「…………ではサリー様。此度の『休日』が学園で認められれば、私を弟子にしてくださるので?」


「弟子はまだ早いけど、少し・・手ほどきはしてあげるわ」


「!? は、ははっ! 魔法の深淵を覗けるとあらば何でもしますぞ! その一件はお任せあれ! あの堅物は儂が説得して参ります!」


「お願いね? ――――アルヴィスくん」


 サリーの前に跪いていた学園長は、満面の笑顔だった。

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