第103話 ベルン家の増える悩み

 世話しない学園も一日が終わり、帰り道。


 帰ろうとした。


 しかし……。




「「「「クラウド様! お疲れ様でしたっ!!」」」」




 帰り道の学園の一階層の廊下、両脇に三年生全員が綺麗に一列で並んでいて、僕を見た瞬間声をあげた。


 違う……こうしたかった訳じゃないんだ……。


「ふふっ、やっぱりクラウドにはこういう方が似合うかもね~」


 隣で嬉しそうに笑う婚約者ティナ


「えっと……先輩方々? これは一体……?」


 ヴィアシル先輩が一歩前に出てくる。


「はっ! 我々三年生。学園を卒業した暁には――――」


「うわあああ! それは聞きたくない!」


「ベルン家に勤めさせて頂きます!」


「「「「「クラウド様! 忠誠を誓います!」」」」」


 学園に僕へ忠誠を誓う声と、僕の声にならない叫び声が木霊したのは、言うまでもない。



「お兄ちゃん最強~!」


 ――「お兄ちゃん最強~!」


 ――――「お兄ちゃん最強~!」


 ――――――「お兄ちゃん最強~!」


 心なしか、その日は久々にサリーの声を木霊させる魔法が学園から王都中に響き渡った。




 これが後日問題になったのは言うまでもない。




 ◇




「はぁ…………」


「あら? クーくんが溜息なんて珍しいわね?」


 溜息を吐いていた僕に、母さんは紅茶を前に出してくれる。


「母さん……どうしたらいいんだろう」


「あら? 悩みかしら?」


「うん。母さんも父さんも関係する問題なんだけど」


 それを聞いた隣にいた父さんの顔が一瞬引きずる。


「あまり聞きたくないような、聞きたいような~」


「…………えっと、今日学園でさ」


 そして、僕はあった事全てを両親に話した。




「く、クラウド!! サルグレット伯爵家の息子さんにまで手を出したのか!」


「父さん! 僕は何もしていないよ!!」


 人をトラブルメーカーみたいな言い方は止めて欲しいものだ! 本当!


「…………でも決闘したのだろう?」


「え? あ~、あれは決闘というモノなのかな……? なんか一方的に先輩が芝居のような事をしていただけなんだけど……」


「し、芝居……」


「打ち合っては木剣を落としてたから、きっとティナに回復して貰いたかったんだろうか?」


 先輩の行動も少し謎に包まれていたね。


 もしかしたら、先輩って、エルドと同じで気を使ってくれたのかも知れない。


 こんな後輩に一方的に勝ってしまうと、後輩達の士気にかかわるかも知れないと思ってくれての事だと思う。


「クラウド?」


「ん? どうしたの? ティナ」


「多分、クラウドが考えている事、全部違うと思うわ?」


「えっ」


「多分違うわ」


「…………」


 違うのか…………。




「それはそうと、クーくんも学園を楽しんでいるようで嬉しいわ」


 紅茶を飲みながら嬉しそうに話す母さん。


「ん……まぁスロリ街ほどじゃないけど、それなりに楽しくさせて貰っているよ。ちょっと不思議な同級生達と先輩達だけどね」


「ふふっ、うちのクーくんはずっと田舎暮らしだったから、浮いてる存在になるんじゃないかと、母さんずっと心配したのよ?」


「そう言われてみると、都会っぽい所には行った事ないな~」


「あら? ティナちゃんとアーシャちゃんと行って来ないの?」


「だって、学園って休日がないから」


 この世界のスケジュールって極端すぎるから、休日がないんだよね。


「あ~都会って遅れ・・ていたんだよね~クーくんが変えてあげないと」


「えっ? 僕が!?」


「そうよ? 学園に休日を設けないと、サリーちゃん達も休日がなくなるから大変だと思うわよ?」


 一緒に聞いていたサリーも反応する。


「お母さん! それ凄く良い考えね! お兄ちゃん! 明日、早速休日を作ろう!」


「いやいや、そう簡単に作れるもんなの? だってそういう伝統なんでしょう?」


「伝統をぶっ壊す!」


「サリー、ちょっと怖い事言わないで。伝統は守る為にあるんだから壊しちゃダメだよ」


「でも、お兄ちゃんは両エルフ達の伝統、全部壊したよね?」


「あっ……」


 そ、そう言われるとまいるな……。


「だって、あの伝統というか掟って、ものすごく極端で良くないじゃん」


「うんうん。だから休日なしの伝統も壊そうよ!」


 最近サリーが物騒な気がする……。


 両手を突きあげて「ぶっ壊すぞ~!」と張り上げ始める。


 丁度そのタイミングで、風呂からアーシャが、稽古からアレン達が戻ってきた。


「クラウド。私も出来れば休日が出来ると嬉しいんだけど~」


 アーシャが遠くから聞いていたようで、賛同してくれる。


「何かやりたい事でもあるの?」


「それはあるわよ? 庭の手入れもしたいし、王都の流行りとかも見ておきたいし、色々あるかな?」


「そっか……まぁ、サリーもあんなにやる気だし、明日職員室で相談してみるよ」


「それは助かるわ。お願いね?」


 もう一人の婚約者アーシャの頼みとあらば、尚の事、頑張らないとね。



「あ、それはそうと、父さん? 本当に先輩達がベルン家に来るかも知れないから、その時はお願いします? まだまだ先だけれど」


 一瞬忘れてた!って表情の父さんが遠い目になる。


 父さん…………ベルン領の為にも……ファイト!

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