第100話 初めてのお泊り

 ◆クラウドが十二歳の頃◆


 その日は、クラウドとティナが二人でお出かけに出掛けていた。


 実はサリーの提案で、いつもみんなといると、二人の関係が進まないからと無理矢理に行かせたのだった。



「ティナ様。あともう少しですよ~」


「本当!? とても楽しみだわ」


「ええ。それにしてもバルバロッサ領にこういう場所があるとは、思いもしませんでした」


「そうね。私も普段は屋敷にいるばかりだったから知らなかったわ…………サちゃんには感謝しないと」


「ですね。それにしてもティナ様とお出かけも久しぶりですね」


「う、うん! クラウド様はずっと忙しかったから、仕方ないわ」


 少し寂しそうな笑顔を浮かべるティナだったが、その笑顔の意味がクラウドに伝わる訳もなく。


 二人を乗せた馬車は、そのまま平原を走り抜けた。




「着いたみたいですね! では行きましょうか?」


「うん!」


 珍しくティナをエスコートするクラウド。


 ここに来るまでに、母であるエマからしっかりエスコートしなさいと言われていたからである。


 それを既に知っているティナであったが、それでもクラウドの伸ばしてくれた手に嬉しさを覚える。


 馬車を降りた二人は、そのまま手を繋ぎ、目の前にある大きな屋敷のような建物に入って行った。




「いらっしゃいませ。ティナ様。クラウド様」


 中には柔らかい笑みを浮かべた中年の男性が出迎えてくれた。


 その隣には綺麗だが簡素なドレスを着た婦人が一人。


 そして、メイド服を着ている女性が三人、後ろに並んでいた。


「本日はよろしくお願いします」


「ははっ、我々ヘルンドール宿屋を選んで頂き、ありがとうございます」



 この屋敷に見える建物は、ヘルンドール宿屋という旅館である。


 サリーが見つけたこの宿屋は、彼女が十歳の時に開いたパーティーで知り合った友人から教わった場所であった。


 それからここの噂も聞き、バルバロッサ領内最高の宿屋として有名である事を知る事となったのだ。



 ヘルンドール宿屋の支配人に案内され、荷物を置いた二人は、そのままの案内でゆっくりと風呂に入る事となった。




「っ!?」


 クラウドは支配人から既に説明があったのだが、身体の洗い場で軽く汗を流し、用意されていた専用の巻き物を付けて、更に奥にある風呂場に入っていた。


 そこに絶世の美少女が、少し恥ずかしそうに入って来た事に、クラウドは自分の心臓の音が跳ね上がるのを感じた。


 直視出来る訳もなく、クラウドはティナがいない方向に顔を向ける。


 風呂にゆっくり入って来るティナの音よりも、自分の心臓の音が気になるクラウドだった。



「クラウド様…………その、見てくれないの?」


「い、いや……そ、その…………刺激が強すぎるというか……」


「ふふっ、でも私はちゃんと巻き物しているから大丈夫よ? この巻き物ならが見える心配もないみたいだし……」


 特殊な巻き物で、人の身体に密着し、濡れても取れる事がなく、水を良く通すので、こういうい宿屋にはぴったりな巻き物でもあるが、高級品であまり出回らない。


 クラウドは恐る恐るティナを見つめた。


 少し恥じらうティナが視界に入る。


 この風呂は、二人だけの風呂であり、ヘルンドール宿屋の名物にもなっている。


 風呂場の周りには綺麗な花が沢山植えており、屋内なのに屋外の気持ちを味わえるその風呂は、周りから香る花の香り、甘い風呂の香り、その全てが二人を祝福するかのような作りである。


 風呂の大きさも二人が入るに丁度良い大きさで、大人数人でも問題なく入れるが、大人数用ではない大きさであった。



「…………」


「…………」


 クラウドは風呂の熱さなのか、自分の興奮した熱さなのか分からない思いをしていた。


 ティナもクラウドのを直視出来ず、いつものようにグイグイ寄る事が出来ずにいた。


 ――――その時。


 風呂の中から小さな子犬が一匹浮き上がった。


【ご主人、表情固い~】


「っ!? ろ、ロスちゃんに言われると何だかな……」


「ん? 何か言われたの? クラウド様」


「え、ええ……僕の表情が固いって……」


「ぷっ、あ、あははは~」


 それを聞いたティナが笑い出す。


 クラウドもその笑につられ、一緒に笑い出した。


 暫く笑った二人は、自然と隣に座った。


 そして、恥じらうように手を繋いだ。


 何も言わなくても、気持ちが伝わるようで、二人は笑みを浮かべて手に伝わる温かさを感じた。



「ティナ様、そろそろ出ましょうか」


「うん……」


 珍しくクラウドは、ティナの惜しむ声を理解した。


 その事で更に熱くなる事を感じる。



 一旦着替えてから、今度は食事会場に向かった。


 二人が向かえ会うようになっていて、二人が座ると次々料理が運ばれて来た。


 どの料理も全部一口分しか運ばれて来なかったが、そのどれもが非常に洗練された味で、普段から美味しいモノを食べている二人でも、その美味しさに感動を覚えた。


 運ばれるタイミングも丁度良くて、二人は何気ない会話を楽しみながら、料理を楽しんだ。




 クラウド達は食事を終え、ヘルンドール宿屋の名物、夜光花の庭に出た。


 その庭は夜の月の光を受けて、美しい青色に光り輝いている。


 この青い夜光花は、愛の証明を表していると言われており、ヘルンドール宿屋がカップルに人気な一番の理由でもあるのだ。


「「あの!」」


 歩いていた二人は同時に声を出す。


「っ!? ティナ様からどうぞ?」


「う、ううん! クラウド様から……」


「………………えっと、今日のティナ様はとても……綺麗です」


「っ!? ――――――クラウド様も……」


 二人は寄り添う。


 美しい月の光と、夜光花の光が二人を祝うかのように二人を照らした。











 そして、二人は――――初めての口付けを交わした。











 まだ結婚はしていない二人なので、その日の夜はただ一緒に手を繋いで眠った。


 そんな二人は眠るまで、普段の三倍も時間がかかったが、次の日の朝に目覚めた二人は、幸せな笑顔を零した。


「クラウド様。そろそろ私の事、普通に呼んでくれる?」


「…………分かった。ティナもね?」


「うん! ――――――――大好き! クラウド!」


 自分の胸に飛んできた絶世の美少女の頭を優しく撫でた。




――――後書き――――


 日頃『転生してあらゆるモノに好かれながら異世界で好きな事をして生きて行く』を読んでくださり、ありがとうございます!


 なんと、この度、100話目に到達出来ました!!


 ぱちぱちぱちぱち――――


 え?99話と話が全然繋がらない?


 いやだな~旦那さん~そこは大目に見てくださいよ~


 てな事で、明日からまた通常話に戻ります!


 200話目指して頑張りますので、ぜひ作品フォローと★(レビュー)をくださると嬉しいです!

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