第99話 神器

 次の日。


 僕はいつも通りに学園に入る。


 ――――すると。




「あ…………またこういう状況ね…………」


 以前にも見た事がある両脇に列が出来ていた。


 そして、そこで待っていてかのように、魔法科の先輩達が僕に向かって跪いた。


「「「「「クラウド様! おはようございます!!」」」」」


「やめてください!! そんな挨拶されるほどじゃないですから!」


「く、クラウド様! 我々は――――」


「大丈夫ですから! ちゃんと稽古もつけてあげますし、寧ろこういう挨拶された方が吃驚しちゃいますから! 本当に、明日は土下座するとかもやめてくださいね!? そこまでしなくても僕は皆さんの味方ですからね!?」


「「「「「は、はい! かしこまりました!!」」」」」


 …………分かっているのか、分かっていないのか分からないや。


 何となく彼らを向こうから羨ましそうに見つめている戦士科の一年生が見えた。


 羨ましいなんて思わないでね!?



 その日から午前中は魔法科の先輩達、午後からは戦士科の同級生達と稽古を続ける日々を送った。


 イレイザ先生からは魔法だけでなく、色んな事を教わった。


 まず、魔物もランクで分けているそう。


 一般人でも倒せる魔物を、下級魔物。


 才能持ちが倒せる魔物を、中級魔物。


 才能持ちでもトップクラスの人が相手出来る魔物を、上級魔物。


 そんな彼らがパーティーを組まないと相手にすら出来ない魔物を、最上級魔物というらしい。


 そして、最後に最上級魔物を越えた魔物であり、最早人類全員で掛かっても倒せるか分からない魔物、それを『災害級魔物』と言うらしい。


 なので、『災害級魔物』と『最上級魔物』とでは天と地ほどの差があるとの事だ。


 イレイザ先生から言われた子クロ達こと『ミディクロコダイル』達は一応最上級魔物に入るらしい。


 そんな子クロ達が束になっても、クロやロクには勝てないだろう。


 それほどの差があるのも、とても納得だ。



 因みに、S級の三年生の先輩達全員が束になっても、子クロには勝てないそうだ。


 …………この世界は本当に理不尽だね。




 それと同じ才能や同じ強さがある人でも差があって、その差を生み出しているのが、『武具』だそうだ。


 そりゃそうよね……装備って大事だからね。


 『武具』として有名なのは、『神の武具アーティファクト』と呼ばれている特別な武具が一番強いらしい。


 僕が持っている『召喚の短剣』もこのアーティファクトになる。


 その次に有名なのが、『専属武装』だ。


 『専属武装』は以前にも説明した通り、光の力を持った者だけが召喚出来る武具で、その人一人一人が違う武装であり、選ぶ事も出来ない。


 ただ、選べられないがその専属武装一つ一つがとても強力であり、武装を召喚した状態だと、個人のステータスも跳ね上がるので、ここにアーティファクトと重ね持つのが、現状、最も強くなる方法だ。


 この二つの武装は特別な武装となる為、現実的ではない。


 その次の武装となると、『ユニーク武装』というモノがあるそうだ。


 『ダンジョン』と呼ばれ、時折見つかる『次元の隙間』から入れる場所があるんだけど、そのダンジョンは一度制覇した場合消滅してしまうという。


 制覇した際に必ず宝箱が現れるらしく、その中身から偶に『ユニーク武装』が出てくるそうだ。


 そもそも『ダンジョン』を見つけるだけで運が必要で、更にダンジョンごとに難易度が違うので、それを突破出来るパーティー力も試させるので『ユニーク武装』をわざわざ狙う事は不可能に近い。


 だから市場にはあまり出回らないが、手に入れたら強力な効果を発揮するらしい。


 こういう『ダンジョン』を探して巡る連中を『冒険者』という。


 冒険者は夢に溢れた職業と言われている所以だ。


 一攫千金を狙えるのは良い事だけど、ダンジョンの難易度を見誤って帰らぬ人となる冒険者達も多いと聞くからね。



 そして、最後にこの三種の装備を超える・・・事が出来る装備が存在する。


 それが――――『神器』と呼ばれている武具だ。


 そもそも名前的に『神の武具アーティファクト』と『神器』って同じ事なんじゃないのかと思ったんだけど、これが全然違う意味を持っていた。


 まず『神の武具アーティファクト』は、強大な力を持ったモノが世界に授ける事で発現する。


 例えるなら僕が持っている『召喚の短剣』は、精霊王と呼ばれている存在が亡くなった際に地上に生んだと言われている。


 『神の武具アーティファクト』は、こういう方法でしか手に入れる事が出来ないのだ。


 それに相反するのが『神器』である。


 どうやって相反するのか。


 それはとても簡単で、『神器』は『神の武具アーティファクト』と違い――――――人の手で作れる・・・のだ。


 作り方は非常に簡単だ。


 『災害級魔物』と呼ばれている高位魔物の素材を用いて、最高位の鍛冶師が作る装備が稀に『神器』になる場合があるのだ。


 ただ、必ず作れる訳でもないので、仮に作れたとしても同じモノをもう一度作れるとは限らない。


 人によっては、『神器』を作れた事で、次の武具が作れず心が折れる人までいるそうだ。


 そんな『神器』になるには、素材、鍛冶屋の力、そして想いが大事だと言われている。





 僕は実技訓練場に佇んでいた。


 後ろでティナが見守る中、僕は自分の右手を前に出す。


「解放、紅蓮ぐれん外套がいとう


 僕の右手の甲に真っ赤な模様が光り輝いた。


 そして、僕の周囲に空気を歪めるような突風が巻き上がる。


 突風はどんどん赤い色に染まり、爆炎の竜巻となり、次第に僕の背中に集まり始める。


 そして、全ての爆炎の竜巻が消え、僕の背中に真っ赤に燃えるような外套――――マントが出現した。




 鍛冶組のナンバーワンであるカジさんが三年を掛けて、ロスちゃんの爪一つから完成させた神器・・である。

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