第98話 魔法科の稽古

 念の為、ティナにも立ち会って貰い、子クロ達がケガしないように注意しながら進める事にした。


「クラウドくん。出来れば従魔達にはになって貰いたいんだけどいい?」


「いいですよ!」


 子クロ達に、先輩達の魔法を耐えるように伝える。


「それと、相手に圧力だけ掛けて貰う事も出来る?」


「それはオーラでって事ですか?」


「ええ。それでいいわ」


「ん~、大丈夫ですよ!」


「分かったわ。では最初は的だけお願いね」


 子クロ達が一定間隔の距離に分かれて的になって貰った。



「みんな! S級以外は全員三人組になって! S級は二人組になりなさい!」


「「「「はい!」」」」


 先輩達が凄い速さで組に分かれた。


 それぞれの子クロ達の前に各組が立つ。


「では一人ずつ、あの魔物に目掛けて魔法を撃ってみなさい! 弱い魔法からね!」


「「「「はい!」」」」


 魔法を撃つ順番も悩む事なく、スムーズに決まった。

 

 魔法科の先輩達だけでとても連携が整っている。


 これって何かの理由があるのかな?


「イレイザ先生。先輩達の準備の良さって理由でもあるんですか?」


「あるわ。魔法使いならではの理由ね。クラウドくんは魔法使いはサリーちゃん以外見た事は?」


「ん~、そう言われればいないかな? うちの領民にいる事はいるけど、人族じゃないですし」


「そう。なら覚えておいて。サリーちゃんほどの魔法使いなら気にならないかも知れないけど、普通の魔法使いには魔法が使える魔力のが限られているのよ。もしパーティーに魔法使いが複数人いた場合、魔法が被ってしまうと使える魔法が一回減るって事になる。それだけでパーティーに取って損になるわ。だから魔法使いはまず魔法を使う事に目を向けるより、どう使うかに目を向けないといけないのよ」


 イレイザ先生の説明がとても分かりやすい。


 普通の魔法使いの魔力はどうやら有限のようで、ずっと使い続けられる訳ではないみたい。


 それはそうだよね。


 普通の人達も体力が限られているし、魔法使いにも使える魔力が限られているのは当たり前の事なのかも知れない。


 改めて先輩達に目を向けた。


 先輩達は魔法が決して被らないように、しかもそれぞれ違う属性で魔法を使っている。


「ん? そもそも、分かれている組が得意属性が違う?」


「ええ。よく気付いたわね。同じ属性の魔法だと対処出来る魔物も減るからね。こうやってそれぞれ得意な魔法が違うように組んだ方がメリットが大きいわ。行く場所によっては、同じ属性に揃えた方がいい場合ももちろんあるけどね」


 イレイザ先生の説明を聞きつつ、先輩達の魔法を見つめた。


 いつもサリーを見ているから分からなかったけど、意外と魔法使いってそれほど強い人が見えない。


 それと、彼らの魔法が子クロ達に当たっても、子クロ達は傷一つ付かなかった。


「もしあのワニ達がミディクロコダイルなら、ここで傷つけられるのはS級の子達だけね」


「S級?」


「ええ。簡単に言えば、魔法使いの中でも上位の魔法使いね。最上級が『賢者』なのは知っていると思うけど、S級はその下の才能を持った子がなる事が多いわね。魔法はスキルで差が大きいから……」


 なるほど……上級才能を持った人は普通の才能よりも強い訳だから、そこで既に分かれているのか。


 二人組と言われていたS級の組は、他の組よりも魔法の濃度・・が濃かった。


 オーラが見えるようになって、魔法使いが使う魔法や、戦士が使う剣技が何となく見えるようになったから、その濃度も見えるようになった。


 あれを見ているといつもサリーが放っている魔法って、ものすごく強いのが分かる。


 同じ魔法でもその魔法に魔力をどれくらいの濃度強さで込められるかを何となく観察すると、普通の魔法使いの二年生が1とすると、三年生は2~3に対して、二年生S級が5、三年生S級が10だ。


 三年生S級は圧倒的だね。


 …………サリーなら1000くらいだけどね……知らなかったけど、この世界の才能って非常に理不尽な事に気付いた。


 前世では両親ガチャなんて言われ、富裕層とかで差があると言われていたけど、この世界の才能はその比ではない。


 恐らくここにいる三年生S級の先輩達も、既に凄い人達だと思うから、そこからサリーやエルドを比べてしまうと…………。



「ふふふっ、クラウドくんはこういう普通のクラスはあまり見た事なかったでしょう?」


「…………正直に言いますと……はい」


「うんうん。でもこういう普通の人がいる事を理解しておいてね?」


 なんだか、色々見透かされた感じがした。


 やっぱイレイザ先生って……すごく強い・・と思う。


「じゃあ、クラウドくん。そろそろ本番といこう。私が合図をしたら圧力を掛けるようにしてね?」


「分かりました」


 そう言ったイレイザ先生が先輩達に向かって言い放った。


「みんな! これから目の前の強い魔物から、実戦・・のような雰囲気を出して貰うからね! 覚悟しておいてね!」


「「「「「は、はいっ!」」」」」


 先輩達が少し身構え、イレイザ先生が僕を見て小さく頷いた。


 僕は子クロ達に、思いっきり先輩達を威嚇して貰うように伝えた。


 ――そして。




 ゴゴゴゴゴォ


 子クロ達のオーラが全開になった。


 うわ…………ロスちゃんよりは遥かに小さいけど、子クロ達も中々の迫力だね。


 子クロ達見た先輩達の多くは、その場から後退る人が続出した。



 あはは…………オーラを比較した時、ああなるかもとは思ったけど……。


 S級の三年生の先輩ですら、表情が強張っていた。


「みんな! 目の前の相手は最上級の魔物だと思って! 決して諦めないで魔法を撃ちなさい!」


 イレイザ先生の激励が飛び、やっと起き上がった先輩達の中には泣きながら魔法を使う人も出たくらいだ。



 午前の授業を終わらせるチャイムが鳴って、子クロ達には退場して貰ったけど、先輩達は誰一人実技訓練場から出る事が叶わず、その場で放心状態になっていた。


 …………ティナにお願いして、強化魔法でも使ってあげた方がいいのかな?

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