第97話 挨拶

 次の日。


 今日からも『戦士科』の生徒達の稽古の予定となっている。


 これからは毎日午後からの予定で、三つのクラスが毎日、代わる代わる稽古を受ける予定だ。


 この世界も学園もそうだけど、休日という感覚がなくて、三年間ほぼ毎日このスケージュールになるそうだ。


 それはあまりにもやり過ぎなので、三日間繰り返したら一日休みにする事にした。


 午後だけとは言え、ティナも回復が大変だからね。




 いつも通り、ティナ達と学園の入口に入った。


 入った瞬間、入口から両脇に戦士科一年生が全員立っていた。


 一体……どういう事?



 そんな彼らを周りの同級生達や先輩達も不思議そうに見つめていた。


 その時。


 僕を見つけた戦士科の生徒達がその場で――――跪いた。そして。




「「「「「クラウド様! おはようございます!!」」」」」




 えええええ!?


「ちょ、ちょっと!? み、みんな!? どうしたの!?」


 戦士科の上級の強い方の男子の方が声をあげた。


「はっ! 我々戦士科一同。クラウド様に恩返しがしたく、これから毎朝挨拶を行う所存でございます!」


「やめて!? 僕達同級生だよ!?」


「歳は関係ありません。我々はこれからもティナ様・・・・とクラウド様に忠誠を誓おう思っております」


 また忠誠を誓われるの!?


 やっぱり、この世界の挨拶って忠誠を誓うのが挨拶なんじゃないの!?


 僕以外にやってるとこ、見た事ないけどさ!


「ほ、本当にやめてね!? それじゃもう稽古はつけてあけないからね!?」


 生徒達の顔が絶望したような表情になった。


 そんなに驚かなくても……。


 何とか生徒達を宥められたので、他クラスの同級生達や先輩達から白目で見られる事となった。




 次の日。


 今日はもうないだろうと思って、学園の入口に入る。


 …………あの……なんでまた両脇に立っているの?


 そして、僕を見つけた戦士科生徒達は――――――。






 今度は跪かず――――土下座をした。


「「「「「クラウド様! おはようございます!!」」」」」


「そういう意味のやめてよじゃないよ!! そもそも出迎え挨拶をやめて欲しかったんだよ!!」


 起き上がった生徒達がまた絶望した表情になる。


「ふふっ、クラウド。みんなはもう稽古つけて貰えないと不安がっているんじゃないかな?」


「え? だ、大丈夫だから! こうやって出迎えてくれなくても、ちゃんと稽古はやるから!」


 それを聞いた生徒達が安堵したように吐息を吐いた。


「えっと、毎朝出迎え挨拶とかしなくていいからね!? あと普通に接してくれた方が嬉しいから!」


「「「「「かしこまりました!」」」」」


 違う!


 そもそもそんな返事から違うでしょう!


 普通に接してよ…………。


「ふふっ、クラウドに普通は厳しいと思うよ?」


 ボソッとティナが恐ろしい事を言った。




 次の日。


 今日は恐る恐る入って行く。


 開いた扉から顔だけを覗いて中を見ると、前日のような両脇の列はなくなっていた。


「ふぅ……やっと終わったか……」


「ふふっ、でも私は結構気に入ってたけどね?」


「え!? ティナはああいうの大丈夫なの?」


「ん~、うちに帰ると執事やメイド達が出迎えてくれるでしょう? あんな感じ?」


「同級生は執事とメイドと全然違う気がするんだけどな…………」


「それもそうね。でもそれだけクラウドが生徒達にしたためられている証拠だよ」


「そ、そうだと嬉しいんだけど……、ああいう挨拶までされると、どうしてもこそばゆくてさ」


「ふふっ、スロリ街の頃も言っていたもんね。でもいつかは領主となるんだよ? 今のうちに慣れておかないと」


 た、確かに……。


 ティナの言葉に納得してしまって、言い返せなかった。


 午前中は授業がないので、何故かあてられた学園長室でのんびりしていると、イレイザ先生が入って来た。


「クラウドくん! 午前中空いてるのよね?」


「イレイザ先生。そうですよ?」


「んじゃ、うちのお手伝いもお願いしていい? お・れ・いはちゃんとするからさ~」


 普段から少し色っぽい服装のイレイザ先生の色っぽい言い方は中々の大人の魅力が感じられる。


 それにしても、お礼よりは、お手伝いの事が気になる。


 イレイザ先生に付いていくと、またもや実技訓練場に連れて行かれた。


 そこには魔法科の生徒達が沢山こちらを見つめていた。


「あれ? 魔法科の生徒ってこんなに多かったんでしたっけ?」


「ふふっ、こちらの生徒達は二年生と三年生なのよ」


「ええええ!? 先輩達!?」


「そうね。今日は先輩達の為に従魔を召喚して欲しくてね」


「…………従魔を?」


「ええ。クラウドくんにもきっと為になる授業だと思うわ。クラウドくんがというより、これからクラウドくんを補佐してくれる魔法使い達の為ね」


 なるほど……ここにいる先輩達は優秀な魔法使いだ。


 その彼らがどういう風に魔法を使うのか、はたまたどう連携するのかを事前に見れれば、スロリ街に戻った時に、指揮しやすいのかも知れない。


「んと、どういう従魔がいいですか?」


「出来れば魔法耐性が高い従魔が良いわね」


 魔法耐性か…………。


「分かりました。では――――」


 僕は生徒達の前に従魔の中でも魔法耐性が非常に高いクロの子供達、つまり――子ギガントクロコダイル十五匹を召喚した。



「っ!? もしかして、ミディクロコダイル!?」


 ん?


 イレイザ先生から初めて聞く言葉が聞こえた。


「ミディクロコダイル?」


「ん? なんでクラウドくんが聞き返すのよ?」


「だって、初めて聞く名前でしたから」


「…………自分の従魔なんでしょう?」


「えっと、正確には僕の従魔の子供達なんです」


「…………まさかとは思うけど、その従魔って『ギガントクロコダイル』とか言わないわよね?」


 イレイザ先生から凄まじい迫力で聞かれた。


「えっと、うちのクロの子供です」


「クロ……? ギガントクロコダイルじゃなくて?」


「はい。クロです」


 一応、嘘ではない。


「…………ミディクロコダイルなのだから、進化したらギガントクロコダイルだものね……」


 ミディクロコダイルという言葉も気になったけど、イレイザ先生の口から出た『進化』という言葉も気になった。


 それはともかく、一旦魔法科の先輩達との稽古となった。

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