第95話 戦士科の稽古

 『戦士科』の生徒達を稽古させる日になった。


 どうやら人数が多いので、クラスが三つに分けられているらしい。


 しかも、敢えて・・・上級、中級、下級と分けていた。


 つまり、実力順でクラス分けになっているのだ。


 まあ、上級戦士科だからと言ってもまだ一年生なので、いびる人はいないらしい。


 意外にも二年、三年で下剋上を果たされて恥をかいた人も沢山いるとの事だ。


 ただ、中でも一人だけ、群を抜いて目立ってる人が一人だけいるけどね。




「クラウドくん。本日はよろしく頼む」


「よろしくお願いします。アセルス教官」


 アセルス教官は『戦士科』の教官で、全ての武器が得意な珍しいタイプの教官だ。


 既にアグナ教官から紹介されていたので、あとは打ち合わせ通り、これから稽古を始める予定だ。


 すぐに実技訓練場に『下級戦士科』の同級生達が入ってきた。


 みんな僕を見るとクスッと笑う人もいる。


 何となくひそひそ話で、「あの子、オーラも見えないくらい弱いね」と言われていた。


 オーラが見えないのが自分より強い、と考えるよりは、弱すぎると考えるのが自然な流れみたい。



「注目! 本日はここにクラウドがお越しくださった! これから君達の為に従魔を呼んでくださる! 全員! 懸命に励むように!」


「「「「は~い」」」」


 生徒達からはやる気がない訳ではないけど、緩い返事をあげていた。


「では、クラウドくん。よろしく。俺は稽古中の生徒達を見て回るとするよ」


「分かりました。では始めましょう!」


 僕はスロリ街に待機させていた稽古相手を召喚した。




 訓練場に魔法陣が二十現れれる。


 生徒の数が丁度二十なので、二十体の熊さんを召喚した。


「「「「きゃー!!」」」」」


 いきなり現れた事に驚いたのか、悲鳴をあげ始めた。


「はいはい! 僕の従魔なので怖がらなくていいです! 一人一体で稽古しますからね!」


 生徒達の視線がアセルス教官に向く。


 アセルス教官も顎が外れるかのように口を開いていて反応がない。


「ん……ちょっと弱すぎたかな? じゃあもっと強い子を……」


「「「「「やらせていただきます!!」」」」」


 生徒達が大急ぎでそれぞれの熊さんの前に移動した。


「熊さんケガをしたら手をあげてくださいね! すぐにティナが回復に行きますから」


 返事の変わりにため息が聞こえた。


 みんな大丈夫なんだろうか……。



「では――――始め!」



 僕の号令から稽古が始まった。


 熊さん達には出来る限り攻撃はせず、受け止めたり、いなしたり、寸止めとか色々指示しておいた。


 ロスちゃん曰く、僕のスキルのおかげなのか、指示をしっかり理解して聞いてくれるようだから、こういう時、とても便利だね。


 スロリ街の道工事の時だったり、輿を作った時だったり、細かいお願いが出来たので、とても助けになった。


 稽古が始まり、それぞれが懸命に熊さんに木製武器を振り回した。


 そこには驚きの光景が広がっていた。


 なんと、生徒達の武器が熊さん達に当たっても、熊さん達に傷一つ付けられなかったのだ。


 何だか相手の攻撃にそのまま当たっている熊さん達が申し訳なさそうにしている事が可哀そうに見えて来た……。


「うちのエルドくんなら木剣でも危ないのになぁ」


「く、クラウドくん……エルドくんは『剣聖』だからね?」


「エルドくんは歳の頃から熊さんといい勝負していたんです……そっか。エルドくんが強かったんですね~良い事を知りました」


「あはは……はは…………はぁ」


 アセルス教官の乾いた笑い声が聞こえる。


 まあ、まだこちらの子達は成熟していないかも知れない。


 前世でも高校生を超え、大学生となれば大人らしく成熟する。


 その差は恐ろしいほど大きいはずだ。


 生徒達もこれから花開くかも知れない。


 うちのスロリ街は周囲がこういう魔物に溢れているので、幼い頃から接する機会も多いから成熟が早いのかも知れないね。



 なんとなく、一対一を思っていたけど、これは一対二十でいいかもしれないね。


「はーい! 一旦休憩!」


 そういうと、生徒達が疲れたようにその場で座り込んだ。


「恐らく初めての上級魔物のオーラに耐えるだけれ精一杯だったのだろう……クラウドくん。一度彼らを引いてもらう事は出来るかな?」


「なるほど! …………って熊さん達って上級魔物なんですか?」


「!? じょ、上級魔物でもかなり上位だ……よ?」


「そうだったんですね……そっか、熊さん達は上級魔物ね。覚えておきます」


 僕は熊さん達を一度スロリ街に送り返した。


 生徒達の安堵したかのようなため息が聞こえた。




「ティナ。こういう感じの貰って来て欲しいんだけど、出来そう?」


「ん~分かった! すぐ行ってくるよ」


 僕はティナにある事をお願いすると、すぐに向かってくれた。


 暫くして、休憩が終わるタイミングに合わせて、ティナがやってきた。


「よし! ではここから実戦・・形式でやります!」


 心なしか生徒達の顔が絶望の表情に。


「大丈夫! ここからはやり方を少し変えるから!」


 熊さんを一体召喚する。


 そして、ティナが貰って来た――――魔物用大型ミトンを着用させた。


 これは魔物同士の戦い中、大きなケガをさせない為のミトンで、これなら生徒達を殴っても大きなケガはしないと思う。


「ティナ。もしかしてケガした生徒が出るかも知れないから、その時はよろしくね」


「任せて!」


「はい! では熊さん一体と、皆さんで戦ってもらいますよ! 熊さんはミトンの両手でしか攻撃しないので、どんどん戦ってください!」


「「「「「は……い…………」」」」」


 凄い覇気のない返事……みんなそんなに疲れたのか?


「では、始め!」


 そして、生徒達が次から次へと吹き飛ばされていた。




「ティナ。よろしくね」


「うん!」


 負傷して倒れている生徒にティナが近づいた。


 ティナの両手にそれぞれ違う色の光が灯る。


 右手には通常ヒール。


 そして左手には赤い光。


 そして。




ヒールコンボタブル・ビンタ!」




 ベシッ!


 生徒の両頬にティナの両手ビンタがさく裂した!


 淡い緑色の回復の光と、淡い赤色の強化の光が生徒を包んだ。


 痛そう――――――。


 と思った瞬間、それは回復となり、さらに強化魔法で更に元気になる。


 生徒が奇声をあげながら立ち上がる。


 そして、以前とはまるで別人のように、勇敢に熊さんに挑み、また吹き飛ばされた。



 この日。


 ティナの新しい回復技、ダブルビンタにより、生徒達は学園が終わるまで永遠に熊さんに挑まされたのだが、訓練が終わった後、全員の目がハートになっていた。

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