第93話 新しいスキル

 学園に着いて、僕はまっすぐ職員室に向かった。


 暫くは『特殊科』には行けないから、こうして毎日職員室で来る事になった。


 何故か空いている『学園長室』に通され、ここで生活するように言われた。


 ……。


 ……。


「えええええ!? 学園長室で生活するの!?」


「そうだよ? 学園長に許可は取ってあるから~」


「いやいや、サリー先生? 僕達はいち学生だよ?」


「あれ? お兄ちゃん既に教師陣に入れられているでしょう?」


「えっ? いつ!?」


「昨日?」


「昨日!?」


「ほら、『戦士科』と従魔を使って稽古つけてあげるって言ったでしょう?」


「へ? た、確かに言ったけど……教師になるとは言ってないんだけどな」


「稽古してあげるって教師だからね」


「…………言葉のあやだね」


「ふふっ、お兄ちゃんなら大丈夫だよ! もし生意気な生徒がいたら、ボコボコにしていいからね?」


「さ、サリー先生!? ボコボコにしないよ!?」


「大丈夫! ティちゃんに回復して貰えるからー、あ、というか多分ティちゃんにボコボコにされそうだからいっか」


「…………」


 ティナはあの日・・・から専属武装を常時解放していて、物理的なステータスが上がっているようで、鉄ですら握り潰して粉々にしていた。


 あれで殴られたら…………多分死んじゃうよ?


 後ろで僕が思っている事を見抜いたようで、ニコニコ笑っているティナがまた怖かった。




 ◇




 『戦士科』の生徒達と僕の従魔達での稽古が決まったので、従魔達をどう連れて来ようか悩んでいたのが、意外にあっさり解決したので、実技訓練場に予行練習に来た。


 昨日の晩、ロスちゃんが眠っていていいよと言ってたから、ロクの背中で寝て起きたら、なんとレベルが3から4に上がっていたのだ。


 さらには新しいスキルまで獲得していた。


 ロスちゃんの話ではスキル『従魔召喚』があれば、いつでも好きなタイミングで従魔を召喚出来るという。


 しかし、残念(?)ながら僕の新しいスキルは『従魔召喚』ではなかった。




 スキル『従属召喚』


 従属しているモノを無条件で指定する場所に召喚する。




 というスキルだ。


「サリー先生、従魔召喚というスキルって、条件とかあるの?」


「従魔召喚というスキルね! もちろんあるよ? 魔物使いが長年絆を深めた従魔であること。魔物でも上級魔物であること。あと一日一回しか使えず一体しか召喚出来ないスキルだよ~、でもどこからでも召喚出来るから、よくあるのは高位魔物と契約して召喚でしか呼べないような契約をする人が多いかな?」


 高位魔物か……それってロスちゃんのような『災害級魔物』の事なのだろう。


 ロスちゃん達は僕の従魔になってくれたけど、先祖様の日記から察するに、先祖様にもそういう従魔のような友人の魔物がいたと書かれていた。


 それで従魔にはいろんな形があるんだなと知ったけど、どうしてか僕はみんなに好かれているのでまだそういう従魔は出会えていない。


 話を戻して、従属召喚。


 これは従魔召喚と同じモノではあるんだけど、特筆すべきは『無条件で召喚』という文言だ。


 従魔召喚には大きい制約というか条件があるのに比べて、従属召喚は無条件……。


 これなら僕の従魔をいつでも好きなタイミングで好きな場所に召喚できる。


 好きな場所――――というからには、もしかしたらここにいるロスちゃんをスロリ街にも召喚出来るのかな?


「ロスちゃん。ちょっと試す前にロスちゃんを送ってみてもいい?」


【い~よ】


 緩い返事をするロスちゃん。


 そういえば、これが初めてのスキル使用になるのか。


「初めてのスキルをロスちゃんに使うのはちょっと嬉しいかな?」


【ご主人。はよう。いますぐ、やって】


 いきなりやる気満々になるロスちゃん。


 苦笑いを零しながら「はいはい」と返事をして、スキル『従属召喚』を意識する。


 そして、スロリ街をイメージ。


 ロスちゃんをスロリ街まで送る!


 するとロスちゃんの足元に不思議な魔法陣が現れ、光り出すとロスちゃんが消え、ロスちゃんが消えたタイミングで魔法陣も消えた。


「ロスちゃん~スロリ街に行けた~?」


【うん! ばっちり!】


「そっか。じゃあ、こちらに戻すね?」


【待って】


「ん? どうかしたの?」


【エマに捕まった】


「…………母さんか……」


 うちの庭に送ったはずなのに、あの一瞬で母さんに捕まったのか。


 母さんの素早さには驚いた。


【ご主人も来てって】


「へ? このスキルって自分にも使えるの?」


【分かんない】


「ん、ん、ん…………自分には使えないな」


【そっか】


 ちょっと残念そうに答えるロスちゃん。


 終始見ていたサリーちゃんが前に出る。


「お兄ちゃん。それ私にも使ってみて?」


「え? サリーちゃんに? 従属してないといけないから従魔じゃないと使えないと思うよ?」


「え~、私も行ってみたい!」


「ん……試すだけ試してみるか~」


 ……。


 ……。


 サリーの下の魔法陣が現れ、魔法陣と共にサリーが消えた。




「えええええ!? サリー!? ティナ! サリーがあああ!」


 ティナも凄く驚いて回りを見回すけど、サリーの姿が見えない。


【ご主人。サちゃんはここにいるよ】


「へ? サリーもスロリ街に!?」


【うん。エマに捕まってぎゅーされてる】


 あはは……少し予想がつく。



 それにしても、このスキルっても送れるのか。


 それなら呼ぶのも出来そうだね。


「ロスちゃん、こっちに召喚してみるからね?」


【あい~】


 目の前に魔法陣が現れ直ぐにロスちゃんが現れた。


【あ。ご主人】


「ん? どうしたの?」


【これ、強制だね】


「強制?」


【うん。従魔召喚はこちらにも許可を取るから】


 従魔召喚の条件がもう一つあったのか……。


 確かに無条件と書いてあったけど……確かに、相手に確認を取らずに召喚すれば、相手も吃驚しそうだね。


 それにしても、従魔なら念話で話せるけど、サリー達とは念話が使えないからどうしたものか……。


「ロスちゃん。サリーと念話を取る方法はないかな?」


【ん…………わかんない】


 その時、


【ご主人様!】


 いつの間にか肩に乗っているコメが呼んだ。


「コメ?」


【私達はお互い結びあってるから、サリーちゃんの私とお互いに声を届けあう事は出来るよ?】


「へぇー! やってみてもいい?」


【はい!】


「サリー! 聞こえる?」


 ……。


 ……。


「お兄ちゃん! 聞こえるよ!」「クーくん!?」


 サリーと母さんの声が同時に聞こえた。


 時間のラグも殆どない。


 前世でいう、電話に近い感じだ。


「母さん。僕はそっちに行けないから、サリーをこっちに呼ぶけど大丈夫?」


「いいわよ! それなら私も呼んで頂戴!」


 ん……まあ、いっか。


 僕はサリーと母さんを召喚した。

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