第92話 教官の提案

 サリー先生の授業が終わった時点で、チャイムが鳴って授業も終わりとなった。


 そのまま職員室に連れて行かれて、気付けば沢山の先生に囲まれた。


「へぇ……貴方がクラウドくんね」


 多くの先生が僕の事を下から上まで見渡して、そう言っていた。


 サリーが、お兄ちゃんに逆らう者は~なんて言ってしまってるから、僕の事を見ておきたいのだろう。


「あはは…………クラウドと申します」


「中々可愛い顔ね。私は二・三年生の魔法科を担当しているイレイザっていうわ。そちらの頭の上に乗っている可愛い犬ちゃんがロスちゃんね?」


「は、はい」


 イレイザ先生はロスちゃんもまじまじ見始めた。


 完全にオーラを遮断しているロスちゃんは、ただの子犬に見えるはず。


「凄いわね…………『災害級魔物』なんて、こんな目の前では初めてだわ」


「あれ? 分かるんですか?」


「ふふっ、私達も舐められたモノね。まあ、それくらい見抜ける力くらいはあるわ。さらに言うなら私は『災害級魔物』と戦った経験も、勝った・・・経験もあるわよ」


 イレイザさんの目線や顔つき、何より『オーラ』はそれを証明するかのようだった。


 今まで見た人の『オーラ』の中では群を抜いて強い。


 と言ってもまだ学園の中だけだけど。


 それでも、多分だけどイレイザさんの強さは王国でもトップクラスだと思う。


「イレイザ先生って…………どうして魔法科に?」


「ん? そりゃ魔法使いだからね」


「魔法使い? イレイザ先生が?」


 それを聞いたイレイザ先生が、目を細めて顔をぐいっと近づけてきた。


「ふふっ、その先は言っちゃダメよ?」


 すっと人差し指で僕の唇に触れる。


 大人の魅力が素敵なイレイザ先生にドキッとしてしまう。


 真っ赤な長い髪は大人の香りがしていた。


「クラウド……?」


 僕の腕を引っ張るティナ。


「あはは……サリー、今日はどうしてここに?」


「すまない。俺が呼んだんだ」


 先生の群れの中から、実技担任のアグナ教官が出て来た。


「アグナ教官。どうしましたか?」


「ああ。ロスちゃんの件でね」


「…………クラスメイトですか?」


「ああ。まだ出会って間もないのもあり、お互いの事を知らなさすぎるのだ。そんな中、ロスちゃんのような『災害級魔物』のオーラを目の前で見てしまって、クラウドくん。君に恐怖しているのだ。このままでは君が気になって授業どころではなくなってしまう」


「何となくそんな気がしました。僕に出来る事なら何でも協力します。知らなかったとは言え、うちの従魔が大変な事をしてしまいましたから」


「いや、従魔は主を護るのが役目……ロスちゃんは当たり前の事をしたまで。彼女にあまり怒らないであげてほしい」


 アグナ教官は、ごつい感じの見た目なのに、従魔を大切にする方なのが分かる。


 優しい眼差しでロスちゃんを見つめると、ロスちゃんが前足をあげて礼を言う。


 本当この子は………………のほほんしているように見えて、『災害級魔物』なんだもんな。


「分かりました。そもそも僕が知らなさすぎだったので、これからは大丈夫です。出来る事は何でも言ってください!」


「それは助かる。それで、サリーちゃんから聞いた話では、クラウドくんの従魔は他にも沢山・・いるとのことだったが、それで折り入って相談があるのだが」


「いいですよ? 従魔達に何かをさせるんですか?」


「ああ、折角強い従魔がいるなら、『戦士科』の連中に稽古を付けて欲しいのだ。強い魔物と戦える機会はそうある訳ではない。更に一人で戦える機会はもっとない。本来ならゆくゆく別な科との合同授業があるのだが、人数や時間の関係上、一対一で稽古は厳しいのだ」


「なるほど…………分かりました。それなら協力します」


「それはありがたい。従魔達をどう連れてくるかは考えておこう」


「分かりました。僕も色々考えてみます」


 アグナ教官の頼みを聞いたので、ティナ達と家に帰ってきて、またゆっくり過ごした。




「ロスちゃん」


【あいっ】


「従魔達をここに連れて来たいんだけど、いい方法ないかな?」


【ん~スキル『従魔召喚』!】


「へぇー、そんなスキルあるんだね? ん……僕は使えないかな?」


【ご主人はまだ使えないのか~】


「あはは……どうやったら才能のレベルを上げられるんだろう?」


【ご主人、レベル上げたいの?】


「え? う、うん」


【じゃあ、いこ】


「行こう!?」


【ロク~おいで~】


 ロスちゃんがいきなりロクを呼んだ。


 ロスさん!?


 今、夜だよ!?


【ご主人はロクの上で眠ってていい】


「眠ってていい……」


【ティちゃんに出掛けるって言ってきて】


「は、はい……」


 ロスちゃんに言われるがまま、今から出掛けるとティナ達に伝えると、凄く笑われた。


 ティナ達もロスちゃんを信用しているからこその笑顔だったと思う。


 僕は久しぶりにロクの背中に乗り、ロスちゃんに連れられるまま、どこかに運ばれた。




【ご主人。寝ていいよ】


「ん……明日も学園だから、じゃあ、ロクの背中で眠らせて貰うね」


【あい~】【了解~】


 ロクは相変わらず僕達の護衛も兼ねて王都の上空で待機して貰っているが、普段から王都内に連れて回る訳にはいかないのだ……見た目だけでも大混乱を起こすかも知れないからね。


 自己紹介やサリーの授業で疲れたのか、僕はロクの背中ですぐに眠りについた。




 ◇




「クラウドー!」


 誰かが僕を呼んでいる気がする……。


 温かい柔らかなモノに触れてる気がする……。


 ん!?


「あれ!? ティナ?」


「おはよう! やっと起きたんだね」


 いつの間に屋敷に戻り、ロクの背中で眠ったまま、ティナが起こしに来てくれたみたい。


「お出かけと聞いてたのに、眠ったまま帰ってきて吃驚したよ?」


「あ、ロスちゃんが寝ていいって言うから、気づいたら寝てたね」


「そっか。寝て大丈夫だったならいいけど……」


【ご主人】


「あ、ロスちゃん。おはよう」


【ん~、レベル上がったでしょう?】


「どれどれ…………」


 ステータスを確認した所、『ちょうきょうし』の才能レベルが4に上がっていて、新しいスキルも獲得していた。


 ロスちゃんから撫でるようにと言われ、学園に到着するまでの間、ずっと撫でてあげる事となった。

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