第90話 自分のオーラ

「魔法を使うには、まず明確なイメージ!」


「イメージ」


「そして、呪文!」


「呪文」


「そして、なによりも、使いたいと思う心!」


「心……」


 転生してから魔法が使いたいと思ってはいても、それは漠然とした思いだった。


 何が何でも魔法を使ってやると思っていたわけではない。


「よし…………イメージするのは炎…………」


 右手に集中する。


 イメージは燃える炎。


「って、サリー先生、呪文が分かりません」


「呪文は勝手に出てくるよ?」


「勝手に出てくる?」


「うん。魔法を使うには自然と呪文が口から出てくるの。それがイメージなの」


 あ。


 もしかして、イメージって僕が知っている『イメージ』という言葉と違うのか?


「そもそもイメージってどうするの?」


「イメージというのはね。自分の中の魔力がこういう風に変わるだろうな~って思う感じ?」


「自分の中の魔力」


「お兄ちゃんって、もう他人のオーラが見えるんでしょう?」


「そうだね」


「今の私のオーラも見える?」


「ん? もちろん見えるよ?」


「…………本当、お兄ちゃんって何でも出来るのね」


「へ?」


「オーラって隠す事が出来るの。ロスちゃんほど強大なオーラだと抑え込むのが大変なんだけど、出来ないほどじゃない。私も、今は出来る限りオーラを抑え込んでいるの」


「え? でも普通に見えるけど……」


「他人の隠したオーラを見る方法は二つあって、一つはそういう特殊なスキルを使う事。もう一つは、自分より遥かに弱い・・人であることなの」


「…………でも僕はサリーより弱いけど?」


「お兄ちゃん、自分のレベルっていくつだったの?」


「ひゃく…………」


「え!? お兄ちゃん。もうレベル最大値なの!?」


「………………もしかして、最大値って、100なの?」


「え? そうでしょう? レベルの隣に最大値も書かれていたでしょう?」


 ……。


 どうしよう…………最大値が100じゃなくて0がもう一つ多いって言うべきだろうか……。


「種族によってレベル最大値に差もあるみたいだから、古龍種とかはとても強いのよ」


「なるほど……」


「それでレベルが上がればあがるほどステータスも上がる。ステータスに差があれば相手の隠したオーラも見抜く事が出来るの」


「そうか……これは見抜いてるから見えるのね」


「そうそう。それでは今度は自分のオーラを見てみて」


「自分のオーラ」


「うん。私ではお兄ちゃんのオーラは見えないけど、ずっと隠しているのだと思ってたのよね」


 一緒に聞いていたティナも頷いた。


 そういや、自分のオーラってどうなっているんだろう。


「目を瞑って、心の中のオーラを感じるの。上から自分を見下ろす感覚かな?」


 サリーに言われた通り、目を瞑る。


 そして、自分の中のオーラというのを見る感じ。


 ……。


 ……。


 あ、少しずつ見えて来た。


 何だろう…………色が変?


 色んな色が混ざって…………いや、これは――――――――虹色だ。


 心の奥に見える虹色のオーラは、綺麗な円状になっていて、複数の円がぐるぐる回っている感じだ。


 前世で例えるなら、惑星の軌道宇宙儀というべきか。


 大きな円状の光がそれぞれ違う方向にぐるぐる回り続けている。


 さらにその円状の光に、惑星を思わせるような大きな光の玉はずっと動き続けている。


 まさか…………転生してるのに宇宙の神秘的なモノを感じる事になるとはね。


 何となく動き続けている光る玉をよくよく見ると、小さな絵柄が書かれている。


 …………ロスちゃん!?


 何となく犬の絵柄からロスちゃんの気配を感じる。


 こっちの鷲はロクか?


 あっちのワニはクロだな!?


 何となく従魔にしている彼らの気配を感じられた。


 もしかして、従魔になったらここに映るのかな?


 最後に、自分のオーラの大きさを確認する。


 中央は先程の宇宙儀のようなモノだが、そこから虹色の光が太陽のように溢れていた。


 少しずつ自分を見下ろす感覚で見つめた。


 どんどん遠くなる。


 それでも光を見切る事が出来ない。


 何となく身体から出て自分自身を見下ろす感じになっても尚、光が見切れない。


 今いる実技訓練場内すら収まらない。


 更に遠から覗く。


 バビロン学園が見えるけど、僕の虹色の光があふれている。


 そして――――結局分かったのは、僕のオーラの大きさは、王都より少し大きいって事が分かった。




 ◇




「ロスちゃん」


【あい~】


「ロスちゃんって、あの山から僕のオーラを見つけて来たの?」


【うん~、ご主人のオーラはまだ小さかったけど】


「ん? 僕のオーラって大きくなったの?」


【うん。見えるのは多分私くらいかな? 他は何となくしか見えないと思う】


「へぇー、ロク達でもなんだ」


【うん~。ご主人のオーラは変わってるから】


 う、うん……何となく言われて納得する。


「お兄ちゃん、自分のオーラが見えたね?」


「うん。おかげで見れたよ」


「それは言わば魔力・・なの」


「これが魔力なんだ?」


「うん。厳密に言うと、魔力というよりは、魔力の姿なんだけど。それをこねこねして好きな形に変えるの」


 こねこねか。


 粘土みたいなイメージかな。


 何となくそんな事を思いながら『炎』を思い描いていると――――



 ぼぅっ



 目の前に淡く燃える炎が現れた。


「お兄ちゃん! 凄い! 既に呪文もなしで魔法が使えたよ!」


「魔法使えたね! おめでとう! クラウド」


 サリーとティナが自分の事のようにすごく喜んでくれた。


「あれ? サリーが魔法を使う時って、魔法陣とか出てくるけど、僕は出て来てない気がするんだけど?」


「うん! それは『自由魔法』って言われている魔法で、魔法の中では最上位魔法だよ!」


「自由魔法……」


「思い通りに魔法が使えるようになるの! 私も練習しているけど、全然出来ないの! でもお兄ちゃんは初めての魔法で、自由魔法なんだから、本当にすごいんだからね!」


 サリーが興奮しすぎて、抱き付いて来た。


 全く悪い気はしない。


 魔法を教えてくれたサリーの頭を優しく撫でる。


「ありがとう、サリー。おかげで魔法が使えそうだよ」


「うんうん! あ、お兄ちゃん! でも『自由魔法』には弱点もあるよ?」


「弱点?」




「うん! それは想像する魔法なんだから、想像出来ない魔法は使えないし、心の底でこれ以上はダメと思う魔法も使えないよ? 例えば、一発で王都で滅ぼせる魔法とか、お兄ちゃんが心の底でそれがやりたいと思わない限り使えないよ?」




「そんな物騒な魔法は使わないよ!!」


 僕の返事に二人とも大笑いした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る