第87話 自己紹介
次の日。
いつの間にか寝落ちした僕はティナにベッドまで運ばれたと聞いた。
リビングに行くと、早起きしていたティナが朝食を準備していた。
「ティナ」
「クラウド! おはよう」
「おはよう。昨日はありがとう」
「ふふっ、寝落ちなんて珍しいわね。朝食はまもなく出来るから顔でも洗って来たら?」
「分かった~」
僕はスロリ街から持ってきた洗面台で顔を洗い流した。
この洗面台。
王国中で大人気で、注文が殺到しているんだけど、基本的にバルバロッサ辺境伯様かガロデアンテ辺境伯様を通さないと売れないようになっている。
まだ子爵位のベルン家に圧力がかかる可能性があるからだ。
今では王国内の高級品となっている洗面台。
もっと量産体制が進んだら一般人向けの洗面台や風呂、トイレなどを販売する予定だ。
まあ、僕が学園に入っている間は無理だとは思うけど。
またリビングに戻ると、眠そうなサリーが降りて来て、何も言わずに僕の胸に抱き付いてきた。
「オニイチャンセイブン、ジュウテンチュウ~」
毎朝僕を見つけるといつもこれだ。
片言のサリーがまた可愛い。
朝食を取り、僕たちはみんなで登校した。
◇
僕とアーシャは『特殊科』なので、そのまま特殊科のクラスに向かう。
サリーとティナ、意外にもアレンも『魔法科』なので、魔法科のクラスに向かう。
『戦士科』はエルド一人だ。
本来なら『戦士科』が一番人数が多いはずなんだけどな…………アレンが『戦士科』じゃないのは、光魔法を極める為らしい。『勇者』なので学科関係なく、好きな授業を受けられるらしいから、『戦士科』にもちょくちょく顔を出すつもりだという。
僕とアーシャがクラスに入ると、「おはよう!」って元気な声が出迎えてくれた。
「「おはよう、アリアさん」」
「二人は相変わらず仲良いわね」
「そりゃ……婚約者だからね」
左手薬指の指輪を見せる。
「な、なっ!? こ、婚約者だったんだ……」
「そうだよ。…………もう一人いるけど」
「…………クラウドくん。貴方、意外と肉食だったのね……」
「いやいや、どちらかと言えば、僕が食われてる方なんだけどな」
「…………」
ジト目で見つめてくるアリアさん。
そんなやり取りを終え、机に座り待っているとチャイム音が鳴って、先生が入ってきた。
そして、それぞれの自己紹介の時間となった。
昨日は施設を覚えて貰う為に自己紹介はしていなかった。
一人ずつ自己紹介を終え、最後の僕達とアリアさんの番になった。
「私はアリア・ソルテスです。従魔はここにいるガルシュです! お父様のような偉大なる魔物使いを目指して入りました! これから数年間、お互いに切磋琢磨してくださると嬉しいです! よろしくお願いします!」
アリアさんの紹介が終わり、みんなも輝いている目で拍手を送った。
それにしてもアリアさんのお父さんは偉大なる魔物使いらしい。
少し気になるから、今度聞いてみようと思う。
…………あれ?
なんか聞きたい事あった気がするけど、なんだっけ?
「初めまして、アーシャ・デル・ガロデアンテと申します」
アーシャ紹介から、クラス中に悲鳴に近い驚きの声があがった。
アリアさんも目が大きくなって、口をパクパクしている。
「実は私は魔物使いではありません。こちらの婚約者のクラウドくんと一緒に入学しました。ですので、まだ皆様のように強くありません。こちらはクラウドくんの従魔の一人、イチくんです。これから私と共に戦ってくれる従魔ですので、色々教えてくださると嬉しいです。よろしくお願いします」
アーシャの言葉が終わってすぐに、クラスメイト達が割れんばかり拍手を送った。
それはもう割れんばかりの――――――。
そして、最後に僕の番となった。
アーシャの婚約者の事もあり、みんなが僕に注目する。
……あんまりこういうの慣れてないんだよな。
スロリ街では見知った顔だったり、領主の息子だから僕の事を知らない領民もいなかったからね。
こういうアウェイな雰囲気は、人生初めてかも知れないと思いながら、前世の事を思い出して苦笑いが零れた。
「初めまして、アーシャから紹介があったように、アーシャの婚約者のクラウドです」
みんなからの視線が不思議なモノを見ているかのような目線だ。
辺境伯令嬢の婚約者がこんな冴えない僕だからなのだろう。
「才能は魔物使いで、従魔は、まあ、色々いるんですけど、イチくんはこれからアーシャの従魔になって貰っています。えっと、僕の従魔は――――あれ? ロスちゃん? またどっか行った?」
周りを見渡してもあの可愛らしい白い真ん丸ふわふわが見えない。
結構目立つから、視界に入ればすぐ見つけられるんだけどな。
「ロスー! 自己紹介してるよ? おいでー!」
【あいー】
ロスちゃんの念話による返事が聞こえた。
「あ、僕の従魔はロスちゃんって言うんですけど、すぐ来ますから紹介しますね」
ほんの少しして、教室内の全ての従魔達が立ち上がった。
クラスメイト達がアタフタし始める。
アリアさんも突如立ち上がったガルシュに驚いていた。
ほんの数秒後。
今度は、クラスメイト達から悲鳴が聞こえ始めた。
あれ?
みんなどうしたの?
急に震えだして。
みんなの視線が扉に突き刺さっていた。
――――そして。
ガラッ
扉が開き、見慣れた白い真ん丸ふわふわ物体が入ってきた。
と同時に、悲鳴を通り越して叫び声が教室に響き渡る。
中には立ったまま気絶している子まで出て来た。
「え? みんな? どうしたの? この子は僕の従魔で、可愛らしい
「「「「「どこが子犬だよ!!」」」」」
泣き叫んでいたクラスメイト達からツッコミが入った。
そう言えば、入学式でもロスちゃんが叫んだらみんな怖がっていたよね?
一体何が起きているんだ?
アーシャは至って普通なんだけどな……。
「く、く、クラウドくん? あ、あ、あ、貴方……さ、サリー様の、お、お、お兄様?」
「ん? あ~言うの忘れてたかな? サリーは僕の妹だよ~」
アリアさんの目が僕とロスちゃんを高速で交互に行き来していた。
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