第85話 首席

 一年生の首席か……どんな凄い人なんだろうと楽しみで待っていた。


 ――――――すると。






「えええええ!?」




 壇上にとんでもない女性・・が一人、上がって来た。


 とても見慣れた彼女は、凛々しい表情で壇上の中央に立つ。


 そして、その頭の上にはとても見慣れた小型犬が可愛らしく乗っていた。











「初めまして! 一年生の首席――――――サリー・ベルンと申します!」


 あまりの驚きに、僕は口をパクパクさせる事しか出来なかった。


 ここにいないはずのサリーが、しかも壇上に!?


 サリーは僕より歳が二歳低い。


 本来の十五歳の入学なのだが彼女は十三歳だ。


 入学出来る歳と離れているはず。


「此度、飛び級・・・して首席となり、入学出来た事をとても嬉しく思います! これから新入生の代表としてバビロン学園で多くを学び、生徒の皆様と一緒に学園生活を頑張って行きたいと思います!」


「あ、アーシャ? さ、サリーだよ?」


「そうね」


「と、飛び級って……どういう事?」


「飛び級は歳関係なく、規定の試験……本来の試験よりも数段難しい試験を受けて、それを突破した者だけが入る事が出来るの」


「えええええ!? そんな仕組みあったの?」


「ふふっ、クラウドくんらしい反応だね。まあ、今回はサリーちゃんだけではないんだけどね……」


「へ?」


 驚いている僕をよそに、サリーはまだまだ続けた。



「首席として、先輩及び新入生、先生の皆様に一つだけ言っておきたい事がございます! ――――――お兄ちゃんに逆らう者は私が許しません! これは絶対です! 勇者も聖女も剣聖も賢者も敵対すると心得てください! 分かりましたね!?」



 サリー様!?


 お兄ちゃんって僕の事よね!?


 しかも、さらっと言った勇者ってアレンの事だよね!?


 壇上にアレンとティナが上がって来た。


 二人は小さく挨拶をすると、生徒達から鳴り止まない歓声が上がった。


 い、一体……何がどうなっているの!?


「ふふっ、クラウド? 落ち着いたら?」


「へ? あ、あ。うん」


 アーシャに促されその場に座った。


 そして直後、もっと悲惨な出来事が起きる。




「もし、私達に敵対するのであれば、お兄ちゃんの威光で――――こうなるからね?」




 サリーの頭の上に乗っていたロスちゃんが立ち上がって、鳴き声をあげた。


「がお~!!!!」


 すると、生徒達からの歓声が悲鳴に変わった。


 え!?


 ロスちゃんの鳴き声でみんなの歓声が悲鳴に変わったよ?


 先生達もアタフタしていた。


「お兄ちゃんに逆らう者は――――どうなるか分かったよね? ではこれからよろしくね!」


 サリーの乱入(?)によって、講堂内が地獄絵図になった。


 中には泣き叫ぶ生徒とかもいて、先生達が宥めに走っているけど、先生達も顔色が悪い。


 ロスちゃんの叫びってそんなに効くの?


 良く分からないけど、どうやら皆にはロスちゃんの叫びから何かを感じるのかな?


 暫くして地獄絵図が落ち着いて、先生の誘導で退場して、そのまま各教室に向かった。


 僕は重い足取りで教室に入って行った。



 ◇




 教室には顔色が優れない生徒達が机にうなだれていた


「はぁ…………ん? 貴方はピンピンしているわね?」


 実技試験で最初に試験を受けたアリアさんだった。


「ま、まぁ……僕にはあの叫びが良く分からなかったので……」


「そ、そうなの? 凄い……のか? あの子犬とんでもない従魔よ? いい? サリー様のお兄様には絶対に逆らわないでよね?」


 あ、あはは……ごめん、それ僕なんだ。


「う、うん。ありがとう……肝に銘じておくよ」


「ふふっ、でも貴方のような人がいるなんて、『特殊科』も少し面白いわね。私も頑張らないと!」


 アリアさんの隣に静かに眠っているガルシュを見た。


 十日前に見た時より、一回り強くなってそうだ。


「アリアさんなら大丈夫だよ。ガルくんももっと強くなったみたいだし」


「あれ? 貴方、私の事を知っているの?」


「ええ、まあ、実技試験の時に拝見したから」


「っ!? あ、あれは…………でもちゃんと強くなっているからね! ガルにあんな思いは二度とさせないんだからっ!」


「あはは、既に十分強くなっていると思うよ? お互いに頑張ろうね。私はクラウド、こちらはアーシャ」


 アーシャも小さく挨拶をした。


「私はアリア・ソルテス。魔物使いで有名なソルテス家の娘よ! これから切磋琢磨しましょう!」


 アリアさんの元気いっぱいの挨拶に、教室内の生徒達も少し顔色が良くなり始めた。


 ここにいる皆は、王国の次を担う者達だからね。



 僕とアーシャも番号が付いた机に座った。


 偶々なのか、隣同士で座れた。


 暫く待っていると、入口が開き、二人の先生が入って来た。


 一人は初めて見る方で、もう一人は実技試験で担当になったアグナ教官だ。


「こほん。では軽く紹介を始める。『特殊科』の担任のヒオリという。主に学科を担当しているが、それなりには戦える。こちらは実技担任のアグナ教官だ。戦闘魔物使いでは非常に有名な方で、上級魔物を三体も連れられている。既に知っている生徒も多いと思うが、疑問があったらどんどん質問するといい」


「「「「はい!」」」」


 おお!?


 周りの反応が早い。


 ちょっと慣れない雰囲気に呑まれてしまったが、隣のアーシャがクスッと笑って「これから慣れていけばいいわ」と言ってくれた。


 そうだね。


 サリーの顔に泥を塗るわけにもいかないし、兄としてビシッとこれから学園生活を送らなくちゃね。



 それから担任先生となったヒオリ先生から色々説明が始まった。


 授業の内容とか、予定とか、色々説明があって、一年の序盤は殆どが座学だそうだ。


 説明が終わった後、ヒオリ先生を先頭に学園内の案内をしてくださった。


 既に内装は知っていたけど、より詳しく教えてくれてとても楽しかった。


 それと大きな体育館のような場所があって、そこでは共同授業があるそうなので、それもとても楽しみになった。


 その時、偶々『戦士科』が入って来て、『戦士科』のみんなとも初めて顔合わせをした。


 人数が多すぎるので、まだ誰が誰なのかは分からないというか、まだクラスメイトの名前も覚えてないからね。


 外に出ようとした時、『魔法科』の生徒も入ってきた。

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