第84話 入学式

 試験も終わり、僕達は王都を散策して帰り、結果を待った。


 どうやらエルドは教官をボコボコにしたらしくて、その場で合格と言われたそうだ。


 僕も似たモノだったから、次の日には早速合格通知書が三通届いたので、四人でささやかなパーティーをして合格を祝った。


 それにしても、ティナとアーシャが作ってくれる料理が、母さんの料理に匹敵するくらい美味しい。


 二人ともずっと母さんの元で料理の勉強をしていたからね。


 一つだけ気になるのは、ティナの「美味しくなれ~」と言いながら光魔法を灯した手で料理をしているのだけど、あれで危険な毒を消したり、鮮度を良くしたりするらしい。


 聖女の力をあんな風に使うのはティナくらいしかいない気がするよ……。




 そんな日々を過ごした僕達は十日が過ぎ、合格発表を見に行く事なく、バビロン学園に入学する事となった。




 ◇




 バビロン学園の職員室。


「ば、馬鹿な! 本気で言っているのか!?」


「だ、だが彼女達がそうしろと直談判に来たのだぞ!?」


 職員二人が声を荒げて議論していた。


 他の職員達を二人を囲み、悩んだ表情をしている。


「クラウド令息を主席・・にしなかったら、どうなるか分かっているのか!」


「だ、だが…………彼女の成績も申し分ないのだ。寧ろ、クラウド令息よりも高い!」


「それは俺も認めよう。だが、クラウド令息の従魔は『魔王クラス』だぞ!? 暴れたら誰が止められるというのだ!」


「そ、それもそうだが……」


 二人の議論に白髪が目立つ人が入って来た。


「おっほほ、主席の件じゃな?」


「!? 学園長!」


「よいよい、アグナや。そのクラウド令息の従魔は間違いなく『魔王クラス』じゃな?」


「そ、そうです! もし……主席じゃない事を腹癒はらいせにでもされたら……学園どころか、王都が危ないんです!」


「……ふむ。本当にその従魔が『魔王クラス』ならそうじゃろうな……だが、よくよく見るのだ。みんなのものも」


「「「????」」」


 学園長が指差した紙を職員達が一斉に覗いた。


 そこには主席候補の二人の紙が置いてあった。


 一人はクラウド、一人はとある女性だった。


「ここをよくよく見てみよ」


「…………!? こ、これは!? ま、まさか!?」


「そうじゃ、彼女達がわざわざ直談判まで来たには理由があるはずだ。だからここは主席をクラウド令息ではなく、彼女にすべきじゃろう」


「…………」


「大丈夫じゃ。もしもの時は、我々には『聖女様』もおる。我々も全力で当たれば何とかなるじゃろうて」


「……分かりました。今回の主席は、クラウド令息ではなく、彼女にしましょう」


 そして、職員達の満場一致で主席をクラウドではなく、もう一人の女性に決めた。


 その出来事がまた大きな波乱を呼ぶとは、予想出来ていても、防げる人は誰もいなかった。




 ◇




「クラウド~」


「はいはい~」


「こっち見て」


 ティナに呼ばれ向くと、僕の服を整い始めた。


「ん! これなら大丈夫ね」


「ありがとう」


「今日は入学式だからね。ビシッと決めないとね~」


「もう始まるんだな…………何だか早かったな」


「そうね。あ、私は演説があるから、最初から離れちゃうからね?」


「『聖女様』も大変だね」


「それは仕方ないよ。私に出来る事を頑張らないと」


 僕はティナの頭を撫でる。


 サラサラした美しい金髪が撫でる度に揺れて日の光に当たり美しさを増した。


「もし大変な時は言っていいからね? あまり頼りない婚約者だけどさ」


「そんな事ないよ! クラウドがいてくれるのが一番の力だからね?」


 既に婚約してから五年も経っている。


 本当なら学園に入る前に結婚の話も出たんだけど、ベルン領の開発で忙しく、ラウド商会の躍進もあって結局結婚式まではいけなかった。


 その代わりに――――――。




「ん……」


 僕から離れるティナは惜しむように小さな声を出す。


 彼女の唇がとても可愛らしい。


 まだ自分の唇に残っている彼女の温もりで、今でも心臓がバクバクしている。


「さ、さあ、行こうか? アーシャも待っているし」


「うん!」


 ティナが腕に絡むと、柔らかい感触が僕の腕の肌に吸い付く。


 そのまま、アーシャが待っている馬車乗り場に向かった。




 ◇




 入学式の案内通りに進み、広い講堂に案内された。


 僕とアーシャは同じ『特殊科』の同じクラスなので、隣同士に座る。


 エルドは『戦士科』でなので、離れた『戦士科』の所に座った。


 暫く待っていると、合格した生徒達が次々と入って来た。


 一番多いのは、やはり『戦士科』だね。


 『魔法科』と『特殊科』は同じくらい人数だけど、両方を足しても『戦士科』の人数に勝てないくらいだ。


 少しずつ人が増えていき、番号が書いてある椅子が全部埋まった。




 正面にある壇上に白髪のお爺さんが一人出て来た。


 『魔法科』から黄色い声があがった。


 有名な先生なのか?


「あら、珍しいわね」


「ん? アーシャ、知り合いなの?」


「ええ、お父様と一緒に会った事があるわ。あのお方は――――」




「おっほほ、初めまして。バビロン学園に合格した生徒達よ。儂はバビロン学園の学園長をしているアルヴィス・イグニールという。これからバビロン学園で大いに学び、羽ばたいて欲しいのじゃ。バビロン学園には素晴らしい教師ばかりじゃ。困った事があったらどんどん相談し、楽しい学園生活を送るといいのじゃ。では老害はそろそろ下がるとしよう。みんな楽しむのじゃぞ~」


 ゆるふわな挨拶を終え、お爺ちゃんが下がって行った。


 前世での校長先生って話が長くて嫌だったけど、お爺ちゃんはそんな感じが全くせず、好印象だった。


「あの方は王国最強魔法使いの大賢者の称号を持っている方なの」


「大賢者!? 凄いね」


「ふふっ、サリーちゃんの目標になる方だね」


「二年後が楽しみだね~」


「…………そうね」


 それから、三年生の生徒会長の挨拶があった。


 生徒会長は凄くイケメンの男性で、黒い髪の洋風な顔立ちがとても魅力的な先輩だった。


 女性からモテそうなのは、言うまでもない。


 生徒会長も短い挨拶で終わった。


 ――――そして。



「では、次は一年生成績優秀者の首席合格者による挨拶になります」



 講堂内にアナウンスが響いた。

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