【WEB版】転生してあらゆるモノに好かれながら異世界で好きな事をして生きて行く【ComicWalker漫画賞受賞作】

第83話 波乱の実技試験

　アリアさんの戦いから数人の戦いが終わった。

　魔物使いはアリアさんより戦えた人は誰もいなくて、もしかしたらアリアさんの戦いはかなりハイレベルだったのかも知れない。

　というか、教官のファイアウルフが強すぎるのかな？

　うちのウル達よりも強そうだ。

【ご主人】

「ん？　どうしたの？　ロスちゃん」

【あのファイアウルフは、うちのウル達の中では、最弱（・・）だからね？】

「…………」

　そ、そっか…………というか心を読まれたよ。

「では次！」

　僕の前のアーシャの番になった。

　アーシャが前に出る。

「アーシャ・デル・ガロデアンテと申します。才能はございませんが、このイチくんと一緒に戦います」

　周囲から驚く声が聞こえる。

　案内の先生も、教官達も驚いている。

「こ、こほん。で、ではアーシャ令嬢。グリンデ教官に試験を受けてください」

　さすがに辺境伯令嬢ともなると、そうなるよね。

　アーシャがゆっくり向こうに歩き、グリンデ教官の前に立った。

　グリンデ教官も魔物使いで、蛇型従魔と、大鷲型従魔を従えている。

「では、始め！」

　案内の先生が開始を告げる。

「イチくん！　お願い！」

「しゃー！」

　イチが雷魔法を放つ。

　一瞬で魔法が教官の蛇型従魔に直撃。

　短い鳴き声から、グリンデ教官の従魔が一瞬で倒れた。

「ギャリック！！！」

　グリンデ教官の悲痛な叫びをあげながら、蛇型従魔に抱き付いた。

「し、試験終了！」

　案内の先生が急いで試験を終わらせ、蛇型従魔を運ばせた。

　ちゃんと従魔を運べるような人員も配置している。

　恐らく受験生の為の人員なんだろうけどね……。

「アーシャ。お疲れ」

「ただいま～、イチくんが頑張ってくれてすぐ終わったわ」

「そうだったね。イチくんもお疲れ」

　アーシャと一緒にイチの頭を撫でる。

　満足げに笑顔になっているイチが可愛い。

　グリンデ教官の従魔の移動が終わり、次は僕の番になった。

「クラウド・ベルンです。魔物使いです。従魔はこの子です」

　この子を言いながら、頭の上に乗っている緩い顔のロスちゃんを指差した。

　その瞬間、見ていた受験生達が笑い声をあげた。

「……で、ではクラウド令息。アグナ教官の所に」

　僕はアグナ教官の前に立った。

「…………子犬型魔物？　初めて見る種だな」

「はい、従魔のロスちゃんです」

　またもや後ろの受験生達から笑い声が聞こえた。

「…………ファイアウルフ」

　教官がファイアウルフに触れる。

　しかし、ファイアウルフは一向に動かない。

「ん？　どうした？　ファイアウルフ」

　アグナ教官はファイアウルフを見ると、ファイアウルフが震え上がっていて動けていなかった。

「……どうしたんだろう？」

【……】

　ロスちゃんが前右足を上げる。

　急にファイアウルフがビシッとなって前に出て来た。

　僕達の前に立つファイアウルフは直立不動のままになっている。

「では、始め！」

　……。

　……。

　ファイアウルフはそのまま横に倒れた。

　…………？

「ファイアウルフ！？　ど、どうした！！」

　クールなアグナ教官がファイアウルフの元に駆け寄った。

　どうしたんだろう？？

【ご主人、私達の勝ち～】

「へ？　そうなの？　またロスちゃんが何かしたの？」

【ま～ね～】

　いつの間にファイアウルフを倒したみたい。

　まあ、いいか。

「…………クラウド令息。これは君が？」

「え、ええ、まぁうちのロスちゃんがですけど」

「…………そうか。分かった。試験は終わりとする」

　アグナ教官の意外な答えに、他の受験生達が不満の声を出していた。

　これで落ちたとかにならなければいいけど……。

【ご主人、落ちる心配はしなくていい。落としたら私がこの塔、壊す】

「いやいや、ロスちゃん駄目だよ？　この塔壊したらめちゃめちゃ怒られるからね！？」

【……】

　最近ロスちゃんが過激化している気がする……。

「クラウドくん、お疲れ～」

「ただいま、何だか呆気なく終わったよ」

　とアーシャ話していると、隣の男子受験生が睨んで来た。

「ふん。運がいいやつはいいな！　あんなんで勝った事になるとか、運だけで生きてるやつは凄いな～」

　と、僕に台詞を吐いて来た。

　ギロッ

　ロスちゃんが鋭い目線で男を睨んだ。

「ひ、ひぃ！？」

　受験生達から悲鳴が聞こえた。

　直後、大半の受験生達が逃げだした。

「あれ？　みんなどうしたの？」

　アーシャと一緒に周りを見回してみるとそれらしいモノは見当たらないが……。

　何となく震えながら僕を見ている受験生達、先生達も何やら騒ぎ始めて、戦闘モードになっている。

「がお～！！！」

　頭の上のロスちゃんが吠えた。

「ん？　ロスちゃん？　どうしたの？」

【ちょっと、ムカつく】

「ロスちゃん！？　もしかして、笑われた事に怒ったの？」

【…………】

「全く……」

　頭の上からロスちゃんを下ろして、頭をなでなでする。

　アーシャも一緒になでなでしてあげる。

　いつもつぶらな瞳がギロッて開いていたけど、撫で続けたら段々優しい瞳に戻って、またつぶらな瞳に戻って、のほほんな雰囲気に戻った。

「く、クラウド令息！　そ、そ、その従魔……？　は何なのかね！？」

　案内の先生が怖い表情で武器をこちらに構えて聞いていた。

「へ？　うちのロスちゃんですか？」

「そ、その従魔様はロスちゃん様と仰るのか！？」

　先生がオドオドし過ぎて、言葉が変になってる。

「はい。僕の従魔で、うちの番犬です。ほら」

　緩くなっているロスちゃんを先生に見せる。

「う、うわあああ、わ、分かった！　ほ、ほ、本当に従魔なんだな！？　いや、従魔様なんですね！？」

「はい。ほら、こんなに可愛らしい犬でしょう？」

「わ、分かりましたから、ど、どうか一度会場から離れて頂いてもよろしいでしょうか？　合格通知は直ぐに送りますので！」

　まあ、それでいいんなら僕もそれでいいけど……。

　僕とアーシャは言われたまま、実技試験会場を後にした。

「あ、アグナ殿……」

「い、言わなくてよい…………まさか……魔王（・・）クラスがいるとは…………」

「やはり…………我々は生（・）きているのですね……」

「そうだな……まさかこの身で、魔王クラスと出会い、生き残る事が出来るとは…………ファイアウルフが気絶した時に、もしかしてとは思っていたが…………実物（・・）があんなに破壊力があるとは……」

　バビロン学園の『特殊科』実技試験にて、前代未聞の出来事が起きた。

　魔物の頂点に立つ『魔王クラス』を従魔にしている少年が入学する事となった。

　しかし、それはまだ始まったばかりの出来事である。

　バビロン学園に未だかつてない恐怖が訪れようとしていた。