第82話 魔物使いの戦い方

「では、これから実技試験を行う! 『戦士科』『魔法科』『特殊科』はそれぞれの会場に向かえ!」


 先生と思われる方から、それぞれの会場に向かうように指示があった。


「エルド。周りがどれくらい強いか分からない。あまり相手を舐めないでね?」


「かしこまりました。負けてクラウド様に恥をかかせる事は絶対しませんので、お任せください!」


「うん! その意気! 終わったらみんなでご飯食べにいこう」


「はっ」


 エルドが『戦士科』に向かった。


 エルドを見送り、僕とアーシャは『特殊科』に向かう。


「イチ」


【は~い、主様】


「アーシャの事、お願いね?」


【ご心配なく! 奥方様は僕が守ります!】


「うん。とても心強いよ」


 アーシャの首に巻かれているイチを優しく撫でてあげる。


「アーシャもあまり無理はしないでね?」


「分かった。でもイチくんとここまで練習してきたんだから、出来る事を頑張るね?」


 今度はアーシャの頭を優しく撫でる。


 スロリ街の住民達の座右の銘は「出来る事を頑張る」である。


 アーシャも五年間の暮らしで慣れたみたいで良かった。




 『特殊科』の所にいくと、意外にも五十人を超える受験生がいた。


 思っていたよりずっと多い。


 才能なしでも、その剣術を磨いて『戦士科』に挑戦する人は多い。


 でも『特殊科』は特殊な戦いをするので、才能持ちが殆どなはずだ。


「ではここに順番に並んでくれ」


 『特殊科』の先生が並ぶように促したので、それに従って並ぶ。


 中には僕と同じ魔物使いも沢山いた。


 こんなに魔物使いが沢山いるんだから、王国の未来も明るいね!



「では列の手前から、一人目、こちらに来て名前を戦い方を教えてくれ。それと実技試験はここにいる戦闘実技教官との一対一の実戦形式になる!」



 実戦形式か、予想通りで良かった。


 一人目は女性が魔物を連れて前に出た。


 彼女が連れた大きな狼の魔物さん、めちゃめちゃ震え上がってるけど大丈夫なのだろうか?


「が、ガル! どうしたの? しっかりして? 大丈夫よ? 普段通りにすればいいだけだから」


 震え上がっている魔物を必死に宥める。


 多分だけど、筆記試験で百点を取っても戦えない人は落第するはずだ。


 彼女も必死に魔物を宥めるが、魔物がますます震えてる。


 …………魔物がこちらをチラチラ見ている。



「がお~」



 ロスちゃんが緩く鳴き声をあげ、前右足を上げる。


 するとその場にいた全ての魔物がその場に跪いた。


「へ? ガル!? ど、どうしたの!?」


 彼女はもちろん、他の魔物使いのみんなが驚く声が聞こえる。



「がお~」



 また頭上のロスちゃんが緩く鳴いた。


 今度は魔物達がビシッと立ち上がる。


 ガルと言われていた大きな狼の魔物は少し固い動きで前に出た。


「は、はぁ……良かったわ…………ガル。頑張ろうね」


 彼女も大変そうだね。


 僕の場合は従魔達と会話が出来るから、こういう時には便利かも知れないね。




「アリア・ソルテスです! 才能は魔物使い! 相棒はガルシュのガルです! よろしくお願いします!」


「ほぉ……あのソルテス家の才女か。よし、アグナ教官! 頼むぞ」


 どうやら有名な人みたいだ。


 案内の先生が指差した教官の元に行くアリアさん。


 そこに見えるごつい教官に、隣には三匹の魔物が立っている。


 ファイアウルフが一匹、大きなフクロウ顔の熊が一匹、真っ白な鹿が一匹だ。


「……ガルシュか、その歳で既にガルシュとはな…………ファイアウルフ」


 教官がファイアウルフを頭をひと撫ですると、教官と一緒に前に出て来た。


 おお~!


 うちのファイアウルフことウル達と違って、身体に傷も多くて歴戦の戦士な雰囲気がぷんぷんする!


 二人が対峙して戦いを見学する。


 魔物使い同士の戦いは初めて見るので、とても楽しみだったのだ。



「では、始め!」



 案内の先生の開始の言葉が響く。


「では行かせて頂きます! ガル!」


 アリアさんの号令でガルが飛び出た。


 鋭い爪がファイアウルフを襲う。


 見た目だけならガルシュと呼ばれた魔物の方がずっと強そうだ。


 けれど、ガルシュの複数回に渡る攻撃をファイアウルフは軽々と避ける。


 そして、衝撃的な光景が広がった。


 なんと…………。




「ガル! いくよ!」


 そう叫んだアリアさんは、なんと、鞭を手に取り――――――従魔のガルシュと一緒に戦い始めた。




「えええええ!? 魔物使いって魔物と一緒に戦うの!?」




 思わず叫んでしまった。


 隣で聞いていた魔物使いと思われる人達から笑い声が聞こえた。


 魔物使いって……自分も戦うんだね……知らなかった……。


 そう言えば、僕はいつも何もしないよね。


 ただ見ているだけだったけど、それが当たり前だと思っていたから、自分が強くなろうなんて思った事もなかった。


 ……。


 ……。


 一番の従魔のロスちゃん。


 ロスちゃんに乗って…………は無理か。


 ロスちゃんを頭の上に乗せて戦う……?


 そんな事を思っていると向こうでは、アリアさんとガルシュの猛攻にファイアウルフが一人で避けながら、軽めの攻撃をガルシュに当てていた。


「…………ガルシュの本来の強さを出せていないな」


 教官の鋭い言葉が放たれる。


 アリアさんの顔が不安な色に変わり、目には少し大きな涙を浮かべた。


「ガルシュは本来、連携よりも単体で強い魔物。連携に強いファイアウルフよりも遥かに強い魔物だ。そんな魔物を従えながら、その特性を活かしきれないのは、魔物使いとして致命的だ」


 それを聞いても尚、懸命に戦い続けるアリアさん。


 一緒に戦っているガルシュが少し申し訳ない表情になっているのは気のせいではないはずだ。


 ファイアウルフに翻弄された二人は、息が上がってその場に止まった。


 アリアさんからは大きな涙が落ちる。


「ガル……ごめん…………私のせいで……ガルは弱くないからね?」


 ガルシュもそれに答えるかのように、小さい鳴き声で励ました。



「アリア嬢、君はあまりにも未熟だ。それではガルシュの本来の強さを発揮できない」


「……はい…………」


「その気持ちを忘れずに、このバビロン学園で学ぶがいい」


「…………え?」


「いつか善戦する日を楽しみにしている」


 教官の思わぬ発言に、涙していたアリアさんは次第に言葉を理解したようで、大きく頭を下げた。

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