第81話 筆記試験

 遂に試験日になった。


 僕達は試験会場であるバビロン学園の前にある試験会場にやってきた。


 試験会場は二つに分かれていて、大きな建物と広場に分かれている。


 最初に向かうのは建物。


 そこで筆記試験があるのだ。


「アーシャ、エルド。難しい問題があったら後回しでいいからね? そこで時間を取られてつまずくなら、その問題は飛ばしてどんどん先に進めてね」


「分かった!」「はい!」


 試験を受ける部屋が違うので、それぞれ案内状を持って僕達は別れた。




 僕が入った部屋には既に二十人ほど座っていた。


 案内状にある数字を元に、机に座る。


 暫く待っていると、更に数人が入り、約三十人くらいの人がそれぞれの机に座った。


【ご主人。ちょっとムカつくから威嚇していい?】


「へ?」


 頭の上に乗っていたロスちゃんがいきなり威嚇するとか言い出した。


「吹き飛ばしたりしないでね?」


【うん! ただ少し・・解放するだけだから】


 ん……まあいっか。


 すると何だか部屋の中の人達から向けられていた視線が無くなった気がする。


 ロスちゃんが何かをしたのかな?


 気にせずに暫く待っていると、先生っぽい人が入って来た。


 鋭い目で部屋内を見渡した先生は、軽く説明をして紙を渡した。


 僕の前の人から紙を渡される。


 何故か物凄く震えながら紙を渡してくれた。


 貰った紙を今度は後ろの人に渡したら、「も、申し訳ございません。わざわざありがとうございます」なんて挨拶してくれた。


 あれ? これって貰ったら必ずそんな挨拶しないといけなかったの?


 ティナからそんな事は言われてなかったけどな……。


 全員に試験用紙が行き渡り、先生の合図で試験が始まった。


 僕は一問ずつ読み進めながら解き始めた。




 ◇




 ◆とあるバビロン学園の受験生◆


 は、はあ?


 な、な、な、な、なんなんだよ! あの化け物は!?


 教室に入って来た緩い表情のいけ好かない野郎が、頭の上に子犬・・を乗せていて、ピクニックでも来たのかと思える緩さに少し苛立ったんだ。


 それは俺だけじゃねぇ、ここにいる全員が思った事だろう。


 何人かが既に睨み効かせているが、まるで変わらない。


 ずっと、のほほんと遊びに来ましたみたいな表情をしている。


 しかし、次の瞬間、とんでもない事が起きた。



 ゴゴゴゴゴォ



 あいつの頭に乗っている子犬・・から有り得ない気配が放たれた。


 あ、あの気配は…………じょ、上級魔物!?


 噂には聞いた事あったが、あの背後に見えるとんでもない気配は間違いなく上級魔物に間違いない。


 全身から噴き出した汗で、気持ち悪くなる。


 この部屋にいる全員が同じ事を思っているだろう。


 彼に目を合わせる事すら怖すぎて無理だ!


 どうしてこの試験場にこんな有り得ない魔物がいるんだよ!


 あ、あいつ、あんな魔物を頭に乗せているのに、どうしてピンピンしてるんだよ!?


 あ、ああ……今すぐ逃げ出したい……で、でも動いたら絶対喰われる。


 全力で音を立てずに息だけをしよう。


 あいつに逆らうな。逆らったら一瞬で終わりだ。


 こんな地獄のような時間が早く終わる事を祈っていたら、いつの間にか気配が消えていた。


 や、やっとまともに息が出来る……。


 その後、部屋に先生が入って来たが、何一つ耳に入らない。


 た、頼む……早くこの時間が終わってくれ……。



「退室可能の時間となった。試験が終わった人は用紙を提出して退室してよい」



 試験官の声が聞こえた。


 そして、俺は気付けば何も書いてない用紙を試験官に渡して、試験会場から逃げ去った。


 ――――部屋にいた皆と一緒に。




 ◇




 あれ?


 みんな一斉に退室してしまった。


 何か出る時、恐ろしいモノを見るかのように僕をチラ見して逃げていった。


 それにしても、この学園に入る人は優秀な人ばかりだね?


 一応僕も終わっているけど、みんな出て行くって事はちゃんと解けているって事だからね。



 みんなが出たタイミングで、僕も立ち上がった。


 そして、用紙を出したのだが……。


「はぁ、今年はまともなやつが誰もいないな」


 ボソッと呟く先生。


「どうしたんですか?」


「あん? お前も用紙か?」


「空用紙?」


 先生は、受験生達の用紙をひらひらさせていた。


 他人の用紙を見せて大丈夫なの……?


 先生がひらひらしている用紙には何も書いてない用紙ばかりだった。


 しかも全て何も書いてない。


「ええええ!? 誰も書いてないの??」


「はあ……たまにこういう時はあるが、ここまで酷いのは俺も初めてだわ。お前もか?」


「まさかー、そんな事したらティナに何されるか分かりませんから」


「ふ~ん。じゃあ、貰っておこう。次は実技になるから広場に向かってくれ」


「分かりました」


 先生に用紙を渡して、実技会場に向かった。






「…………クラウド・ベルンか。全員を『恐怖』に陥れ、筆記は満点か……これはまたとんでもない生徒が入ってきたな」


 部屋に残った先生は、誰もいない部屋にボソッとそう呟いた。




 ◇




「アーシャ」


「お待たせ~何だか部屋の外が騒がしかったけど、どうしたの?」


「ん~うちの部屋のみんな空用紙出して出て行ってさ」


「クラウドくんの部屋だったんだね、皆が出て行くとか何かあったの?」


「ん~何もなかったんだけどな」


「そう。まあ、あとはエルドくん待ちだね」


「ああ。エルドくんは実技が本番だろうしな」


「ふふっ、昨日も楽しそうに素振りしていたよ? 庭作り用に木を剣捌きで整えて貰ったから~」


 楽しそうに話すアーシャ。


 そう言えば、庭にあった木々が綺麗に整っているなと思っていたら、あれエルドのおかげだったんだね。


 少ししてエルドも出て来て合流したので、早速実技会場に向かった。



 すぐ隣だったので、すぐ着いた実技会場には既に待っている生徒が少しいた。


 みんなそれなりに強そうな雰囲気だね。


 みんなの実技を見れるのがとても楽しみだ。


 暫く待っていると、筆記時間の終わりを知らせる鐘の音が聞こえた。

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