第80話 バビロン学園

 僕達は予定通りに王都に入った。


 入学試験は三日後。


 それから十日後に結果発表がある。


 王都学園に入る事を前提で、王都で生活する事にしている。



 王都は後方に大きなお城があり、更にその後方に高い城壁がある。


 そこから正面に貴族街という街が広がっている。


 名前通り貴族しか住む事が許されず、王城に近ければ近いほど位の高い貴族が住む事を許されている。


 貴族街から更に降りてくると、一般街という区域が果てしなく広く広がっている。


 貴族街と一般街が大きな川と壁に阻まれているので、全く違う街の雰囲気だ。


 暮らしている位も違うから、端的に言えば住む世界が違うと言えるだろう。



 そんな貴族街と一般街の間に王都学園バビロンの大きい塔がそびえ立つ。


 そもそも貴族街と一般街の間には物理的な高低差がそれなりにあって、バビロン学園も入口が二つに別れているのだ。


 一般街から入れる地下入口と呼ばれている一般口。


 貴族街から入れる正面入口と呼ばれている貴族口がある。


 学園内では安全性を考慮して、一般口から入った生徒は、魔法による『転移門』でしか入場出来ない。


 しかも、転移門から入場した学生は、通常の正面入口である貴族口からは外に出られない仕組みになっている。


 これは一般街から逆賊の侵入を防ぐ為でもあるのだ。



 そんな凄まじいセキュリティーになっている強大な塔の構造をしているバビロン学園。


 貴族街と一般街を隔てている川の中から作られたその学園は、一般街の入口と貴族街の入口ですら橋が架かっており、橋が崩れると入る事が出来ない仕組みになっている。


 そんなバビロン学園に一般街から入ると、地下階層と言われているその階は、強大な塔の外見とは裏腹に狭い部屋になっている。


 その部屋では個人を特定する魔道具が設置されており、それを通らないと学園領域に入れないようになっている。


 その魔道具を通れば、その先は広い休憩スペースとなっており、一般街の生徒達の休憩兼食事スペースとなっている。三階層になっているそのスペースは、多くの優秀な一般街の生徒達の為のスペースであり、学食と呼ばれている食事も取れるし、なんと、そこで食べられる料理も全て無料であった。


 そして、その各階の奥には『転移門』と呼ばれている入口があり、そこを通れば、地下層を抜けて漸く一階層に辿り着くのだ。


 一階層からは貴族達とも出会う事になる。


 実力社会でもあるバビロン学園は、強い一般学生が貴族学生をボコボコにする事件も起きたりするが、それはボコボコにされる貴族が悪いとされるのだ。


 さらに親の権力を使い報復をするようなら、それが返って悪い噂になるくらいにはバビロン学園のレベルは高いと言えるだろう。


 とは言え、一般学生が礼儀知らずで喧嘩になった場合は、貴族の報復を受けるけどね。



 そんな一階層と呼ばれている階は、地下層同様に貴族の食事スペースとなっている。


 一階層も三階の作りになっていて、こちらの食事ももちろん無料であるが、一般学生は利用出来ない。


 そんな一階層からまた専用の『転移門』を通って、漸く二階層である『学園階層』に辿り着ける。


 その学園階層からそれぞれの学年に分かれて、それぞれのコースの勉強が進められる。


 『戦士科』『魔法科』『特殊科』に分かれていて、名前でも分かるように全て戦闘系の学科となっている。


 それほど、この学園は王国の将来の戦士を育てるのを目的としているのだ。


 武器を使い戦う戦士科、魔法を使い戦う魔法科、そしてその以外の戦い方を用いるのが『特殊科』であるのだ。




 ……どうして僕がこの学園についてこんなに詳しいのかと言うと。


 丁度一年前、ティナが学園を見に行こうって誘ってくれて、世界でたった一人しかいない『聖女』であるティナの顔パスで学園の見学が許された。


 僕とティナ、アーシャ、アレン、サリー、エルドの六人で学園を見学した。


 こんな大勢で訪れて中に『勇者』も入っているものだから、学園の方もずっと苦笑いを浮かべていた。


 その時に施設についてだったり、授業を見回ったりしていた。


 思っていた以上に教師のレベルも高くて、冒険者を卒業した強者を雇っているらしいが、現冒険者の強者だったり、王国の強い騎士さんだったりと、現在活躍している人も時折臨時教師として来てくれるという。まぁ、そればかりは運らしいけどね。


 第一印象がとても良かったのもあるし、ティナの猛烈な勧めもあってバビロン学園に即決めして、試験の準備も一年間頑張ってきたのだ。




 僕達が王都に辿り着いて、これから過ごす家にやって来た。


 これから三年間過ごす家なんだけど、本来なら辺境伯令嬢が二人もいる僕達だが、王城の近くに住むと逆に学園が遠くなるので、学園に最も近い男爵位が住んでいる地域の空き家を購入した。


 ラウド商会の全権利を持っている僕は、とんでもない額のお金が貯まっていた。


 この貴族街の空き家も一括で購入して、これからの拠点にする。


 屋敷の大きさは二階建てで、部屋数も申し分なく多く、寧ろ多いくらいかなと思う。理由は知らないけど、ティナが部屋は多い方がいいと、この屋敷になった。


 周りより値段が高いらしく、庭や敷地も広いから、エルドの剣術練習にも十分にスペースを確保できそうだ。


 来年にはアレンが、再来年にはサリーも来るだろうから丁度良かったかも知れない。




 それから僕とアーシャは試験に向けて勉強を進めた。


 意外と勉強上手なティナが先生役になって、僕達に色々教えてくれる。


 これなら筆記は問題ないと言われたので。後は、点数の比率が高い実技次第だね。


 まぁ……実技も問題ないだろうけどね。


 僕とアーシャは自分の膝の上に乗っているそれぞれの動物を撫で始めた。


 彼らには試験を頑張って貰わないとね。



 窓の外には剣を振っているエルドが見える。


 エルドもいつの間に見た目だけなら、とても強そうなんだよね……。


 才能も『剣聖』だし、サリーと同じで最上級才能だから心配はないだろうね。


 僕は間もなく始まるであろう試験も含め、学園生活に心躍らせた。

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