三章
第79話 十五歳
スロリ領も随分開発が進んだ。
バルバロッサ辺境伯様とガロデアンテ辺境伯様の出資もあり、スロリ町から両領を繋ぐ道路も完成して物流も大きく発展し、三つの領内の生活もどんどん発展していった。
スロリ町は大きくなりすぎて、スロリ街と名前を変える事となった。
ベルン領内に別な村や町を増やす事はしていないから、スロリ街に集中している感じだ。
あれから生まれたウルフ隊で道の安全も確保している為、山賊だったり、魔物に襲われる心配はなくなった。
うちのウルフ隊は普通のウルフと違って、非常に連携力が強いので、遥かに強い魔物ですら勝てるから、元々危険が多かったスロリ街周囲も安全になっていた。
そして、僕は遂に十五歳を迎えた。
◇
「クーくん。着替えはちゃんと持った?」
「母さん。大丈夫だよ。ティナとアーシャが手伝ってくれたから」
「そっか。うんうん。すっかり大人になったわね」
すっかり身長を越してしまったお母さんが心配そうに僕を見つめていた。
あっという間に通り過ぎたこの五年。
身長もお父さんと同じくらいの身長になって、お母さんを見下ろすようになった。
「お兄ちゃん~!」
勢いよく扉が開く。
母さん似でとても美人になった妹のサリーが入って来た。
その後ろから、すっかり大人になった弟のアレンも入って来る。
「サリー、アレン」
「兄さん。そろそろ準備は終わったの?」
「ああ。ティナとアーシャのおかげでな」
「ふふっ、兄さんらしいと言えばらしいね」
苦笑いを浮かべるアレンは、すっかりイケメンになって、街中の女性達から大人気者となっている。
ここ二年で裁縫が流行っているスロリ街では、人形が売れるようになっていた。
それもアーシャのおかげだったりするんだけど、それはまたいつか。
そんな人形の中でも、人気ナンバーワンは、意外にもロスちゃんの人形だ。
元々可愛らしい姿をしているので、人気が出る理由も納得だ。
二番手に人気なのが、勇者を授かったアレンを模した勇者アレンくん人形だ。
顔が大きく作られた人形は女子に圧倒的な人気を誇った。
その次点で、サリーちゃん人形だ。
サリーちゃん人形は男子に非常に人気で、スロリ街の十五歳未満の男子は全員が持っていると言われている。
サリーちゃん人形も顔が大きくて可愛らしい。
「クラウド~」
開いていた扉から絶世の美女が入ってくる。
母さんとサリーも綺麗だけど、二人はどちらかと言えば、可愛い系だ。
その絶世の美女は美しさを極めたような綺麗な顔立ちだ。
「ティナ、ごめん。今から出るよ」
「ふふっ、アーシャちゃんも待っているんだから急ごう?」
「ああ」
僕の荷物を運ぶのをアレンも手伝ってくれて、馬車に向かった。
そこで待っていたのは、『スロリ馬車二号』である。
開発にはアレンを護る為に派遣されたアイラ姉ちゃんが関わっている。
一号からそれほど形は変わっていないが、内装が変わっている。
二号は荷物を運ぶ事を目的にせず、遠征に重きを置いた馬車で、一号同様に後ろの荷台が完全にキャンピング馬車状態になっていた。
ソファーは折り畳み式で、簡易ベッドにもなるのだ。
「クラウド、遅いわよ?」
「ごめんごめん。荷物の確認に手間取ってて」
「ティナちゃんと手伝ってあげたのに」
「引き継ぎとか色々あったから」
苦笑いを零して馬車の前で待っていたアーシャ。
彼女もこの五年で、誰もが見返すほどの美女になっていた。
ティナと並んでも負けず劣らず。
「ふふっ、さあ、行きましょう。王都までは遠いのよ?」
「ああ」
僕は家族に別れを告げて、馬車に乗り込んだ。
意外にアレンもサリーも悲しそうな表情をしてないのが、兄としては少し寂しいかな?
お父さん、お母さんは大きな涙粒を浮かべて、手を振ってくれていた。
もう十五歳にもなったんだから、心配しなくてもいいのにね。
最後にエルドとロスちゃんが乗り込んで、馬車の上にロクとコメが乗る。
イチは既にアーシャの首に巻かれていた。ここ最近ではアーシャと一緒にいる率が高い。
「では、行ってきます!」
「「「いってらっしゃい~!」」」
ウル達が馬車を引き始め、馬車は王都に向かって出発した。
屋敷からスロリ街の街道を通り街を出る。
街を出る間に、道の傍で手を振ってくれる顔見知りが沢山出て来てくれて、みんなから「いってらっしゃい」って見送られた。
既に城門になっているスロリ街の入口では、警備隊となっていたダークエルフ族と、スロリ街の野菜を担ってくれているハイエルフ族の皆が出迎えてくれた。
まさか……「いってらっしゃいませ! クラウド様! スロリ街は必ず我らがお守りします!」という横断幕まで作って出迎えてくれるとは思わなかった。
ちょっぴり恥ずかしい思いもあったけど、彼らにも数年の別れを告げてスロリ街を後にした。
馬車を進め、バルバロッサ辺境伯様が待っているエグザ街に寄って、ティナとアーシャと一緒に挨拶をする。
辺境伯様からは「二人を頼む」と力強く握手を交わし、バルバロッサ辺境伯の紋章が描かれている印籠を渡された。
ティナも持っているから要らないと言ったけど、もしもの時に使ってくれと断れず預かってしまった。
そして、僕達は再度、王都に向かって出発した。
「アーシャは辺境伯様に会わなくて良かったの?」
「ふふっ、大丈夫よ。お父様から手紙は届いているわ。寧ろクラウドくんから離れるなって怒られたわ」
「あ、あはは……辺境伯様らしいね」
「心配しなくても、ちゃんと指輪も貰えたと言ったのに、やっぱり心配みたい」
アーシャの左手薬指に嵌められている指輪を愛おしく触れた。
それは婚約指輪であり、僕とティナの左手薬指に全く同じモノが嵌められている。
僕達は王都までの三日間、他愛ない事を話しながらのんびりと馬車の旅を楽しんだ。
途中途中止まった町で散歩をしたり、魔物に困っている人を助けたりと、久しぶりに旅らしい旅を楽しんだ。
そして、遂に王都が見え始めた。
バビロン学園。
王国最上級の王都学園であり、これから僕達が入学する学園だ。
ただ、僕とアーシャは入学試験がある。
多分大丈夫だと思うけど、まずは入学試験を頑張ろうと思う。
こうして僕は波乱が待ち受けている王都学園の入学試験に挑む事となった。
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