第77話 確執の理由と短剣
ティナ令嬢の一言で全員が跪いたのは驚いたけど、おかげで悪い雰囲気が断ち切れて良かった。
「ダークエルフ族の話は分かりました。ではハイエルフ族から、暗殺の事情を聞かせてください」
「はっ、前の族長であるヘラクレスの時代、『風神の短剣』が一度だけ奪われた事があります。ダークエルフ族の
発現……という事は、コメ達の事かな?
そんな事を思っていると、何処かに遊びに行っていたコメ達が帰って来てイアの頭の上に乗っていた。
「コメ達……つまり、『シルファ』が発現したのですね?」
「いいえ」
僕の質問に意外な答えが返って来た。
「あの時、ダズリンが発現なさったのは『シルファ様』ではなく、『ミンク様』でございます」
「ミンク??」
【ご主人様! 私達が風の精霊なら、ミンクは雷の精霊だよ~】
「雷の精霊?」
「はっ、ミンク様は雷を司る精霊様でございます」
「なるほど…………しかし、なぜ『風神の短剣』で雷の精霊が……?」
「クラウド様。我々ハイエルフ族に伝わる伝承では、光に染まった場合『シルファ様』、闇に染まった場合『ミンク様』になると伝わっています」
「っ!? それは嘘だ! 我々は……闇ではない!」
ヘリオンさんの言葉にダリアンさんが直ぐに反論した。
「ん~、コメ。そもそも『風神の短剣』ってそういうモノなの?」
【ん? ご主人様は何を言っているの?】
「へ? ほら、この『風神の短剣』でコメが出て来たんでしょう?」
【あ~その短剣の事? それは『風神の短剣』ではないよ?】
「へ? 『風神の短剣』じゃない?」
僕の言葉に、その場にいる多くの者から驚く声が響いた。
それもそうよね……今まで『風神の短剣』として扱っていたからね。
「じゃあ、『風神の短剣』じゃないなら何なの?」
【それは『召喚の短剣』! 持ち主が思い描く『精霊』を召喚する事が出来るの!】
精霊を召喚出来る『召喚の短剣』か……。
何となく短剣を持ったまま、雷の精霊の事を思う。
――――そして。
ゴゴゴゴゴォ!
何もない空から大きな雷が鳴り始め、僕達の上空で集まり始めた。
凄まじい雷の音と共に、雷が集まった中から、可愛らしい動物が一匹降りてきた。
「「「「ミンク様!!!」」」」
ダークエルフ達が一斉に声をあげた。
どうやら『ミンク様』であっているみたい。
【やっほ~、主様! 呼んでくれてありがとう~!】
ミンク様から可愛らしい男の子の声が聞こえてきた。
「君は雷の精霊、ミンク様でいいのかな?」
【様だなんて! 主様。僕にも名前を頂戴! そこのコメの事はずっと羨ましいと思っていたんだから!】
【ふっふん~】
コメがドヤ顔をする。
「分かった。じゃあ、君はこれから……イタチっぽいし、男の子みたいだから、イチくんで」
【わ~い! 僕はこれからイチね! ありがとう! 主様!】
急に仲間になった雷の精霊ミンクことイチが、僕に抱き付いて来た。
固そうな毛並みだったけど、そんな事なかった。
ふわふわしてすべすべしてとても気持ちいい毛並みだった。
イチはふわふわしたマフラーみたいに僕の肩を覆ってくれた。
重さも全く感じない。
そう言えば、コメ達が全員乗っても全く重さを感じてなかったけど、それは精霊だからなのかな?
【貴方はロスちゃんね。ずっと精霊界から見ていたから魔物と精霊の意味はもう知っているよ! だから僕達精霊はもう魔物である君達を蔑んだりはしないから、これから同じ主様に仕える身として、よろしくね】
【あい~よろしく~】
ロスちゃんが可愛らしく前足をあげて挨拶をする。
精霊界というまた初めて聞く言葉があるけど、そこから僕達の事を見ていてくれてるなら嬉しい。
と、後方でダークエルフ達が全員涙を流していた。
「あ、ハイエルフもダークエルフも聞いて欲しいんですけど、この短剣の正式な名は『風神の短剣』ではないです。これは『召喚の短剣』というモノです。だから、その短剣を持った者によって、召喚出来る精霊が違うのは当たり前です。だから雷の精霊を召喚するダークエルフが『闇』に染まっている訳ではありません。分かりましたね?
「「「「「「「「ははっ!」」」」」」」」
両種族の全員から大きな返事が聞こえた。
ハイエルフのヘリオンさんがダークエルフのダリアンさんの前に出て来た。
「我々ハイエルフは掟や伝承を信じ過ぎていたようだ……謝罪しても許される事ではないが、ハイエルフ族の元族長として、謝罪させてくれ。ダリアン殿を始めとするダークエルフ族の皆さん。大変申し訳なかった」
ヘリオンさんが深く頭を下げた。
「頭をあげてくだされ、ヘリオン殿。それは我々も一緒だ。それに、掟や伝承を信じていたからこその出来事であり、それが無ければ我々がお互いに手を取り合っていたと思う。だからこれからはクラウド様の元で仕える身として、よろしく頼む」
「ああ、一緒にクラウド様の役に立とう」
二人は固い握手を交わす。
それを見ていたハイエルフ達、ダークエルフ達は、大きな拍手を送った。
僕も、精霊も、従魔も、家族も、仲間も、みんな拍手を送った。
「お母さん~」
「ん? どうしたの? サリーちゃん」
「お兄ちゃんがまた
「そ、そうね……また増えたわね」
「もしかして、このまま色んな種族が増えて、最終的に多種族の領地になったりして」
「ふふっ、それはそれで素敵だね。昔の神様の戦争を聞いてる限り、それのせいで種族がいがみ合っているからね」
「うんうん。お兄ちゃんなら出来るかも知れない」
「そうね。私達も頑張ってクーくんを助けなくちゃね!」
「うん! ティちゃんとアーちゃんもこれからお兄ちゃんをお願いね?」
「「はい!」」
それはハイエルフとダークエルフが別れてから初めての出来事であった。
長年暗い確執は、一人の『ちょうきょうし』によって解決し、歴史に深く刻まれるのであった。
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