第76話 過去の出来事

 昔々、世界には光の神と闇の神が戦っていた時代があった。


 両神は世界に降臨する事は出来ず、裏で眷属を操り戦ったのだ。


 その戦い巻き込まれた地上の多くの種族達はどちらに付くか選択を迫られていた。


 それから戦いはどんどん進み、多くの種族が光か闇かに分かれ、戦いはますます熾烈を極めた。


 あまりにも長引く戦いに地上はどんどん疲弊した。


 その時、世界に女神が降り立った。


 女神は光でもなく、闇でもなく、ただ地上を愛した神である。


 だから彼女はこの戦いを終わらせる為に、世界にとある祝福を授けた。


 それが『才能』である。


 しかも、その『才能』はより弱い種族に、より強い『才能』が現れるようになった。


 この事で戦いは大きく傾く事となった。



 元々強い種族が多かった闇の神勢力には弱い『才能』ばかりが開花した。


 代わりに弱いが数が多い種族を味方に付けていた光の神勢力がどんどん力を伸ばし、強い『才能』が開花し始めた。


 そして、その中で生まれた最強の才能『勇者』が人族の中から生まれた。


 戦いはまさに圧倒的なまでに光の勢力が優位に立ち、闇の勢力は戦いに敗れ、次から次へと消滅する事となった。


 そして、戦いは結果的に光の勢力の圧勝となり、世界は――平和に――――――ならなかった。



 光の勢力が勝った後、今度は光の勢力で世界をどう分けるかの話し合いが起きた。


 光の勢力の陣営で最も力を発揮していたのが『天使族』と『勇者』である。


 その次に『エルフ族』『獣人族の一部』『天空族』の三種族である。


 この四つの種族と勇者が世界を掛けて、どれくらい支配するかの話し合いになった。


 彼らはそれぞれの話し合いの末、それぞれの功績に応じて、世界を分ける事に合意。


 まず最も活躍した『天使族』は、世界で最も最上級の土地である『天空の島』を選択し、空に向かった。


 次の勇者は人族の安寧を求め、中央大陸を選んだ。


 そもそも相手の最強勢力『暗黒竜』を倒したその実績は、『天使族』よりも高いモノだったが、人族という枷があったから二番手となったのだ。


 そもそも勇者は人族の為にも中央大陸を選ぶ予定だったので、天使族と話し合ってからの出来事でもあった。



 それから次に『エルフ族』は中央大陸の森地域を選んだ。


 元々森で住んでいた『エルフ族』は丁度良い選択だった。


 次に『天空族』は山に、『獣人族の一部』は海を渡り、ちいさな島を選んだ。



 そこまでは良い結果だったと思われた。


 しかし、それで終わるはずもなく、そこからの戦いが始まった。

 

 勇者が倒したはずの『暗黒竜』は、自身の力を振り絞り、暗黒の力を受け継いで人間に転生・・するに成功した。


 そして……人族の短い生涯を閉じた勇者。


 最強勇者がいなくなった人族に暗黒の力を持った者が生まれた。


 元々最強種『暗黒竜』であったその力を持ったその者は、自らを『魔王』と名乗った。


 そして、またもや戦争を仕掛けた。



 多くの人族を従えた魔王は、今度は光の者達と戦った。


 しかし、光の勢力は既に解散しており、最強戦力だった『天使族』は天から降りて来る事はなかった。


 そんな魔王に成す術なく、エルフ族や天空族が追い詰められた。


 そこで最後まで魔王と戦おうというエルフ族と魔王の方に付くというエルフ族が分かれた。


 これがハイエルフ族とダークエルフ族の確執である。



 しかし、その直後、悲しい出来事が起きた。


 何と、人族の中からまたもや『勇者』が生まれる。


 そして、『魔王』と『勇者』の戦いが起きた。


 『魔王』を擁する『魔』の者となった『魔人』『ダークエルフ』と、『勇者』を擁する『人族』『ハイエルフ』『天空族』が戦った。


 結果、またもや『勇者』に敗れた『魔王』は、既に最後の力を使い転生していたのもあり、二度と転生する事は出来ず、勇者に滅ぼされた。


 こうして、漸く世界は平和に戻った。




 ◇




 ダークエルフ族の族長、ダリアンさんから昔の戦いについて教えて貰えた。


 その証拠として、ダークエルフ族の過去を記した『歴史書ヘレニカ』を僕に見せてくれた。


 本来なら族長しか見てはいけないのだが、今回は件が件な事にダリアンさんの一存で僕達に見せてくれたとの事だ。


「なるほど……この歴史書の中身は、ハイエルフ族に伝わる伝承と同じなのですね?」


 ヘリオンさんが大きく頷いた。


「ですが、二つの種族がいがみ合うようになった原因は、そこだけではないって事ですよね?」


 そう思った理由として、最も大きいのが『風神の短剣』の事だ。


「はい。その通りでございます。その歴史や伝承は我々に取っても大事ではありますが、あまりにも古い伝承であります。この時代のいがみ合った理由は『風神の短剣』にあります」


 ヘリオンさんの返事が予想していた通りだった。


「では、ダリアンさん。どうして『風神の短剣』を狙ったのか教えてください」


「はっ、我々が『ダークエルフ』になった時から既に数百年が経ちます。五百年くらいでしょうか。その間我々は光の者……つまり『ハイエルフ』『人族』『天空族』に虐げられる生活が始まります」


 虐げられる生活……。


「我々はただ生きたかった。魔王に手を貸したのも世界を支配したいからとかではなかったのです。ですが光の者達は我々に耳を傾けてはくれませんでした。ただ一言、それを考慮して生かしておく。と」


「ダリアン殿と同じく、我々にもそう伝わっております」


「……そして我々ダークエルフは何とか虐げられる生活を脱出したかった。そんな中、戦争時にエルフ族が光の者として認められる理由となった『風神の短剣』の持ち主がダークエルフ族から出現しました」


「え? しました?」


 意外な答えに驚いた。


 『風神の短剣』はハイエルフ族の中から生まれると思っていたから。


「……はい。我々ダークエルフ族の中から『風神の短剣』の持ち主、ダークエルフ族の英雄ダズリン様が選ばれたのです」


 その言葉にヘリオンさんの表情も固くなる。


 きっと両種族の確執はこれが一番大きいのかも知れない。


「選ばれたのに、『風神の短剣』はがハイエルフ族の元にあった……という事は、何かあったんですね?」




「はい…………ハイエルフ族によるダズリン様の暗殺により、我々ダークエルフ族の希望は断たれたのです」


 ハイエルフ族の暗殺という言葉に、両種族が睨み合い始めた。


 今にも戦い始めそうな雰囲気が漂う。


 その時。


 ティナ令嬢が彼らの前に立ち上がった。




「全てはクラウド様の意思のままに! みんな静粛に!」


 彼女の言葉に全員がその場で跪いた。

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