第74話 それぞれの目標

 ベルン領唯一の町のスロリ町。


 そんなスロリ町から新たな『ラウド商会』が始まった。


 その商会はあくまでもベルン領内の商会として設立され、ベルン領内唯一の商会となった。


 そんなベルン家御用達商会『ラウド商会』に、バルバロッサ辺境伯領でも有名なワルナイ商会とペイン商会のそれぞれの長がラウド商会を訪れた。


 まだ新参者のはずのラウド商会頭のキリヤだったが、二人に動じる事なく交渉を進め、ラウド商会はワルナイ商会、ペイン商会、両方と契約を結んだ。


 ベルン領から大量に出る豊な素材を、二つの商会がそれぞれ買取してバルバロッサ辺境伯領に運ぶ事となった。


 更にバルバロッサ辺境伯領の素材を、二つの商会がラウド商会に卸す。


 バルバロッサ辺境伯領とベルン領と繋ぐ『ラウド物流』が誕生したのであった。




 ◇




 ラウド商会が本格的に稼働して、スロリ町周辺で取れる素材の需要がさらに増えた。


 そこで、魔物を狩る狩人組がどうしているのかが気になったので見に行った。


 すると。


 上空から無数・・の光の剣が現れ、次から次へと落ちていった。


 ロクの上に乗り、楽しそうに手を動かしているアレンが見える。


 あれ?


 アレンがめちゃめちゃ強くなってない?


 光の剣が既に二十本くらい召喚されている気がするんだけど……?


 僕の視線に気付いたアレンがこちらに向かって嬉しそうに手を振る。


 その間も光の剣が休む事なく、上空から降り注いでいた。


 これはサリーより怖いかも知れない……。


 まあ、勇者だし、強くなっておくことは良い事だろうと思うから、アレンにはこれからも楽しんで貰いたいね。




 その狩場から別の狩場を見ると、今度はヘイリがすっかり大きくなった子ウル達を引き連れ、ビッグボアを捕まえていた。


 的確な指示を送っているようで、子ウル達の動きの流れが美しいとさえ思えるほどだった。


 ずっとみんなの活躍を見て悔しそうにしていたヘイリが、漸く花咲かせた感じがしてとても嬉しい。




 今度は山の方に来てみると、エルドが兎狩りをしていた。


 兎はすばしっこいのに強いらしくて、普通の狩人達は全く歯が立たなかった。


 エルドは丁度いい相手のようで、最近ではずっと兎狩りに夢中だった。




 そして、最後にスロリ町の学校を訪れると、講堂は使われておらず、それぞれの教室に数人の生徒と先生が授業を行っていた。


 どうやら、スロリ町の町民全員が計算能力が向上し、計算の授業は必要なくなったみたい。


 そういう理由もあって、既に講堂は使われなくなったが、代わりに建設組や鍛冶組の知識がある人を先生として招き、興味がある人はその授業を受けて、その道に進むようにしている。


 こうする事によって、建設組や鍛冶組に入った新人でも、直ぐに働く事が出来、現場の負担もだいぶ減るはずだ。


 より実戦的な授業もしていて、現場まで赴く事も多いそうだ。




 スロリ町の順調な様子を見回って、屋敷に戻った。


 屋敷ではサリーとティナ令嬢が魔法の練習をしていた。


 相変わらず魔法が放出が出来ないティナ令嬢だが、その両手を覆っている魔法がどんどん大きくなっている。


 以前は拳を覆う程の大きさだったのに、今は人の頭くらいの大きさに進化していた。


 不思議な事に、あの状態で触れても魔法が発動しないのは、ティナ令嬢の特異体質なのかも知れないとサリーが言っていた。




 屋敷の広場ではアーシャ令嬢が何人かの庭師を雇い、広場の庭に改造し始めた。


 既に許可は出していて、お母さんも大喜びしていた。


 僕としても、ガロデアンテ辺境伯邸のあの素晴らしい庭がうちで見れるならと、全面的に協力する事にした。




 お父さんは相変わらず忙しそうに、どんどん大きくなるスロリ町の人員配置や指揮を執っていた。


 テキパキに働くお父さんは、何処か楽しそうだ。


 子爵ともなれば、自ら働く人なんていないのに、お父さんも、シムグル子爵も最近ではバリバリ働くようになっているのよね。


 こういうのは、一番上の人が自ら働く方が良いと思う僕としては、誇らしさを感じた。




 お母さんは、屋敷の厨房で多くのメイドさん達と料理の準備をしていた。


 最近ではお祭り用の食べ物の開発や、炊き出し用食べ物の開発、更には美味しさを追求した高級料理の開発と料理に物凄く力を入れている。


 お母さん的な目標としては、『ラウド商会』の延長として『ラウドレストラン』なるものを作りたいそうだ。


 以前、隣町のアングルス町で、ルリさんが営んでいたレストランの事を話したら、凄い勢いで詳細を聞かれた。


 それ以来、お母さんもやってみたいとやる気を出していたのだ。


 お母さんの料理は世界一美味しいので、きっと上手く行くだろうね。


 それよりもお母さんが毎日楽しそうにしているのが嬉しい。


 最近ではあまり会話を交わす事はないけれど、毎日食事は一緒にするのがうちのルールで、みんなの楽しかった話を聞けるのはとても楽しい。


 褒めて貰う機会も激減してしまったけど、それ以上に、みんなが生き生きしているのを見れて嬉しい。




「あれ? アイラ姉ちゃんは何をしているの?」


「ん? クラウドくん。いらっしゃい」


 何だか久しぶりにアイラ姉ちゃんと話す気がする。


 彼女は布や棒切れで何かを作ろうとしていた。


 これって……もしかして…………。


「えっとね。これは、クラウドくんが以前馬車に付けていた『てんと』って言っていたのを、私なりに改良してみたの」


「へ、へぇー、もしかして単体で立てるの?」


「えっ? どうして分かったの?」


「う~ん、何となく?」


「ふふっ、クラウドくんは何でもお見通しなんだね~、あの馬車に付いていたのを参考に、ここをこうすると簡単に立てれる事に気付いて」


 アイラ姉ちゃんは器用に布と棒をくっつけていた。


 恐らく魔法の類かな?


 それから数分で、次から次へ設置し始めたアイラ姉ちゃんは、あっという間にテントを作り上げた。


「ほら! やっぱり! こうするとこうなると思ってたよ~、ここをこう折り畳んだら持ち運びも楽になるかな」


「あ、アイラ姉ちゃん。そこはこういう折り方にしたら、もっと楽だと思う」


「ん? あ! 棒を交互に折るのね! これなら長さを気にせず、いくつも重ねられるわ!」


 いつもは食べる事と剣を振り回す事しかしていないアイラ姉ちゃんが、楽しそうに物を組み立てる姿がとても微笑ましかった。


 それにしても、このテント…………意外と便利そうだ。


「アイラ姉ちゃん。これ商品化しない?」


「えっ? いいの??」


「うん。とても便利だと思うし、アイラ姉ちゃんが良いなら、どんどん好きなように開発してくれてもいいよ?」


「本当!? やった! 私、やりたい!」


「ふふっ、分かった。ラウド商会に話しておくよ」


「ありがとう!」


 満面の笑顔のアイラ姉ちゃんが眩しかった。

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