第73話 ベルン領の開発
アーシャ令嬢を連れてスロリ町に帰還した。
どうやらアーシャ令嬢は旅をするのが初めてらしく、丸一日走り続けるスロリ馬車一号に乗っている間、ずっとはしゃいでいた。
それにしてもティナ令嬢ととても仲が良い。
ずっと喋り倒す二人を見つめ、僕は苦笑いしつつ、可愛らしい令嬢二人を眺める幸せな旅を送った。
そして、スロリ町に帰還した。
「…………ねえ、お母さん」
「…………うん。サリーちゃんの言いたい事は分かるわ」
「お兄ちゃんがモテモテなのは分かるけど、ここに連れて来るって事は……」
「……ええ、多分とんでもない事になるかも知れないわね」
「はぁ…………お兄ちゃんの左腕は諦めないんだから!」
「ふふっ、サリーちゃんも頑張ってね」
「うん! 頑張る!」
「ただいま~みんな、紹介しなくちゃいけない人がいて……」
「「「(じーっ)」」」
「あ、あれ? みんな、珍しく静か……だね?」
「「「(じーっ)」」」
「あ、あはは……」
みんな、ジト目でただただ僕を見つめてくる。
そんな中、アーシャ令嬢が一歩前に出た。
「初めまして。アーシャ・ガロデアンテと申します。クラウド様に真剣な交際を申し込んでおり、第
優雅に挨拶するアーシャ令嬢。
彼女の名前を聞いた家族のみんなが驚く。
それもそうだよね……いきなり、もう片方の辺境伯令嬢が来たんだからね。
と、家族は僕の事を放っておいて、アーシャ令嬢を歓迎して連れて屋敷に入って行った。
……。
……。
あれ?
僕、何だか無視されてない!?
その時、お留守番だったロスちゃんが目の前に出て来た。
「ロスちゃん! お留守番――――」
いつもはつぶらな瞳な彼女は、何故かジト目になって、ぷいっと後ろ向いて、歩き出した。
「ええええ!? ロスちゃんまでぇえええ!?」
僕の言葉にみんなが大笑いした。
アーシャ令嬢の歓迎会も終わり、アーシャ令嬢は自分の覚悟をみんなの前で語った。
その話を聞いていたみんなは何故か涙してアーシャ令嬢を歓迎した。
更に次の日に帰ったティナ令嬢だが、数日後、何故かうちの屋敷に大荷物を持って現れた。
どうやらうちの屋敷で住みたいそうだ。
辺境伯様からの短い文言の手紙が一通。
――「話は聞いている。うちのティナを宜しく頼む」とだけ。
何故かアーシャ令嬢と同じ部屋が良いと言い出したティナ令嬢の為、急いで大部屋を一つ改造した時、今度はサリーも同じ部屋が良いと言い出して……三人娘部屋を急いで改造した。
それにしても、いつの間にか仲良くなった三人は、何処に行くのも常に三人一緒だった。
僕はというと、バルバロッサ辺境伯様やシムルグ子爵との約束で、スロリ町から隣町アングルスまでの街道舗装工事を進めた。
馬車三台分は通れるくらいの道を繋ぐ。
辺境伯様とシムルグ子爵の出資のおかげで、材料もスムーズに集められ、工事も滞りなく進んだ。
アングルス町までは一か月、そこから更にシムルグ子爵領で一番近い町のマトニタ町まで更に一か月の工事が掛った。
街道舗装の指揮を取って約二か月。
ベルン領の噂も順調に広がっているようで、お客さんが流れて来るようになった。
なので、最も優先したのは、スロリ町の『商会』を本格的に建てる事にした。
元々商会っぽいお店は作っていたが、これはあくまでも町民達の為のお店だ。
外部から来たお客さん相手の商売ではない。
ワルナイ商会やペイン商会を誘ってもいいんだけど、出来れば町民達で運営させたいと思う事もあって、両商会には声は掛けない事にした。
「という事なので、商会を作ります! やりたい人~!」
「「「「はーい!!」」」」
意外と沢山の町民が手を上げた。
中には幼い子供達も沢山いる。
その中で一番リーダーシップに強い、キリヤさんという若者がいて、学校でも計算能力の高さや、お店でも人との対話の上手さが目立っていたので、キリヤさんを商会頭として立てて、新たな商会を作る事となった。
それで名前を考えていたら、キリヤさんからどうしても『ラウド商会』にしたいと申し出た。
特に決めた名前もなかったので、了承してベルン領発、ベルン領運営の『ラウド商会』が始まった。
キリヤさん以外にも店員さんや運び屋、護衛などを数十人が商会で働く事となった。
「それにしてもとても素敵な名前の商会名ですね」
「はっ、ありがたき幸せ、このキリヤ。これからもベルン子爵家の為に頑張っていきます」
「ありがとう。これからも期待していますね?」
「はっ!」
何故かティナ令嬢にかしこまるキリヤさん。
あれ?
二人にそんな接点あったっけ?
不思議に思っていると、隣にいたサリーが答える。
「キリヤさんは、以前魔物に傷を負った時、ティちゃんに治して貰った事があるのよ」
へ、へぇー、それは知らなかった。
…………平手打ちヒールかな?
「ティちゃんに回復された男は、大体ああなるの」
「…………それならティナ様の為に頑張るべきだろうに、どうしてベルン家なんだろう?」
「そりゃ、ティちゃんが既にベルン家の妻になるつもりだからね。ベルン家の発展はゆくゆくティちゃんの為になるからね」
「ああ~なるほど! ――――って、婚約したの最近なんだけど!?」
「幼い頃からああやっていたわよ? 気付いてないの、お兄ちゃんだけだよ?」
「へ?」
「因みに、あの商会の名前の意味、分かる?」
「ラウド商会? どういう意味なの?」
「…………やっぱり気付かないんだ。お兄ちゃん」
「へ? う~ん、何処かで見た事はある名前なんだけどな……」
「ふふっ、それならそれでいいんじゃないかな! でもこれだけは言えるわ。商会の名前もベルン家の為のモノだからね」
「へ、へぇーそうなんだ? ま、それならいいか」
いたずらっぽく笑うサリーがまた可愛かった。
それにしてもティナ令嬢はいつの間に、町民達から崇められるようになったんだろうか……。
通り過ぎる町民達もティナ令嬢を見かけると、必ずその場に止まり挨拶をしていた。
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