第69話 嫡男宣言

 ティナ令嬢との婚約から半年が経過した。


 更に冬が終わり、僕は十歳に、アレンが九歳、サリーが八歳になった。


 この半年でそれぞれの想いのまま、力を蓄えていた。


 俺はというと、この年を待ちわびていた。




 スロリ町の広場。


 お立ち台にお父さんと僕が立っており、その前に家族や辺境伯様にティナ令嬢、多くの貴族と町民達で溢れていた。


「こほん。本日はベルン子爵家の為に、わざわざ時間を割いて来てくださった方々、集まってくれた町民の皆さんに感謝を申し上げます」


 お父さんの言葉に合わせて、お父さんと一緒に頭を下げる。


「本日は他でもない、ベルン家の長男クラウドが十歳となりまして、正式的に『ベルン家の嫡男』として認める事を、ベルン家当主であるビリー・ベルンより、皆様にご報告致します!」



 お父さんの短い言葉だったが、僕をベルン家の正式的な跡取りとして認める発表だった。


 貴族社会では十歳になる年、その長男を嫡男として認めるか決めるらしいけど、僕は既に七歳の時点で嫡男が決まっていたので、嫡男として名乗っていたし、お父さんお母さんからもそうしなさいと言われていた。


 今日の発表は言わば形ばかりのモノだ。


 ベルン家が男爵から子爵に上がった事もあって、多くの貴族仲間達からも一目置かれる存在となったので、こういう場を設けたのた。


 更には辺境伯様がいらしてくださった事で、更に大きな意味を持つ事となった。

 

 まぁ、ティナ令嬢と僕は既に婚約しているので、そのためも大きいんだけどね。


 しかし、驚くのは、バルバロッサ辺境伯様だけ・・ではないのだ。


 何と、バルバロッサ辺境伯様の隣には、あのガロデアンテ辺境伯様もお見えになったのだ。


 これは異例中の異例で、寄り子ではない貴族の、たかが嫡男宣言くらいに来るほど、辺境伯という地位はやすくない。


 なのに……ここに二人の辺境伯様がお越しくださった。


 その結果が、王国に大きな波紋を呼ぶ事となるのだった。




 僕の嫡男宣言が終わり、スロリ町はお祭り騒ぎになった。


 お母さん特製のバーベキューお肉串が既に町民達に受け継がれていて、出店が大量に出ている。


 勿論、料金は取らないので、ただで食べれる。


 その珍しい光景に他の貴族達が少し戸惑っていたが、とある貴族によって少しずつ心を開くようになった。


 そのとある貴族とは――――




 屋台の前で早速肉を片手に悶える親子貴族がいた。


 以前は太っていた彼らも、すっかりスリムな身体になっており、本来の肉体美に目覚めた彼らは貴族達の間でも噂になっているほどだった。


「うめぇ~! さすがはクラウド様のお母様の特製ばーべきゅーお肉! このシムルグ子爵は一生お仕えしますぞ!! この肉さえあれば、わしは無敵じゃ!!!」


「ん!! うまぁ!!! お父様! クラウド様に忠誠を誓ったのは僕の方が先です! お父様より僕の方がクラウド様に役に立てるので、早く貴族位を渡してください!」


「何をいう! わしはまだまだ現役じゃ! これからもクラウド様と奥方様の為に、日々頑張っていくのじゃ!」


 トイレ戦争が終わり、気が付けばシムグル子爵とその嫡男が「クラウド様! 忠誠を誓います!」と跪いてきた。


 更にはガロデアンテ辺境伯の寄り子を脱退し、まさかのベルン男爵家の寄り子となる事を宣言。


 それもまた王国内に大きな波紋を呼ぶ出来事だった。


 そのあとガロデアンテ辺境伯様のおかげで、この事件は闇に葬られたが、ガロデアンテ辺境伯様から凄く嫌みを言われたのだ。



 それはともかくシムグル子爵親子のおかげで、他の貴族の方々もお母さん特製『ばーべきゅーお肉串』を食べると、みんな口を揃えて感動していた。


 あのムスッとしているガロデアンテ辺境伯様ですら顔が緩むほどに……さすがに「うめぇ~!」とは言わなかったけど、隣にいたバルバロッサ辺境伯様が「うめぇ~!」と言いながら食べる姿を見て、張り合うかのように「うめぇ~!」と言いながら食べ始めた。



 こうして、僕のベルン家の嫡男宣言式は無事に終わり、何故か『クラウド様の日』という謎の日として認定され、毎年お祭りを開催する事が確定した。


 …………僕は全く関与してないんだけどな。



 次の日。


 既に多くの貴族が帰り、うちの屋敷には両辺境伯様だけが残っていた。


 そして、お二人がここに来た本当・・の目的が始まった。


 会議室に集まった両辺境伯様と僕。


 お父さんお母さんは座る事すら厳しいと、この場に参加しなかった。


 まぁ……辺境伯様が二人もいるし、仕方ないよね。


「こほん。では漸く年も明けて、スロリ町も落ち着いて、僕の身の回りも落ち着いたので、戦争時に約束した件を進めたいと思います」


 辺境伯様達の目が鋭くなる。


「まず、理由はともあれ、僕とガロデアンテ辺境伯様と交わした約束は遂行したいと思います。ガロデアンテ辺境伯様が指定する場所一か所に『トイレ』を設置します」


「うむ。その場所はもちろん、我が屋敷だ」


「かしこまりました」


「だが、一か所では足りぬ」


「ガロデアンテ辺境伯。それは約束違いでは?」


「いや、そういう事を言っているわけではない。純粋に足りぬと申している。我としてはあと三箇所には作って欲しい場所がある。もちろん、それについては購入・・として頼もうとしているのじゃ」


「……我が屋敷で経験した『トイレ』は凄かったじゃろ?」


「……ああ、悔しいが、あの『トイレ』はあまりにも画期的だ。それと、奪えない事も知った。あれはクラウドくんだけが作れる魔道具って事も理解した。だから高値で構わない。あと三箇所にも建てて欲しい」


「こほん。だが、残念じゃな! 実はわしの方が先にお願いしておって、お主のところには一か所しか用意しておらん。のう? クラウドくんや」


 は、はぁ……この二人は一体何の戦いをしているんだ……。


 そりゃバルバロッサ辺境伯様はこれから奥さんになるティナ令嬢のお父様なので、最優先なのは間違いないが、ガロデアンテ辺境伯様も決して無視できない存在だからね。


 それに『トイレ』の量産体制は既に完了してて、割と簡単に作れるから大変でもないんだよね。


「こほん。お二人とも! 『トイレ』はちゃんと量産体制に入りましたし、問題ありませんからね? 確かに順番とかはありますが、既に二組で分かれる予定にしてます。なので、お義父様? あまりガロデアンテ辺境伯様をいじめないでくださいね?」


「がーはははっ、それは悪かったのぉ~、そうか、さすがクラウドくんじゃ」


「むむむ、ま、まぁ既にその予定だったなら良いか…………それはそうと、クラウドくんに一つ頼みがあるのじゃが」


「はい? どうしましたか? ガロデアンテ辺境伯様」


 そして、ガロデアンテ辺境伯様から、安心しているバルバロッサ辺境伯様の笑顔が一変する頼み事が言い放たれた。






「どうじゃ、わしの娘に十になる出来た娘がいるのじゃが、貰ってはくれないか?」





「「えええええ!?」」


 あまりの急すぎる頼みに僕もバルバロッサ辺境伯様もその場で立ち上がる程だった。

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