第68話 普通のお茶会
「本日はお招きいただきありがとうございます。ベルン子爵家嫡男、クラウドと申します」
僕は集まった貴族の子達の前で挨拶をした。
本日はバルバロッサ領の南にある『タイラル子爵家』の嫡男であるエリックさんのお茶会に誘われて参加した。
綺麗な金髪の整った顔は、前世の漫画でしか見れないくらい美形の男子だった。
「ようこそ、タイラル子爵家嫡男、エリックでございます。本日は遥々お越しくださり、ありがとうございます」
挨拶も優雅で王子様みたい。
それから同じバルバロッサ辺境伯様の派閥の貴族家の子達から挨拶があった。
ブルオン男爵家の次男、バスリオ男爵家の長男、コクリオレ男爵家の三男が参加していた。
こういうお茶会は基本的に同性を誘うのも一つマナーらしく、初めて参加する僕の為にも同性の男の子ばかり集めたお茶会となった。
ゼイルから学んだ通りに挨拶を終え、テーブルに座ると、エリックさんの執事とメイド二人がテキパキと紅茶やお菓子を準備してくれた。
お菓子は甘めなお菓子よりは、食べ応えがあるビスケット類が多く、男子のお茶会な感じがして良かった。
「まさか、あのベルン子爵家の嫡男殿が参加してくださるとは思わず、今回のお茶会をとても楽しみにしていました」
少しニヤケ顔のエリックさん。
「――もぐもぐ、うんうん! 僕も楽しみだったお~、――もぐもぐ」
その隣で、お菓子をこれでもかってくらい食べている少し小太りのブルオン男爵家の次男、ロンさん。
「ロンさん。食べながら喋るなんてはしたないですよ、こほん。クラウド様が不快に思うでしょう?」
ロンさんと仲良さげに話すバスリオ男爵家の長男、キリスさん。
「そ、そ、そうですよ…………せっかくのクラウド様が……」
僕が見つめると「ひっ!」って下を向くコクリオレ男爵家の三男のピオさん。
中々個性的な人ばかりだね。
そんな姿を見ながら、笑っていると、エリックさんが「クラウド様は思っていた以上に、堅苦しいのは苦手なのですかね? 僕のところのお茶会はそんな堅苦しい事は気にしなくて大丈夫ですので、楽にしてください」と話してくれた。
意外な言葉に少し戸惑ったが、ロンさん達が楽しそうにしているのを見て、僕も少し気が緩み、肩の力を抜いた。
「ふぅ……実は、あまり貴族の社交界には出た事がないので、お茶会も初めてで緊張してました……ははは……」
「ふふっ、最初はみんなそういうものです。それにしても、クラウド様がお茶会が初めてなのは意外ですね?」
「うんうん。凄く意外!」
「えっ? 僕が初めてなのが意外ですか?」
「ええ、クラウド様は、あの有名な辺境伯令嬢様のフィアンセですからね~、もっと貴族らしい方だと思いました」
キリスさんの言葉にロンさんもピオさんもエリックさんまで頷いた。
「あはは……ティナ様とは、五歳の時に出会ってから、幼馴染のようなものでして」
「ほぉ……クラウド様、ぜひそこの話を聞かせてください!」
意外とエリックさんが一番食いつきが良かった。
苦笑いが自然と零れるが、エリックさんの興味ありげな質問に一つずつ答えていった。
二時間ほど、お茶会を楽しんだ僕達は、解散となり、みんなから熱い握手を交わされ、「クラウドくん! 僕達はもはや親友だよ! いつでも困った事があったら言ってね?」と言われるまでになった。
僕も同年代の友人がいなかったのもあって、初めての友人に少し嬉しく思う。
そのままロクに乗り、ティナ令嬢のところに向かった。
「クラウド様! お茶会は楽しんだ?」
「はい、緊張していたんですけど、みなさんとても楽しい方ばかりで楽しかったですよ」
「ふふっ、それは良かった!」
婚約してから大きく変わった事が一つある。
今までは常に一定距離を保っていたティナ令嬢が、常に腕に絡んでくるようになった。
婚約しているから良いのだと思うけど、ティナ令嬢の肌の香りを常に感じてしまうので困るのよね……。
ずっとニコニコして上目遣いで「どうしたの?」って見上げてくるけど、どうもこうも貴方の所為ですっ! って言えない……。
ティナ令嬢との時間を過ごして帰って来ると、今度はサリーに左腕に絡んできた。同じ事を聞かれ、同じ事を答える。
サリーも最近上目遣いが増えた気がする。
その日の夜。
「あら、クーくん」
「うん? どうしたの? お母さん」
「ちょっとこっちに来てみて」
お母さんに呼ばれ、目の前に立った。
「あら! クーくん、また身長が伸びたね! うんうん!」
お母さんが僕の頭を優しく撫でる。
最近ティナ令嬢とサリーから上目遣いが増えたな~と思ったら……そうか。身長が伸びていたんだな。
表彰式でもそうだったけど、未だ自分が向こうに住んでいて、ゲームをやっているかのような感覚がどうしても残っている。
それでもティナ令嬢やサリーのぬくもりは本物だし、お母さんの頭を撫でる手のぬくもりも間違いなく本物だ。
前世では彼女も出来た事ないのに、婚約までしてしまって、前世の両親が聞いたら笑われるかも知れないね。
「兄ちゃん! 見て見て!」
そんな事を思っていると、向こうからアレンが手を振ってきた。
「光り輝け! 勇者の光の剣! 弐式!」
アレンの剣が眩い光に包まれる。
しかし、今回はそれで終わらなかった。
なんと!
アレンが光る剣から手を離したのだ。
すると、剣が空中に浮いた。
「おお!? 剣が浮いた!?」
「うん! 僕の魔法で剣を覆って浮かせているんだ!」
「そっか! アレンくんは凄いね!」
アレンくんの頭をなでなでしてあげると、嬉しそうに笑顔になった。
「そう言えば、勇者って光魔法が使えるんだっけ?」
「うん! 光魔法というよりは、勇者魔法というみたい!」
ゆ、勇者魔法……。
「そう言えば、その剣を覆っている魔法って、覆わないと使えないの?」
「ん~、ん~、――――――覆わなくても使えるかも?」
すると、アレンは剣を覆っているのと同じ形の光魔法を出現させた。
「おお~、アレンくんは剣がなくてもそういう魔法が使えるんだね! その魔法が沢山使えたら、誰もアレンくんには勝てなさそうね~」
何となくアレンを褒めたが、アレンから返事が返ってこない。
ちらっとアレンを見ると、驚いた顔で何かを考え始めていた。
「兄ちゃん…………やっぱり、兄ちゃんは天才だ……!」
「へ?」
既に日が落ちて暗い夜。
アレンが作った光の剣五本が広場を照らした。
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