第70話 ガロデアンテ辺境伯家
両辺境伯様の指定した場所は、意外にも同じ場所で、屋敷とお城のそれぞれのところに『トイレ』建設をする事にした。
バルバロッサ辺境伯様の場所は、鍛冶組のナンバーツーのゲルマンさんが任せた。
鍛冶組のカジさんと僕はガロデアンテ辺境伯様がいらっしゃるガロデアンテ辺境伯領都ギシリアンにやってきた。
そして――――
「ティナ様。領都ギシリアンが見えましたよ?」
「本当だ~! うちの領都とは雰囲気が違うわね」
「ですね~エグザ街は四角い建物が多いのに、ギシリアン街は三角の建物が多いですね~」
「そうね。エグザ街と同じくらい活気もあって、意外にいい街ね」
「ええ。ガロデアンテ辺境伯様は厳しい方ですけど、ちゃんと約束ごとは守ってくれますし、噂のような酷い方ではないのが分かります」
「うんうん。やっぱり噂は噂ね」
そんな話をしながら僕達はガロデアンテ辺境伯様の屋敷に向かった。
実はガロデアンテ辺境伯様から娘を貰ってくれと言われて、バルバロッサ辺境伯様からティナ令嬢と一緒に行ってくれと頼まれたのだ。
ちゃんと執事のアルフレットさんも来てくれて、うちのゼイルも来ている。
二人も久しぶりの対面らしくて、嬉しそうに程よい会話を交わしていた。
決して僕達の会話を邪魔しない音量で話す二人は、執事らしいと思う。
暫く街の中を馬車で進むと、一際大きな屋敷が見え始めた。
屋敷の上部にガロデアンテ辺境伯の紋章が書かれた旗がなびいている。
恐らく、ガロデアンテ辺境伯様の屋敷だろう。
予想通り、馬車はその屋敷の中に入って行った。
「いらっしゃいませ、ようこそガロデアンテ辺境伯家へ」
優雅に挨拶してくれる美少女が出迎えてくれた。
綺麗な青い髪を一つにまとめて、貴族としては珍しいポニーテールスタイルだ。
「初めまして、僕はクラウド・ベルンと申します。こちらは婚約者のティナ・バルバロッサ様です」
「あら、噂の聖女様でございますか。わたくしはアーシャ・デル・ガロデアンテと申します」
彼女の挨拶に合わせて、僕達も挨拶を交わした。
挨拶を終えた僕達を、アーシャ令嬢は優しい笑顔で迎え入れてくれて、屋敷の中を案内してくれた。
『トイレ』を設置するのは明日になるので、今日はこのまま歓迎会になるはずだ。
屋敷をしばらく案内され、最後は部屋に案内された。
……。
……。
……。
「えええええ!? ティナ様と同じ部屋!?」
「あら? お二人は婚約者でしょう?」
「そ、そ、そうですけど……まだ早い気が…………」
「あら、クラウド様。私なら問題ないわ…………それともクラウド様は嫌?」
「え!? い、嫌な事はないんですけど! こういうのは、その、結婚してから……と……言いますか……」
「ぷっ、あ、あはは~!」
僕達のやり取りを見ていたアーシャ令嬢が急に大笑いをした。
それにつられるかのように、ティナ令嬢も大笑いする。
暫く笑った二人は何かを話し合うと、アーシャ令嬢は部屋を分けてくれると元の部屋に僕の残し、二人で何処かに行ってしまった。
ゼイルがテキパキ部屋に荷物を置く間に、僕は窓の外を眺めていた。
行き届いている綺麗な庭が広がっていて、その美しさに目を奪われた。
どれくらい目を奪われていたか分からないが、後ろから声が聞こえた。
「お気に入りましたか?」
「ん? あ! アーシャ様。はい。とても綺麗な庭ですね」
「ふふっ、はい。少し自慢になりますが、私の傑作なんですよ?」
「えっ!? アーシャ様の傑作!?」
「ええ。実は私、庭の設計をしているんです」
意外な答えに少し驚いた。
庭の設計ってあまり聞かない言葉で、基本的には庭師という職業があるのだが……。
「本来なら庭師がやる事なんでしょうけど、私には庭師の仕事が禁止されています。女性として生まれたので、ああいう力仕事は出来ません。更には才能にも恵まれなかったので、私はただ見る事しか出来なかったんです。でもそのうち、うちの庭師にこうしてほしい、ああしてほしいと注文をするようになって、気付けば、今の庭が出来上がりました。これについてはお父様もお母様もとても喜ばれたのですよ?」
嬉しそうに話す彼女は、本来の美貌もあり、とても美しく輝いていた。
自分が好きな事に熱中する。
その心が表情に出ているのだろう。
その時、一つ思えた事があった。
その庭を見た時、大きな
「……アーシャ様はここで指示を?」
「え? え、ええ」
「…………」
「どうかしましたか?」
「ん~これって…………デザイナーね」
「でざいなー……?」
「ん? あっ! いいえ! 何でもありません!」
「!? く、クラウド様!」
思わず、前世の記憶から、美しいデザインだな……と思ってしまった。
元々建築士を目指していた僕は、こういうデザインの勉強もしていた。
この庭の圧倒的なまでに美しいデザイン力に、久しぶりに心の中にぐっとくるモノを感じた。
だから、思わず「デザイナー」という言葉を発してしまった。
そんな僕は慌てて逃げようとしたら、アーシャ令嬢が僕の腕に絡んで止めに入った。
アーシャ令嬢の素敵で良い香りが僕の鼻を刺激する。
更に腕に絡むアーシャ令嬢の柔らかい肌の感触は、ティナ令嬢とはまた違う感触で、どちらもとても素敵だ。
「あ、アーシャ様!?」
「ま、待ってください! 先の話を――――」
と、その時。
扉の方から凄まじい殺気が僕達を襲う。
「…………ティナの婚約者様?」
ティナ令嬢が目だけで魔物を倒せるくらい冷たい目で見ていた。
彼女が自分の事を名前で呼ぶなんて、初めて聞いた。
「てぃ、ティナ様! こ、これは、ち、違――――」
僕が言おうとしたら、アーシャ令嬢が前に出た。
「ティナ様。大変失礼しました。実はこれには深い理由がありまして……」
「……ぜひ聞かせて頂きましょう。私はアーシャ様を信じておりますから」
そこは僕じゃないのか……。
「皆様。大変申し訳ございませんが、話は後でお願い申し上げます。そろそろ夕食の時間になりますから、ティナ様もそれで宜しいですね?」
アルフレットさんが苦笑いしつつ、ティナ令嬢を宥めた。
ティナ令嬢は少しだけ拗ねて、食事会場までずっと僕と腕を組んで離してくれなかった。
拗ねているティナ令嬢が少し可愛くて、思わず頭を撫でてあげると「むぅ……浮気は絶対駄目だよ? ちゃんと先に言ってね?」と小さい声で話してくれた。
アーシャ令嬢とそういう雰囲気ではないんだけど、どうやら誤解しているみたいだ。
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