第65話 戦いの後

 魔物の大軍も漸く討伐が完了した。


 クロとサリーのおかげで、広範囲で魔物を殲滅してくれた事が功を成した。


 更にロクには危険が及んでいる仲間を助けたりと獅子奮迅な活躍だった。


 魔物の亡骸は少し時間が経過すると、その場で溶けるように消えて行った。


 最初からその場にいなかったと言わんばかりに。




「お兄ちゃんー!」


「サリーちゃん、お疲れ様」


 降りて来たサリーの頭を撫でて労う。


 戦いの後だけど、笑顔のサリーに少し心が癒される。


「アレンくんとエルドくん、アイラ姉ちゃんもサリーちゃんを守ってくれてありがとう」


「僕も勇者だからね! でも次は絶対活躍するから!」


「僕も次は絶対に活躍してみせます! クロ殿に負けないように日々鍛錬に励まなければ……」


 いやいや、君達まだ幼すぎるから!


 兄としては、もう少しゆっくり成長して欲しいモノだ。


 アイラ姉ちゃんは何も言わず、ただニヤニヤしているけど、それがちょっと怖い……。




 サリーのなでなでが終わる頃、


【ご主人、ただいま~】


 ロスちゃんが戻って来た。


「ロス!」


 僕は思わず、ロスちゃんを抱き締める。


 何故か、ロスちゃんが悲しそうな顔をしていた気がするから……。


【心配ない。私は強いのだから!】


「強さなんて関係ない。ロスちゃんが僕の従魔なのは変わらないんだから」


【……そうか】


「クロもお疲れ様! 今回の戦いで一番の功績はクロだね! 本当にありがとう!」


【はっ! ありがたき幸せ! このクロ、これからも全身全霊を持って主に仕えます!】


「ははは、とても心強いよ! とにかく、今は戻って休もうか!」


「うん!」



 そして、僕達は辺境伯様に挨拶を残し、一足先スロリ町に戻って行った。


 ガロデアンテ辺境伯とは辺境伯様の方で話を付けるそうだ。


 もしもの時は、僕が全力で辺境伯様の力になると伝えると、とても喜んでくださった。



 こうして、王国歴史でも最悪の戦いになりそうだった『トイレ戦争』は終わった。




 ◇




 スロリ町に戻った僕達は、全員そのまま眠りについた。


 初めての大きな戦いの事もあって、倒れるように眠った。



 次の日。


 お父さんとお母さんにも現状を報告。


 お母さんは涙を流し、僕達の無事な帰りを喜んでくれた。


 またお母さんを泣かせてしまった事に、心が痛むけど、辺境伯様の――――引いてはティナ令嬢を悲しませずに済んで本当に良かった。


 その後、負傷者が多い辺境伯様の兵の事も考え、回復魔法が使えるお母さんとみんなで戦場の近くのエオリ町に向かった。




 エオリ町に着いた時、案の定、負傷者に溢れていた。


 クロの活躍もあって、死者はそれほど出ていないと思うけど、あの戦いに多くの者が怪我をしていて、深刻な兵もいそうだった。


 お母さんは回復に勤めている回復士の元に行き、事情を聞いて周りの負傷者を回復させ始めた。


 その後を追うように来てくれたティナ令嬢も、お母さんを見つけると直ぐに走って来ては、お母さんと一緒に回復に勤めた。


 ティナ令嬢は聖女というだけあって、お母さんとは比べ物にならない速度で周りを回復していった。




 ――――もちろん、平手打ちヒールで。




 ◇




「クラウドくん」


「辺境伯様、此度の戦いはお疲れ様でした」


「いやいや、これも全てクラウドくんがいてくれたから、これくらいで済んで良かった」


「あんな魔物の大軍が現れるなんて……」


「そうだな。犯人・・に目星は付いているが、確証がなくてな。既に証拠も消えて無くなってしまったし、今回は無事だった事を喜ぶしかないな」


「…………それって」


 僕が言おうとした時、辺境伯様が手を前に出して言葉を遮った。


「証拠がないうちは口にしてはいけない。本当はだという事もあり得るのだ」


「……そうですね。ありがとうございます」


「それはそうと、今回の戦いではクラウドくんの活躍が最も大きい。ぜひ功績を称えたい。更には自らを犠牲にして辺境伯同士の橋渡しまでした功績は計り知れないだろう。落ち着いた頃に表彰式をしたいのだが、良いかの?」


「…………元を言えば、僕が」


「いや、そんな事はない。君は素晴らしいモノを作った。それは引いては世界の為となろう。そんな素晴らしい事を成し遂げた君の所為で戦争が起きたなどと思わなくてよい。悪いのは戦争で他人の物を奪おうとした者なのだから」


「辺境伯様…………分かりました。謹んでお受けいたします」


「おお、これは嬉しいものじゃ、ではその日を楽しみにしておいてくれ。とびっきりの報酬を用意しておこう」


「あはは……あまり周りの貴族様が怒らないくらいでお願いしますね?」


「がーはははっ! 分かったわい!」


 お父さんから、辺境伯様からの提案はあまり断るなと言われているのと、後は単純にアレン達も頑張ってくれた今回の戦いで一緒に褒められたいという思いもあった。


 そんな事が辺境伯様との間で決まって、僕は相変わらずの負傷者の回復を頑張っているお母さんとティナ令嬢の元を訪れて、アレン達と一緒に応援をした。


 気のせいか、僕が来てからティナ令嬢の動きが数倍速くなっている気がする。


 いつの間にか無詠唱を取得したティナ令嬢は、詠唱もせず、両手にヒールを纏わせ、次から次へ平手打ちヒールを叩き込んでいる。


 心無しか、お母さんよりティナ令嬢に回復して貰った兵の方が喜んでいる気がするけど……気のせいだろうな。




 この日を境に、辺境伯様の兵達から、お母さんは『聖母』、ティナ令嬢は『聖女』と呼ばれるようになった。




 ◇




「さぁ~! みんなさん~炊き出しですよ~!」


「「「「うおおお!! めちゃめちゃ良い匂いだ~!!!」」」」


 お母さん特製のビッグボアの肉をふんだんに使った豚汁とパンの炊き出しが始まった。


 僕とアレンとサリーとエルド、執事組の三人も手伝ってくれて、次々豚汁とパンを兵達に渡した。


「「「「うめぇ~!!!!」」」」


 町中に「うめぇ~!」の声が木霊していく。


 うちのお母さんの料理は最強なのだと、改めて理解した。




 ……ちゃっかり兵達の中で混じって食べてる辺境伯様も「うめぇ~!」と叫んでいた。

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