第63話 本当の戦いの始まり

 ドカーーン!



 戦場の向こうにある森の奥から、爆発が起きた。


 僕だけでなく、戦場の全ての人がその爆発に目を奪われる。


「えっ!? 爆発?」


 上空に飛んでいたロクが急降下してきた。


【ご主人様! 大変よ! 森の向こうから、魔物の大軍が溢れ出て来るよ!】


「え!? 魔物の大軍?? どうしてこのタイミングで……?」


「えっ? お兄ちゃん? あれから魔物が来るの?」


「あ! うん! そうらしい」


 サリーは何を思ったか、そのままコメの声木霊魔法を使った。



「向こう魔物の大軍来る!」


 ――「向こう魔物の大軍来る!」


 ――――「向こう魔物の大軍来る!」


 ――――――「向こう魔物の大軍来る!」



 その言葉に戦場の兵達の顔に緊張が走った。


 そして、直後。


 森の中から、今まで見た事もない形の魔物が大量に溢れ出た。



「総員! 魔物を殲滅しろ!!」



 バルバロッサ辺境伯様の陣営から大きな声が響き、兵達が溢れた魔物に向かって戦い始めた。


「っ! クロ! 悪いけど、魔物を撃退してくれ! ロク! このまま向こうの辺境伯の所に!」


【御意!】【りょうかい!】


 その時。


【ご主人! 私はちょっと向こうに行ってくるよ】


「えっ? ロスちゃん?」


【大丈夫! 私は強いから】


「…………」


 ゆっくりクロの背中から魔物達が溢れた場所とは真逆の場所に向かって歩き始めた。


 何だか、ロスちゃんが遠くに行くような気がした。


「ロス!」


 僕の呼ぶ声に、ロスが一瞬止まった。


「帰ったら、一緒にジャイアント茸を食べような!!」


 ロスは振り向く事なく、前足を横に上げて、また前に歩き出した。


 彼女と出会ってから、こんな形で離れるのは始めてだ。


 少し寂しい気持ちを抑えつつ、僕はロクに乗り、相手側の辺境伯に真っすぐ飛んだ。




 ◇




 アレン達はあのままクロの上に残し、僕一人でガロデアンテ辺境伯の所にやってきた。


「止まれ!」


「僕はクラウドです。ガロデアンテ辺境伯様に会いに来ました」


「なんの用だ!」


「魔物の事もですが、この戦争について話し合いに来ました。『トイレ』を作った張本人だと伝えてください」


「なっ!?」


「急いで!!」


 僕の急いでの声に驚いた兵士は、そのまま辺境伯の所に走って行った。


 ものの数秒で通され、ロクと一緒に辺境伯の前に連れて行かれた。




「貴様が『トイレ』を作った張本人だと?」


「はい。初めまして。僕はベルン家の長男、クラウドです。ガロデアンテ辺境伯様に一つ提案があって来ました」


 ガロデアンテ辺境伯はバルバロッサ辺境伯様と違って、鋭い目で威圧するような目線や態度で、着ている鎧や隙間から見える服もとても高価な物に見える。


 それだけで彼の性格が分かりそうだ。


「ふん。子供がか?」


「……こちらのロック鳥を見られてもそう仰るのですか?」


「ふん…………それで? 『トイレ』を作れる本人がここに何しに来た?」


「先程も言った通り、提案があります。僕が提供するのは、ガロデアンテ辺境伯様の指定する場所に『トイレ』を一つ建てましょう」


「ほぉ……? それで、貴様は我に何を求む?」


「はい。僕との繋がり、そして、この場でのバルバロッサ辺境伯様と協力して魔物を殲滅し、この戦争を終わらせてください」


「くっくっ……くっくっ…………がーはははっ!」

 

 ガロデアンテ辺境伯が腹を抱えて貰う。


「『トイレ』一つで止めるとでも?」


「…………僕はバルバロッサ辺境伯様と『スロリ馬車一号』を契約してます。僕からバルバロッサ辺境伯様にその件も相談させて貰います」


「……がーはははっ! 貴様、子供の姿だが、我を前にも動じないか!」


「はい。僕はバルバロッサ辺境伯様とも対等・・に渡って来ましたから」


「あの熊と! がーはははっ! 面白い。その提案飲もう。もし守らなかった場合は――――」


「分かっています。僕はこのままバルバロッサ辺境伯様に向かい現状を説明して来ます! どうか協力の方をお願いします!」


「ああ、それは心配せずとも、我は約束は絶対に守る」


 怖い人だけど、ここまでプライドが強い分、約束を守るという言葉がとても信頼出来た。


 ガロデアンテ辺境伯を後にして、そのままバルバロッサ辺境伯様に向かう。


 上空から見た感じ、クロが最前線に出て戦ってくれて、クロの上からサリーが魔法で援護、敵の魔物で空を飛ぶ魔物がサリーを狙うのをアレンとエルド、アイラ姉ちゃんが迎撃していた。


 各軍は盾隊を中心に、後方から矢と魔法で迎撃している。


 それにしても魔物が溢れすぎじゃない!?


 数え切れないほどいる。千ところじゃない、五千はいそうだ。


 戦場を眺めていると、いつの間にバルバロッサ辺境伯様の元にやってきた。


「辺境伯様!」


「おお! クラウドくん。此度は助かった!」


「いえいえ! それはそうと、ガロデアンテ辺境伯様に協力をお願いして来ました」


「むっ! なるほど……『トイレ』を出したのか?」


「はい。それは魔物を殲滅してから。とにかく、ガロデアンテ辺境伯様の事は気にせず魔物に集中出来ます!」


「あいわかった。それが分かればこちらもやりやすくなる。伝令! 魔物に全力対応に切り替える!」


「はっ!」


 近くにいた伝令が兵隊の中に消えていった。


 少しして、辺境伯様の軍は今までガロデアンテ辺境伯側を警戒していた軍も全て魔物に当たり始めた。


 そのタイミングで、ガロデアンテ辺境伯も魔物に全力で当たり始める。



「それにしても、どうして魔物がこんなに…………」


「……誰かが仕組んだ・・・・と思えるような場面だな」


「ですね…………思いたくないんですが、この戦争を裏で操っている者が?」


「ああ、間違いなくいるだろう。『トイレ』や『スロリ馬車一号』を利用して、辺境伯同士を戦わせて、あの魔物で一気に殲滅しようとしたのだろう」


「あんまり考えたくないですね」


「そうだな。今はとにかく、この窮地を抜けねばな」


「はい。無事に帰らないとティナ様に怒られますからね」


「がーはははっ! それもそうだ! ティナの花嫁姿を見るまでは絶対に死ねないからな! クラウドくん。従魔達の力、借りるぞ!」


「はい!」


 こうして、バルバロッサ辺境伯様とガロデアンテ辺境伯、そして僕の従魔達の連携により、突如として現れた魔物の大軍だったが、あっさりと殲滅した。


 普通の魔物とは違い、数は多いが強さは大した事がなかったのが、不幸中の幸いだった。

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