第62話 トイレ戦争勃発!

 『トイレ戦争』。


 その名は、王国の長い歴史に永遠に刻まれる事となる戦争であり、この戦争で王国はとんでもない方向に進むのである。


 のちに学者はみんなが口を揃えて言うという。


 ――――「当時の人々のネーミングセンスはどうかしている」と。




 大嘘である。




 ◇




「『トイレ戦争』…………何か嫌だな~」


「クラウド様は自分がどんな魔道具を作られたか、未だ分かっていない様子……あの魔道具は革命的なモノだと、辺境伯様は仰っておりました」


「まぁ……革命的なモノは納得出来るけど、戦争までする事かな? しかも、同じ自国民同士で」


 ゼイルの言っている事に、一番不思議と思うのは、同じ国の仲間同士での戦いだ。


 それも戦争級らしい。


 前世の感覚なら、同じ国の仲間はお互いに手を取り合って生きていく気がするのだが……。


 でも戦国時代には似た事が多々起きていたらしいから、この世界もそう不思議な事ではないのだろうか?


「辺境伯は一国の王様にも匹敵します。王国に組しているのは、王国からより良い待遇を得ているからであって、別な辺境伯か王国と対峙する事も多々あります」


「そっか…………って!? 辺境伯様ってそんなに凄い方だったの!?」


「…………クラウド様。更に言わせていただくと、かの辺境伯様は『英雄』と呼ばれております」


「ええええ!? ど、どうしよう……辺境伯様に頭を下げられた事があるんだけど……」


 あれは忘れもしない。ワルナイ商会と揉めた時の事だ。


 お父さんがあんなに驚いていた理由が何となく分かった気がした。


 僕はとんでもない方に、とんでもない失礼な事を連発していたのかも知れないと思うと…………ベルン家の事を考えれば、少しだけ恐ろしくなった。



「話は戻りますが、先程魔道具を革命的なモノは分かるけど、戦争までするものか……という答えになりますが、間違いなく、なります」


「え? なるの?」


「はい。同格の者同士でより良い物を争うのは、世の常です。辺境伯様がスロリ馬車一号とトイレを手にした時点で…………戦争は秒読みに近かったと思います」


「ええええ!? じゃあ、戦争って僕の所為!?」


「ふふっ、クラウド様は面白い事を考えますね。確かに、クラウド様の所為と言えば戦争のを撒いた意味ではあるかも知れませんが、それは全くの筋違いでございます。全ては戦いを仕掛ける方の所為でございます」


「ん…………それもそうか」


「はい。ですので、クラウド様はお気になさらず、自分が思う正義を行えばよろしいかと思います」


 まだ僕の執事になって間もないけど、ゼイルはいつも良い相談相手になってくれる。


 しかも、決して「こうした方がいい」とは言わない。


 必ず僕が良いと思った事をした方がいいと言ってくれる。


 つくづく良い執事に出会えて良かったと思うし、彼ほどの執事一家が仕える辺境伯様の事も信頼出来そうだ。



 現在、僕達はクロの上に乗り、辺境伯同士の戦いの場に向かっている。


 このままなら戦う前に合流出来そうだ。


 カインさんが言っていたのは、辺境伯様の所に付けた『トイレ』を嗅ぎ付けた隣領の辺境伯が奪いに戦争を吹っ掛けた――らしい。


 本当にそんな馬鹿な話があるかっ! って思ったけど、辺境伯ともなれば、そのプライドは人と比べものにならないのだろうね。自分より良い物を使う同格がいる……恐らく、それが許せないのだろう……。とんだ迷惑だなと思っちゃうけどね。




 しかし、この戦争がとんでもない事になるなんて、この時の僕は知る由もなかった。




 ◇




「お兄ちゃん! 見えて来たよ!」


「ん……ちょっと遅かったか? まだ戦ってはないか?」


「うん! 戦い始める寸前って感じだね!」


 戦いの前に合流出来ると思っていたら、出来なかった。


 クロに急いで貰って、何とか戦う前に辿り着いた。


 前線にはバルバロッサ辺境伯様の兵が約1000名、向こうのガロデアンテ辺境伯の兵が約1500名ほどか。


 カインさんが言っていた通り、先に戦いの準備をしたガロデアンテ辺境伯の方が兵が多い。


 何とか間に合って良かった。


 僕としてはバルバロッサ辺境伯様に負けて欲しくないからね。



「クロ! このまま戦場の真ん中に走って!」


【御意!】


 戦いに移る前に、クロの大きな地鳴りと共に、その強大な姿を見せ、戦場のど真ん中に進んだ。


 両軍からものすごい悲鳴が聞こえる。


 中には「魔王だ!」って声まで聞こえる。


「サリー! お願い!」


「あい!」


 サリーが上空に爆発魔法を放つ。


 大きな爆発に両軍の兵からの悲鳴が一瞬止んだ。


 そして、サリーの可愛らしい声が戦場を木霊する。


「お兄ちゃん大好き!」


 ――「お兄ちゃん大好き!」


 ――――「お兄ちゃん大好き!」


 ――――――「お兄ちゃん大好き!」



「サリー!? 違うでしょう! 戦いを止めるんだよ!?」


「あっ! サリーとしたことが、いつもの癖で間違えてしまった! てへっ!」


 てへっ! って、めちゃめちゃ可愛い仕草のサリー。



「戦いを止めなさい!」


 ――「戦いを止めなさい!」


 ――――「戦いを止めなさい!」


 ――――――「戦いを止めなさい!」



 これで少しは戦いを止める気になってくれたかな?


 しかし、相手の兵が引く気配は全く無い。


 う~ん、このまま戦いになったら本当に困るんだが……もしもの時はクロに全力で戦って貰わないと行けなさそう。




 そんな事を思っていた時。


 この戦場で誰もが想像だにしなかった事が起きる。『トイレ戦争』なんて生易しい出来事ではなかった。


 僕でも、辺境伯様でも、向こうの辺境伯でも想像だにしなかった事態が。

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