第60話 魔王?

「みんな、聞こえる?」


【聞こえるよ~】【聞こえるわ~】【聞こえます!】【久しぶりの主に感激でございます】


 あはは……まさか従魔達と同時に念話が出来るようになったとは思わなくて、ロスちゃんから教わった時には驚いたよ。


 それで僕の従魔達のカースト制度のトップにいる、ロスちゃん、ロク、ギガントクロコダイルことクロ、コメ達とまとめて念話を行った。


「実は、僕が住んでいる町に戦いを仕掛ける連中がいて、ロスちゃんならいつもの咆哮で全員無傷で倒せないかなと思って相談しようと声を掛けたんだよ」


【私なら出来るよ~ご主人が望むなら、一瞬で消して来るけど?】


「だーっ! 消すのが駄目だってば! 相手も無傷で倒して欲しいんだよ」


【ん~無傷でって言われると、出来なくはないけど難しいな~】


 珍しく困ってそうなロスちゃん。


【主。ここは一つ、我にも機会を与えてくださいませ】


「うん? クロ、何か良い案でもあるの?」


【はっ、以前我に挑んだ愚かな国を一つ滅ぼした時の事でございます】


 さらっと、凄い事を言っている気がするんだけど……。


【その時、関係のない町には手を出さなかったのですが、何故か我の姿を見た連中は全員気絶したり、逃げたりしていました。ですので、我の姿を見せれば、主の求む結果になるのではないでしょうか】


「お~、クロは人間にとっては怖い姿をしているからね! うん! 今回の件はクロに頼みたいけど、いいかな?」


【はっ! 我にとっては最高の喜び! 主の望みのままに!】


「ふふっ、コメ達はクロの助けに入ってくれ!」


【はいっ!】


「あ~、それはそうと、クロをどうやってここまで連れて来ればいいかな……」


【主、我は速さ・・には少々自信がございます。今からでも主の元に駆け付けましょう】


「そっか! そうしてくれたら助かるかな! 相手は200人くらいだから、数日掛かりそうだから、まだ時間がたっぷりあるからね」


【では】


 クロは一言だけ残し、こちらに向かった。


 どうやら僕のいる場所の方角が分かるみたい。




 暫く作戦を考えながら待っていると、少し地の揺れを感じた。


「ん? お兄ちゃん。地震だよ?」


「だな~何だろう? 少しずつ大きくなっているような…………?」


 段々と大きくなる地の揺れ。


 その時――――


「クラウド様!! 大変です!!」


 警備隊の一人が息を切らして、会議室に入って来た。


「っ!? もう敵襲ですか? 意外と速い!」


「い、いえ! そ、それが北側のギガント山脈の方角から、とんでもない魔物がこちらに向かって全速力で走って来ております! もしかしたら伝説に伝う暴虐の魔王『ギガントクロコダイル』かも知れません! このままではスロリ町が崩壊する危険性がございます!!」


 あっ。


 ご、ごめんなさい。


 それうちの子です……。


 というか早くない!?


 呼んでからまだ数十分しか経ってない気がするんだけど!?


「あはは…………あのワニは気にしなくて大丈夫です。僕の従魔ですから」


「なっ!? さ、さすがは我らクラウド様でございます! 直ぐに周りに連絡致します!」


「あ! 大丈夫です! サリー、お願いしていい?」


「うん!」


 直ぐにスロリ町にサリーの可愛らしい声で「ワニお兄ちゃんの仲間~」という言葉が木霊した。



 何となく気になって窓の外から、クロが来る様子を見てみた。


「あ……あれは怖いと思うかもね」


「クロちゃん、めちゃめちゃ大きいからね!」


 20メートルは超えてそうな超大型ワニが、ものすごい速度で走ってくれば、そりゃ…………怖いよな…………。


 うちの従魔達は基本的に可愛いか怖いかな気がする。


 ロスちゃんとコメ達は可愛い部類で、ロクとクロは怖い部類だ。


 まぁ、みんな頼もしい従魔達だけどね!




【主! お久しぶりでございます!】


 少しテンションが上がったクロが、町の防壁からぴょこんと顔だけをこちらに出して、嬉しそうに顔を向けた。


「早かったね! クロはこの町は初めてだったよね? あとでみんなを紹介するね?」


【はっ! 我はいつでもここにいますゆえ!】


 大きいのに、ちょっと可愛いクロに自然と笑顔が零れた。


 広場に出ると、クロを一目見ようと町民達が防壁から出ているクロの頭を眺めていた。


 その姿を見て、町民の子供が感激する。


「なんだか絵本に出て来る『暴虐の魔王』のワニさんみたい!」


「クラウド様の従魔なんだから、魔王ではないさ。俺達の守護神さ!」


「守護神! ワニさんは守護神!」


 大人達から守護神という言葉を聞いた子供達が喜びの声を上げた。


 クロも聞こえているようで、【主の配下の者から守護神と言われる至高の喜び……!!】と心の声が漏れていた。


 そういえば、クロの背中にクロの子供ワニが数匹乗っているね?


「クロ~背中のは子供達?」


【はっ、外の世界を見てみたいと言うので、連れて来ました】


「そっか! じゃあ、こちらに降ろしてくれない? うちのウル達も喜ぶと思うから!」


【はっ! 我が子を主の元に置いてくださるなら、それもまた至高の喜びでございます! ぜひとも!】


 クロの背中に乗って来た子ワニ達十五匹を町に降ろした。


 大きさは大型犬くらいだから、本当にクロの子供なのか? と思ったりもするけど、そっくりさんなので間違いないだろう。




 後から現れたジャイアントスライムことスラが、ちゃんとクロに謝罪していた。


 あの時は、ほんの出来心だったみたい。


 その後、屋敷に連れて行った子ワニ達と遊んでいると、近くまで来たスラは心の声で【美味しそう……】と漏らしていたので、思いっきり蹴っ飛ばしてあげた。


 僕の命令で二度とワニ達の肉は食えなくなったらしいけど、欲望が消える訳ではないみたいね。




 子ワニ達を屋敷に連れて来てからウル達と遊ばせて、今度はお父さん、お母さん、執事達、職人達をクロに紹介してあげた。


 クロは泣くほど喜んでくれて、こちらまで嬉しくなった。


 あとは可愛い子ワニ達と子ウル達と沢山遊んだ。






 …………何か忘れた気がするけど、なんだっけ? まぁいっか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る