第55話 ベルン家の一日
「な、何!? 辺境伯様と契約を交わしただと!?」
あまりの驚きに椅子から転げ落ちた上に、そのまま飛び上がるお父さん。
「スロリ馬車の販売の権利が欲しかったみたいです」
「そ、それで……一体幾らで売って来たのだ!? ま、まさか……とんでもない値段ではないだろうな? クラウドだからそこら辺はしっかりしているとは思うのだが……」
「大丈夫です! 辺境伯様から
「ふ、ふむ……それなら良かった…………どこの貴族に寄り親から多額の金を取る貴族がいようか……金貨三枚くらいなら問題にはならないだろう。はぁ……良かった……」
安堵するお父さん。
その姿が少し微笑ましく感じた。
「お父さんも心配のし過ぎですよ! 最近、スロリ町の為に頑張り過ぎてますから、あ、そうだ! 明日はだいぶ仕事も少ない日ですし、スロリ馬車一号でお母さんとお出かけしたらどうですか? 旅費はここに沢山ありますから」
僕は銀貨と金貨が沢山入った袋をお父さんの前に出した。
「こんなに!? クラウド……いつの間にこんなに……」
「行商を頑張ってますから! 偶にはお母さんを労わってあげないと駄目ですよ?」
「あはは……息子にそこまで言われる僕の気持ちは、とても複雑だよ……それはそうと、ありがとう。お言葉に甘えさせて貰うよ」
駄目領主とばかり思っていたお父さん。
でも実は、ものすごく色んな事が出来るお父さんで、今のスロリ町の発展に大きな力を発揮していた。
お母さんからこっそり聞いたのだが、お父さんには自覚のない力があるそうだ。才能とかではなくてね。
お父さんの自覚のない力。
それは『指揮力』だった。
その力は、一人では何も成せない力だ。でも、味方がいるとその真価を発揮する力だ。
スロリ町の全ての仕事はお父さんが仕切っている。
指揮力のおかげなのかは知らないけど、お父さんが配置すると、全員が適材適所に思えるくらいスムーズに仕事が進むのだ。
ハイエルフのメアリーさんを主軸に結成した建設組も、お父さんがいち早くその才能を見抜いて作ったのだ。
そんな『出来るお父さん』を見ながら、息子として誇らしく思うんだけど…………それ以外となると、まるで別人のようにヘタレになってしまうのが、最近の悩みだ。
なので、考え方を変える事にして、お父さんに色々勧める事にした。
次の日、早速お父さんとお母さんが二人でピクニックに出掛けた。
念のため、ロクを護衛に付けた。
お父さん達に見つかる心配もないし、何かあっても一番早く対応出来るロクは、護衛役に一番適していると思う。
明日が休息の日だから、本日は早めに仕事が終わり、アレン達の稽古を眺めにやってきた。
意外な事に、以前はロスちゃんの前で素振りしている三人だったが、今は違っていた。
なんと、アイラ姉ちゃんがアレンとエルドと対戦形式で稽古中だった。
アレンとエルドがお互いに時間差で攻撃するも、アイラ姉ちゃんに軽々とあしらわれていた。
アイラ姉ちゃんには、二人に剣術を教えて欲しいと頼んだけど、漸くその頼みを聞いてくれたみたい。
ロスちゃんが見守る中、アイラ姉ちゃんの的確なアドバイスをすぐに吸収して、どんどん強くなるアレンとエルドを見て、とても微笑ましく思う。
たった数十分しか眺めてないけど、アイラ姉ちゃんに任せておけば、問題なさそうだ。
最年少で聖騎士になっただけの事はあるね。
学校にやってくると、可愛らしいサリーの声が外まで聞こえていた。
開いた窓から講堂の中を眺める。
サリーのさんすう教室が開かれており、生徒の大人達を助手の子供達と一緒に教えていた。
今や町民の殆どが計算が得意となり、お金の計算を越えて、色んな仕事でも活かせるようになっていた。
それも全てサリー先生の教えのおかげだね!
僕は素晴らしい妹を持って、とても誇らしいよ!
今度は、ハイエルフ族が住んでいるスロリ森の町にやってきた。
多くのハイエルフ達が懸命に野菜を育てつつも、楽しい会話に花を咲かせていた。
以前なら掟の所為で、お互いに会話するのもままならなかったのに、撤廃したおかげで彼らの仲もどんどん良い方に向かっていた。
ハイエルフ達が作る野菜はどれも美味しいから、彼らの頑張りはとても助かる事でもある。
より良い方向に進むベルン領を一日眺めて、俺は屋敷に戻ってた。
◇
お母さんがピクニックで出掛けているので、本日は久しぶりにメイドさん達が作ってくれた食事を食べた。
お母さんほどではないけど、とても美味しい。
どうやらお母さんに手ほどきを受けているとの事だ。
炊き出しをしてみたいと言っていたお母さん。
最近は屋敷のメイド達を引き連れて、学校の給食とかも作ってくれているのだ。
「クラウド様! 水が出る魔道具のおかげで料理と掃除がとても楽になりました!」
「クラウド様! トイレのおかげで、仕事も捗るようになりました!」
メイドたちが次々褒めてくれる。
普段はお父さんお母さんがいるから、声を掛けてこないが、僕らだけになるととてもフレンドリーに接してくる。
メイド達にとっての僕達は、幼い頃から育ててくれたからこそ、自分の子供のように可愛がってくれているのね。
夜遅くに帰って来た両親はとても楽しそうにしていた。
バレてないと思ってたけど、お母さんに「ありがとう」と言われて僕まで幸せな気持ちになって眠りについた。
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