第54話 辺境伯家への土産
「えっと…………これがクラウド様が作った新しい『トイレ』というモノね?」
本日は完成した『トイレ』を持って、辺境伯様の所に来ていた。
「はい、折角作ったので、ティナ様にも使ってみて欲しくて」
「とても嬉しいわ! お父様! ぜひ屋敷内で使ってみましょう!」
「うむ。それにしても不思議な魔道具を考えるモノだな?」
一緒に説明を聞いていた辺境伯様とご婦人が感心したように笑ってくれた。
既に辺境伯様の許可を得て、ティナ様の部屋の近くと、辺境伯様の部屋の近くに男女別のトイレを建てさせて貰った。
勿論、そこから鉄管を地中に繋いで、狢達に掘って貰い地中の大きな空洞スペースを作っている。
そこに、排泄物を処理する為に、従魔の『ジャイアントスライム』のスラに頼んで、スラの一部をそのスペースに入れて処理するようにした。
実は今までの排水を全て処理したスラは、どんどん大きくなり、名前通りにジャイアントスライムらしい大きさになった。
スラからは意識体という個体を出して、自由に歩けるようになり、離れた身体にも常に意識が繋がり、疎通出来るそうだ。
なので、スラから個体で歩ける許可を求められたのだ。
一応周りに決して迷惑を掛けない条件で許可を出したけど、聞く話によると町で困った人達を助けていたらしい。とても、ギガントクロコダイルの子供を食べたとは思えないほどだ。
そんなスラから身体を分裂出来るようになったと言われたので、初めての試みとして、辺境伯様の屋敷に増設しようと計画してみたのだ。
それと初めて知った事なんだけど、建設組の中に建設系統の才能を持っている人のスキルで、壁の中を自由自在に開けられるスキルがあって驚いた。
辺境伯様の屋敷の壁を開いて、その中に鉄管を通して、鍛冶組の力で鉄管を繋ぎ、再度壁を塞ぐ。
その鮮やかな流れに驚いていると、鍛冶組からも建設組からも喜ばれた。
どうやら僕を驚かせたくて頑張って来たらしい。
狙い通り僕は驚き、うちの職人達のやる気と高い能力がとても嬉しかった。
「あ、辺境伯様」
「うむ? どうしたのだ?」
「以前アルフレットさんから相談があった『スロリ馬車一号』の件なんですけど……」
「おお! アルフレットから報告は既に受けている。今日乗って来た馬車なのだろう?」
「はい、今日
「何と素晴らしい! 遂にあの馬車を売って貰えるとは、こんなに嬉しい事はないのだ! さあさあ、馬車の所に行こうではないか!」
辺境伯様に半ば強制的に連れられ、馬車の所にやってきた。
うきうきしている辺境伯様を見ると、新しいモノにワクワクする弟達を思い出して、少しだけ笑みがこぼれた。
ティナ令嬢も興奮して僕の背中を押していた。
スロリ馬車一号。
中の人は勿論の事、車体が殆ど揺れない為、御者も楽に操縦出来る。
更に、後部に荷台用の車体を繋げる事で、遠出でも荷物を入れられ、更には野宿用設備も完備している僕の夢が詰まった馬車だ。
ここに来るまではウル達に引いて貰ったけど、通常は馬でも十分だ。
荷台用の車体が付いていても、車体がとても軽くなったので、馬達の負担も通常馬車より軽いはずだ。本当にこの世界の魔法って万能だなとつくづく実感する。
一通り、スロリ馬車一号の説明を終えると、辺境伯様とティナ令嬢が新しい馬車にはしゃいだ。
やっぱり親子なんだなと思える瞬間だった。
「クラウドくん、ありがとうね」
「いえいえ、辺境伯様には沢山の恩義がありますから」
「あら、恩義だなんて、あの人はそんな風には思ってなくてよ?」
「そうなんですか?」
「ええ、うちのティナは昔から心を開ける友人がいなくて……でもクラウドくんに会ってからはとても明るくなったわ。母親として、あの子を救ってくれた事、感謝するわ。それはあの人も一緒だから、これからもよろしくお願いね?」
辺境伯婦人様の優しい笑顔が、辺境伯家の優しさを象徴するようだった。
二人ではしゃぐ辺境伯様とティナ令嬢を眺めながら、数分が経ち、満足したようで辺境伯様が戻ってきた。
そして、辺境伯様からとんでもない提案があった。その結果がまたとんでもない事に繋がるのだが……。
「クラウドくん、スロリ馬車の値段についてだが」
「僕としては、
「それはいかん! こんな素晴らしいモノを献上されたら我が家にも箔が付くというモノだが…………やはり、ここは一つ、支払っておかねば、こんな素晴らしい馬車が誰にでも渡ってしまうのは勿体ないのだ」
「あはは……僕は貴族の事情がよく分かりませんから、良くしてくださっている辺境伯家の為になるなら、ぜひ協力させてください」
「おお! 流石はクラウドくんじゃ。ではここは一つ…………三でどうかな?」
辺境伯様が三つ指を示した。
正直値段なんて幾らでもいいからね、三って事は、恐らく金貨三枚の事だろう。
「辺境伯様が決めてくださった値段で構いませんから! その額でお願いします」
「おお! これ程素晴らしい馬車だからな! これくらいの額なら大丈夫だろう! しかし……これだけでは足りないかも知れんな」
「へ?」
「どうだね、クラウドくん。馬車の販売権利を我々に委ねてはくれないだろうか?」
「販売権利ですか?」
「ああ、その馬車は基本的に我が家を経由しなければ、購入出来ないという権利だ」
「ん~、分かりました。でも僕の家から贈り物にしたい場合は、相談させて頂きますね?」
「それはちゃんと約束しよう。クラウドくんのベルン家に被害がいくような事はないようにすると誓おう」
辺境伯様から「誓おう」という言葉が出た時に、一瞬、ドキッとしてしまった。
最近周りから誓われてばかりだからね……辺境伯様から誓われても、こっちが困るのだ。
辺境伯様は少し邪悪な笑みを浮かべながら、何故か最初から作っていたとばかりの速さでアルフレットさんが持って来てくれた契約書にサインをした。
魔法で決められる契約なので、お互いに契約違反は、
帰り道、一緒に来た鍛冶組のカジさんから、辺境伯ほどのクラスの方と、そもそも契約を交わす事が有り得ない事だと教わった。
辺境伯様……どれだけ僕の事を気に入っているんだよ!
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