第53話 水を出す魔道具の完成

 数日後。


 スロリ町に大量の『水の魔石』が届いた。


 勿論、ペイン商会からの物だ。


 その魔石に最も喜んだのは、やはり魔技師のエンハスさん。


 自分が作った『エレメント抽出器』が遂に活躍するのだと、震えながら喜んだ。


 早速、各家に設置する前に町民全員を広場に集めて、『公衆トイレ』という場所に呼んだ。


 形は全て前世の『公衆トイレ』と同じである。


 ちゃんと男性と女性が分かれて入るようにしているというか、そもそも建物を分けている。


 更に分かりやすくして、間違わないように屋根の色を、男性を青、女性を赤にした。


 うん。これなら間違えて女性トイレに男性が駆け込むなんてないよね? そんなトラブルは嫌だよ?


「ではあちらにある青い屋根がですからね! 絶対間違わないでくださいよ? 赤い屋根がですよ! もしも……女性トイレに男性が駆け込んだ場合…………スロリ町で最も重い刑に処します!」


 僕の言葉に男性諸君から悲鳴があがった。絶対に女性トイレには近づかないとその場で誓っていた。


 因みに、スロリ町で最も重い刑は、追放である。


 隣町のアングルス町に放り出される手はずになっている。


 まあ、今までそうなった人は誰一人いないんだけどね。


「女性は事前にお母さんに説明してあるので、これからお母さんに教わってください! では男性は僕に付いて来てください。人数が多いので四回に分けますから、一区から四区に分かれてくださいね」


 町民達が速やかに並んだ。


 緊急事態の為に常に練習している一区から四区の並び方もとても速い。


 一区の男性から男性トイレの中に連れていった。


「まず、トイレの中は二種類に分かれています。簡単に見えると思いますが、まずこれが小便器です。主におしっこを出します。出し方は実演はしませんが、こんな感じです」


 僕が小便器の前で仮の実演をすると、みんなから「おお~」って歓声が上がった。


 そして、大の方も一通り説明する。


 それを二区、三区、四区と説明を終えた。


「はい。以上が男性用トイレの説明でした。これから各家にも付ける予定ですが、まずはここ『公衆トイレ』を利用してくださいね。これからスロリ町に来た旅人達にも利用して貰う予定ですので、汚さないように気を付けてくださいよ! それと、トイレ専属掃除員も募集しますので、応募者はあとでお父さんの指示に従ってください! 汚れ仕事ですので、給金は少し高めですよ!」


 こうして、スロリ町に『トイレブーム』が到来した。




 ◇




「はい、今度は流し台を説明しますね」


 今度は流し台の実演をする。


 流し台も前世と同じ作りで、蛇口が付いている。


「この『ジャグチ』と呼ばれている場所に『水の魔石』が取り付けられています。この『ジャグチ』はエンハスさん特製の『エレメント抽出器』ですので、壊さないように大切に使ってくださいね!」


「「「「はい!」」」」


「ではこの『ジャグチ』の上に付いている『ハンドル』を右に動かすと――」


 冷たい水が蛇口から出た。


「「「「おおお!!」」」」


 町民達から歓声が上がる。


「今度は左に動かすと温かい水が出るんです!」


「「「「おおおお!!!!」」」」


「これなら冬でも冷たい水で洗う必要はないんです。ですからこれからはこの『流し台』を各家にも付けますので、大切に使ってくださいね!」


「「「「はっ! クラウド様!! 忠誠を誓います!!!」」」」


 最早忠誠を誓われるのが当たり前な風景になってきた。


 そこまでしなくていいけど……町民達が楽に暮らせるようになればいいなと思う。


 スロリ町の為に町民達には頑張って貰ったからね。


 領民の為に出来る事を少しずつ増やすつもりだ。


 流し台は主婦とメイド組に特に反響が良かった。


 更に、お母さんから今までで一番褒められた。


 料理がとても楽になれるからと、凄く喜んでくれて、元々サリーに排泄物処理をさせたくなくて進めたのに、こういう事になってとても嬉しい。



 その日の夕食。


 アレンからトイレを作るきっかけは何? と聞かれて、サリーにあれをさせたくなかったからだよ、と答えると、サリーが大声でわんわん泣き出した。


 あんなに泣いてるサリーは久しぶりに見たので戸惑ったけど、サリーを囲んでお父さんお母さん僕アレンで抱きしめてあげて、久しぶりに家族で抱き合った。


 最近町民達や従魔達にばかりかまけて、家族の為に何かをしてあげる事がなかったから、トイレや流し台の完成はとても良かった。



 次の日に頑張ってくれたカジさん、ゲルマンさん、エンハスさんには約束通り、ロスちゃんの爪を一つずつ渡した。


 お父さんから決してあげてはならないと言われたから、今回渡すのは『ロスちゃんの爪で制作する権利』を渡したのだ。


 三人も元々そのつもりで、寧ろ、あげても貰えないと言っていた。


 ボロボロ涙を流している三人に労いつつ、スロリ町の改革が一つ進んだ事を喜んだ。




 ◇




 数日後。


 サリーの案で、うちの前に小さな噴水が出来た。


 普段からも水遊びが出来たり、ロスちゃんや子ウル達と遊ぶためらしい。


 意外にも噴水の水も綺麗で、従魔達の水飲み場にもなってくれた。



 更に毎日少しずつ出来上がった『トイレ』や『流し台』をスロリ森の村にも提供してあげた。


 ハイエルフ達にも大好評で、今まで木から雨水を集めて生活していたので、とても便利で助かると感謝された。


 木からの雨水は料理に使うと、とても深い風味を出す事が出来るらしく、これから集まった雨水は献上する話になった。


 お母さんの料理に手助けになるなら、とてもありがたい。


 ハイエルフ達が育てた美味しい野菜と共に、美味しい水も献上項目に追加されたのだった。





 しかし……この魔道具達の完成により……あんな事が起きるとは、この時の僕は想像も出来なかった。

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