第52話 ハイエルフ族と掟②

 スロリ森の村の広場にハイエルフ族全員が集まった。


 そのひな壇には、従魔精霊のコメから作って貰った簡易的に言葉を広げさせる拡声器を持ったクラウドが立っていた。


「集まってくれてありがとうございます。これから掟を色々変えたいと思います!」


 クラウドの言葉を聞いたハイエルフ族の皆がざわめいた。


「こほん、今まで守っていた掟を大きく変える事に抵抗がある方もいると思います。ですが、掟ばかりに縛られて、同じ領内の異種族との関わりが難しくなったり、ハイエルフ族だけが孤立するような掟は、絶対に変えたいんです!」


 クラウドの熱い言葉に、多くのハイエルフ族が感極まっていた。


「勿論、今まで通りに一族全員で多数決を取ります! ただし!!」


 直後、ひな壇の前にエマ、アレン、サリーが並ぶ。


「僕の家族も入れて貰いますよ! 一応族長となった僕の家族ですからね」


 少しだけざわついたが、ハイエルフ達は直ぐに順応し、クラウドの次の言葉を待った。



「では、最初の変更する掟は――――お肉は贈って貰ったモノしか食べてはならないです!」


 クラウドの言葉に若者達の目がキラリと光った。


「はいっ!」


 そして、前に立っているエマが手を上げた。


「発言を許可します!」


 クラウドの従魔精霊のコメの一体が、クラウドが持っている拡声器と同じモノを持って、エマに拡声器を運んだ。


「この掟ですが、まずお肉・・というのは、非常に高い栄養価を持っています! 詳しい栄養価は語りませんが……生きていく上で、向上心を生んでくれるのがお肉です! それを貰ったモノしか食べれないという掟はおかしいと思います! 私は撤廃をおすすめします!」


 既にエマの肉料理を知っているハイエルフ達からは誰一人反論が出なかった。


 直ぐに、判決を取ったが、満場一致で撤廃が決まった。



「では次です。男子は決して女子に声を掛けてはならない! 必ず女子から声を掛けるべき! です!」


「はいっ!」


 サリーが手を上げた。


「発言を許可します!」


「女の子は、男の子から声を掛けてくれるのを待ってます! なので、この掟の所為で男の子達が待たないといけません! それでは気の弱い可愛らしい女の子には厳し過ぎるのです! なので、私はこの掟を撤廃するべきだと思っています! 私はお兄ちゃんから声を掛けて貰いたい!」


 直後、全ての若い女性ハイエルフ達が一斉に賛成に手を上げる。


 その勢いに全ての男性ハイエルフ達も負けじと賛成に手を上げた。


 勿論、満場一致で撤廃が決まった。



「では次です! 結婚相手は親が決める及び他種族との婚姻してはならない! です!」


「はい!」


 アレンが手を上げた。


「発言を許可します!」


「結婚相手はお互いの気持ちが大事だと思います! なので、両親だけが決めるのではなく、兄にも決める権限が必要だと思います!」


「……ちょっと違う気がするけど、僕としても結婚相手はお互いが決めるべきだと思ってます! それに、他種族との婚姻も二人が望むなら、そこにがあるのなら、認めてあげるべきではないでしょうか!」


 アレンと僕の意見に、多くのハイエルフ達がざわめいた。


 ハイエルフ族にとっての婚姻は、とてもデリケートなモノだと思われる。


 だからこそ、ここでまとめて考えるべきだと考えた。


「はいっ」


 今度はお母さんが手を上げた。


「お母さん、発言を許可します」


「ハイエルフの皆様、まず他種族との婚姻はきっと難しい所があるかも知れません。ですが、種族関係なくお互いに愛がある事が大切だと思います。私は元々孤児です。そんな私が地方とはいえ、貴族様の正妻になる事なんて許されませんでした。人間にとって孤児は、平民以下の待遇を受けます。

 ですが…………あの人は私を迎え入れてくれました。私が孤児である事など関係ないと、何度も私にプロポーズをしてくださり……私は孤児でありながらベルン家の正妻となりました。そして……こうして、可愛い子供達にも恵まれて、クーくんにアレンくんにサリーちゃん。みんなとても誇らしい我が子です。

 私は思うのです。お互いの愛がある婚姻こそが、お互いの為であると。強制された結婚を反対するつもりはありません。それでも幸せになる夫婦も沢山いるでしょう。ですが……お互いがお互いを最初から愛しているからこそ、幸せになれるのだと思います。ですから、婚姻の自由について、よくよく考えてください」


 お母さんの説得に、ハイエルフ達の顔には戸惑いから憧れの表情が浮かび始めた。


 特に多くの女性、それもまだ未婚の女性達から強い憧れの表情が浮かんでいた。


 僕はというと、お父さんとお母さんの事を始めて聞いて、ポカーンとしていた。


 まさか……お母さんが孤児だとは思わなかったし、この世界の孤児ってそんなに無下にされるなんて知らなかった。


 スロリ町での孤児達は基本的に町民全員で世話をするのが当たり前だった。


 僕が本格的に関わっていないのも、そういう理由だったりするけど、これってお母さんが孤児だったから孤児を大切にする町になったのかも知れないね。


 前世の記憶や感覚がある僕としては、お母さんがとても誇らしく思う。


 こんな素晴らしい家に生まれて、本当に良かったと心の底から思えた。


「兄ちゃん?」


「ん?」


「そろそろ多数決」


「あっ! ありがとう、アレン」


「!?」


 アレンが急に心臓を手で押さえる。具合悪そうではないけど、とにかく今は多数決だ。


「では、多数決を取ります。二つの案を別々に取ります。まず、結婚相手は親が決めるを撤廃するに賛成の方、手を上げてください!」


 ……。


 ……。


 ……。


「では次、他種族との婚姻は認めないを撤廃するに賛成の方、手を上げてください!」


 ……。


 ……。


 ……。


 こうして、満場一致でハイエルフ族の婚姻自由化が決まった。



 それから、馬鹿馬鹿しい掟をどんどん撤廃していった。


 そもそも肉を自ら食べてはならないなんて、馬鹿馬鹿しい掟から不思議なんだよね。



 生まれた赤ん坊の世話は全部母親が面倒を見る。も撤廃。


 一族の為に命を捨てて詫びる。も撤廃。


 食卓には必ず三つ以上のおかず(野菜)を並ばせる。も撤廃。


 食事のフォークやスプーンは必ず右手だけて食べる。も撤廃。


 食べる時は必ず一口の大きさで口に入れる。も撤廃。


 お酒は飲んではならない。も撤廃。


 困っている他種族を助けてはならない。も撤廃。


 村の外に出る時は必ず二人以上で出掛ける。も撤廃。


 家は必ず木の上に建てる。も撤廃。



 その他にも色々と撤廃した。


 寧ろ……撤廃してない掟を探す方が難しい。


 この掟を作った人って余程神経質に見えるね。

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