第51話 ハイエルフ族と掟①
スロリ町も落ち着いて来たので、今度はスロリ森の村にやってきた。
『学校』の事もあって、あまり森には来れてなかったけど、ちょいちょい報告は聞いていて、意外にもレーラさんを主軸に若者が一致団結していて、それをヘリオンさん擁する大人組が全力でバックアップしているそうだ。
スロリ町の進展にも心を打たれているみたいね。
「クラウドくん!」
「レーラさん~」
木の上からひとっ飛びで僕の所に飛んできた。
風魔法を常に使えるハイエルフ族ならではの身軽さだ。
「美味しい野菜、順調に育ってるよ!」
実はハイエルフ族に出来る事を考えて貰った時、狩りよりも風魔法や森を利用して森を発展させて、野菜を育てようって事になった。
「それはとても楽しみです、先日食べた美味しいキノコとかあったらいいなぁ」
「キノコ?」
「はい、大きなキノコで、ステーキみたいにして食べたらすごく美味しかったので」
「あ~キノコでステーキと言えば、ジャイアント茸かな? うちらも肉の代わりに良く食べていたからね! 美味しいジャイアント茸を楽しみにしておいて!」
「それはとても嬉しいです! 楽しみにしてますね」
レーラさんだけでなく、聞いていた他のハイエルフ達もやる気になってくれた。
「あ、レーラさん」
「ん? どうしたの?」
「そう言えば、以前お願いした『掟』について教えて欲しくて」
「あ! そうだったね。ちょっとだけ待って貰える? 今やってる仕事すぐに終わらせてくるね!」
「分かりました」
「うちの中で待っていて!」
そう話したレーラさんがまた風魔法で颯爽と去って行った。
僕は言われた通り、レーラさん家にお邪魔した。
「クラウド様、いらっしゃいませ」
レーラさんの家ではヘリオンさんの奥さんが出迎えてくれた。
「ライサさん、お久しぶりです。レーラさんが後から合流するから待っていてと言われまして」
「はい、どうぞ。今、お茶を淹れますね」
「ありがとうございます」
丸太の上にキノコの傘が乗っている椅子に座った。ふかふかしてて、高級ソファーみたいな椅子だ。
丁度隣には見渡せる大きな窓があって、スロリ森の村を一望出来る。
木の上に家があるから、高い場所から見下ろした森とその先の平原がとても美しかった。
すぐに優しい香りがふんわりと広がり、ライサさんがお茶を淹れてくれた。
爽やかな味のお茶を飲みつつ、ライサさんから森の村の現状を少し聞けた。
どうやら、引っ越して来てからやる気があまりなかった大人達も若者達も生き生きとしているらしい。
毎日がお祭り騒ぎと言われた時、お祭りの事が頭の片隅によぎった。
そう言えば、スロリ町ってお祭りとかないよね? 今度、お父さんお母さんに聞いてみようと思う。
お茶を二杯目頂いていると、ノックの音がしてライサさんが出迎えると、ドライアードのイアがやってきた。
「クラウド様、いらっしゃいませ」
「イア、いつも森の事、ありがとう」
「いえいえ、これはわたくしの使命ですし、この森はとても楽しいのでございます」
「そっか、イアも楽しんでくれているなら良かった」
イアはふふっと優しく笑った。
すっかり身体が縮んで、僕と同年代の女の子に見える。
イアが来て直ぐにレーラさんも帰って来た。
「クラウドくん! お待たせ!」
「レーラ! クラウド
レーラさんが帰って来てすぐにライサさんに怒られた。
「あはは、大丈夫ですよ。僕としてはあまり『様』と呼ばれるとこそばゆいので」
「ほら! クラウドくんもそう言ってくれてるし、いいでしょう!」
「まったく……この子は……」
溜息を吐きつつ、レーラさんのお茶も出してくれると、僕達四人はテーブルを囲んだ。
「今日はハイエルフ族の掟に関してだったよね?」
「はい、どんな掟があって、ハイエルフ族にとって掟とはどういうモノなのか教えてください」
「掟はハイエルフ族にとって、絶対に守るモノだわ……正直私には理解出来ない掟も多々あるけれど、それでもハイエルフ族にとっては誇りでもあるとお父さんに言われて育ったから、そうなんだろうな~と思うのが正直な感想かな」
「レーラ……貴方は幼い頃からいつも掟に疑問を感じていたわね」
「うん……それでいつもお母さんに怒られたけど、それは今でも変わらないよ」
前世では法律という言葉がある。
沢山の人が法律に沿って生活をし、弱いモノが守られるが、必ずしもそうとは限らない。
実はそれが一番大きく出ていたのが、僕が目指していた建設業。
法律やルールなど、結局はより富豪の為のモノでしかなかった。
それでも生きる為、皆が懸命にルールに従いながら精一杯生きていたはずだ。
僕もそこに身を置こうとした矢先に、こちらの世界に来てしまったから、実際体験したかと言えば、してはいない。精々……実習の時に色んな方から実情を聞いたくらいだ。
今回、森の村でのレーラさんの言葉に、何処か彼らの面影を感じた。
良くする為に決めたルールが、いつしか誰か一人の為のルールになって、それが浸透して我慢を強いられるようになる。
ハイエルフ族の掟からは、そういう雰囲気を感じずにはいられなかった。
「でも、掟が全て悪い事だとは思わないかな? 大変な思いをするときもあるけど……全部が全部嫌いではないよ」
「分かりました。掟ってどうやって決めて、どうやって変えているんですか?」
「えっと、基本的に族長が掟を決めて、一族全員で多数決を取って掟にするかしないか決めるかな? 今まで決めた掟が決まらなかった事は今までないのと、掟を変える事は今まで一度もなかったはずだね……あ、一回だけあるかな?」
「へぇー、一回だけあるんですね? どんな掟ですか?」
「うん。族長は決して外部の種族にしないという掟だよ」
「え!? それって僕の事ですか?」
「うん! 実はこの掟、クラウドくんが森の村を離れてから多数決取ったけど、既にその時には族長に決まっていたし、やっぱり誰も反対しなかったよ」
「そ、そうだったんですね。ヘリオンさんには申し訳ない事をしてしまいましたね……」
それを聞いたライサさんが口を開いた。
「いいえ、あの人はとても嬉しそうにしていたわ。いつもなら厳しい人なんだけど、何だか物凄く柔らかくなりましてね。族長や掟に強い責任感を感じていた事でしょうから、その重い荷を下ろして、今は楽しく過ごしていますよ」
あの村は300年くらい経ったらしいし、『風神の短剣』の持ち主が現れず焦っていたのもあるかも知れない。
ヘリオンさんが族長として、次を担う若者達の苦悩をよく理解している節があったから、きっとそういう事なのだろうね。
それからレーラさんによる掟の中身ついて、教えて貰った。
全てを紙に書きながら、僕の頬には止まらない涙が流れた。
一体……誰がこんな掟を決めたのか知らないけど、ハイエルフ達は今までよくこんな掟で過ごして来たのだと改めて知る事が出来た。
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